30 CARAT アリアの作戦

 ―◆Romio side◆―


「はあああああああっ!」


 ジュリが斬った魔獣の腹は血しぶきをあげた。同時に、魔獣は苦しむように暴れだした。

 毒性の魔法で動きを封じるガーネット。

 ナイトは魔獣の体から離れることができたので、剣を取り出し戦う。

 結界が解けたのか、ブラウンを含めた街の剣士たちが魔獣の元へ向い一緒に戦っている。

 このくらい戦力があれば、魔獣は問題ないだろう。

 ナイトと同じく魔獣から離れることができた俺は、離れた場所から傍観しているアリアの方へ。


「んーこの調子だとだめかなあ。作戦失敗! だけど諦めず次も頑張るよー! おー!」


 独り言のテンションが高すぎる。


「アリア」


「ん? あーロミオくん! どうしたの?」


 まるで友達のように、自然に不自然な笑顔を見せる彼女は、やっぱり妖精とは言えない。

 自分の街がぐちゃぐちゃなこの状況で、笑顔になれる国の長なんて、この世界をよく知らない俺でもわかる。

 異常だ。


「なんでこんなことをするんだよ」


「んー? 作戦だよ、作戦! ジュリちゃんを追い詰めれば、ジュリちゃんと親しいっていう、ロミオくんやナイトくんが同情して封印石を出現させてくれるとおもったんだけど」


「そうじゃなくてだな! お前はこの国の主だろ! なんで――」


 俺の声が聞こえないのか、アリアは話を続け、妙なことを言った。


「出現させてくれると思ったんだけど、二人とも、魔力っていうかマナっていうか、そーいうのをぜんっぜん感じなかったんだよねー。魔力がないんじゃ当然、封印石を呼び出す電波? みたいなものが出ないよね! これは提案した私の失態だった! マオウサマに怒られちゃう〜!」


