28.5 CARAT 空白の初デート
―◆momizi side◆―
あー、どうしよう。緊張する……。
服を選ぶのに一時間もかけるなんて、我ながら張り切りすぎ。
普段ボサボサの髪もとかしたし、化粧も路美尾が言ってた控え目で仕上げたし!
「あいつ、覚えていてくれたんだな……一周年」
桜木もみじと、王子路美尾が初めて出会った日。
あたしの人生が、変わった日。
……いいや、始まった日、だったかな。
毎日のように無駄話をするような一年だったけど、それでも、あたしにとっては宝物のように輝いた日々だった。
これからも、そんな日々が続けばいいのに。
しばらくベンチに座っていると、後ろから足音が聞こえた。
あいつ、起きたままの格好で来たりしてないよな?
あたしがこんなに気合いれてるのに、いつも通りの感じで来たりしたらぶっころす!
初デートなのに!
向こうはそんなこと思ってないんだろうけどさ。
まあ初デートだろうが緊張していようがなんだろうが、いつも通りに話しかけて――。
「桜木ちゃん」
「……は?」
あたしの前に現れたのは、路美尾じゃなくて鈴木智乃だった。
なんで……そんなバツが悪そうな顔をしてるんだよ。
「桜木ちゃん、王子くんは来られないって」
高鳴った胸が、一瞬にして地に落ちた気分になった。
「ああ、そう」
最初に出た言葉は、そんな、どうでもいいような、ふわふわとした返事だった。
「なんだ、忘れられたのかと思った。まあ最近付き合い悪いし忙しいのかとは思ってたけどさ、流石にドタキャンするとかあいつ、ぶっころす!」
「王子くんは今、大切な用事があるっていうか……いや、桜木ちゃんとのデートが大切じゃないとは言ってなかったんだけどね!? まあその、今度あったとき、王子くんの言葉を聞いてほしいの。王子くん、今色々と複雑な立場にいるみたいだから。じゃなきゃ、桜