 わざとらしく落ち込むふりをするアリアの行動なんて、どうでもよかった。


 ――二人とも。


 その言葉に引っかかる。

 俺が呆然としていると、アリアは「またねー!」と言って行ってしまった。


 またこんな目に逢いたくはねえよ。


 ―★―


 ナイトたちが魔獣を倒し終わる頃、馬車に乗ってやってきたのはマリーニャ王だった。


「マリーニャ様!」


 誰かの声で、町民が一斉に振り返る。


「アリア様はっ!」


 駆け寄ってきたマリーニャ王は、あたりを見回す。アリアを探しているのだろう。


「王様……アリア様は行ってしまいました」


 ジュリが答える。

 アリアが去った後、ジュリもしばらくあいつを探していた。

 最後に会話できたのは、俺だけだった。


「そっか。うん。やっぱりアリア様は、私と会ってくれないんだね」


 アリアなりに罪悪感を抱いているのだろうか。

 仲が良かったというマリーニャに、今の自分の姿を見せたくないとか。そんなことを思っているのかもしれない。

 そうだったらいいのにな。

 けれど、この町をボロボロにしておいて笑顔でいられるアリアには、そんな罪悪感なんて微塵もないように感じる。


「王様……」


 ジュリはかけるべき言葉に迷っているのだろう。マリーニャ王はきっと、アリアに会えると思って急いで来たのだから。


「ごめん。取り乱してしまったようで。もう大丈夫」


 マリーニャ王は「国から町復興の支援金を出すよ」と言ってから、馬車に乗る。

 そして、ジュリと俺、こちらに駆け寄ってきたナイトを交互にみる。


「油断しないように。今回のように君たちに何かを仕掛けてくることがこの先あるかもしれない。絶対に負けないで、必ず変えてほしい」


 変える。何を? もちろん、この世界をだ。

 黒の水晶と魔王によって怯えられているこの国を、世界が変わってしまうほど強力な力の放出を、阻止する。それが、俺たちがやろうとしていることの、意味だ。


「「「はい」」」


 俺たちは、短く返事をする。

 マリ―ニャ王は、頷くと、城の方へ帰っていった。


 まずはアリアだ。

 アリアをどうにかするには、エメラルド王国からルドとメラルを連れてこの国へ戻ってくること。

 アリアを魔王の戦力から取り除くことができれば、少しは魔王の目的も果たしづらくなるだろう。

 ただし、魔王一人にはならない。

 魔王にはもう一人、仲間がいる。今回の魔獣の暴走も、その仲間が関係しているはずだ。

 もう本当に、魔王じゃないか。あいつ。

 もう一人の俺とは思えないほどの行動力のある奴だな。

 まあ、俺もこの世界ではだいぶ行動してるけど。


「ジュリちゃん、大丈夫?」


「はい。私は……。私より、ロミオくん、ナイトくん、怪我はしてませんか? 私、すぐにお助けすることができなくて……すみません」


 ナイトのジュリへの心配たぶん、体のことじゃなくて心のことを言ってるのだろう。でもまあ、俺たちを心配できるってことは、大丈夫なんだろうな。


「俺は大丈夫だ。この前買った杖で回復魔法をかけたから」


「僕も大丈夫! もともと鎧が固いからね。ちょっと壊れちゃったけど、後で買うから平気だよ」


 さすが元騎士。体が丈夫で羨ましい。

 俺は回復魔法後も結構痛いんだけどな……。

 まあ、それを言ったらジュリに心配されるから、言えるわけないけど。


「よかった。私はちゃんと、お二人を助けられたんですね……」


「騎士のくせに守るべきジュリちゃんに助けられるなんて、我ながら見苦しいところを見せちゃったね。うん、ありがとう。ジュリちゃん」


 何もなくてよかった。

 俺みたいなやつが自分のことを棚に上げてジュリに怒鳴ってしまったけど、結果的に、ジュリの力になれただろうか。

とにもかくにも、自分を信じて、決断をして、戦ってくれたジュリのおかげだ。


「ありがとな。ジュリ」


「ロミオがお礼を言った⁉」


「ほほ、本当に、ロミオくんですか……⁉」


「うるせえな!」


 ―★―


「ジュリちゃん、お疲れ。強くなったな!」


 ブラウンは、まるで親のように嬉しそうな目で、ジュリに声をかける。

 まあ、ジュリを一番近くで見てきた町人の一人としては、ジュリの活躍が嬉しいのだろう。


「あ、ありがとうございます! ブラウンさん」


「お、そうだ。ジュリちゃんの連れだろ。この子。……ジュリちゃんのこと、思っててくれてたみたいだぜ」


 ブラウンの後ろから、光のない目をした少女が出てきた。ユーナだ。

 心無しか、いつもより目の色が暗い気がするが……気のせいだろうか。


「ユーナちゃん……それは」


 ジュリの視線にあるのは、ユーナが両手で持っている小さな石の欠片。

 俺にはさっぱりだが、光り輝くそれは謎の存在感を放っていて、ジュリやナイトも目を見開いて驚いている様子だ。


「……ナイト、あの石、なんだ?」


 俺は、隣のナイトに小声で聞く。

 驚きを声に出していない限り、何か特別な事情がありそうだ。


「封印石だよ。あまり騒ぐと魔王たちに勘付かれるから、あまり驚かないでね」


 封印石……か。

 仕組みはよくわからないが、封印したり、その封印を解除できたりする石のようだ。

 アリアによると、俺みたいな、魔力を持っていない奴には呼び出すことができないみたいだが……魔力を持っていれば誰でも呼び出すことができるらしい。ただし、呼び出した後もう一回呼び出すことはできない。だから、魔王は集めているんだろうな。


「ユーナちゃん、これ……」


 ジュリは確かめるように石を見つめる。ナイトは周りを見渡して魔王やアリアがいないか確認する。

 そんなにキョロキョロするくらいなら、別室に行ったほうがいい気がする。


「とりあえず、ガーネットの別荘に……あ」


 言ってから気が付いた。

 ガーネットの別荘は、ボロボロだった。もう原型をとどめていないくらいに。

 俺とナイトが魔獣に捕まったのは別荘を出てすぐだったから、当然っちゃ当然だ。


「いいのよ。アリア……様、はいらないわね。アリアの結界に吹き飛ばされた人もいて、怪我人はさすがにいたけれど、命に別状はなかったわ。別荘くらいまた買えばいいのだし」


 別荘くらい……? 金持ちの発言はよくわからん。

 けれど、ガーネットにとっては、資産よりも家族同然の村人たちの命を大切にしているのだろう。


「じゃあ、俺の家によってくか? 狭いけど、すぐそこだから話をするには適してると思うぜ」


 ブラウンの提案に、異論はなかった。

 封印石について、俺にはわからないことが多い。これを機に色々聞いておいたほうがいいかもな。


「ただ、少し静かに、な。娘が寝てるから」 


 娘……。

 そっか。ブラウンには娘がいたっけか。悪魔に呪われたという、植物状態の娘が。










 

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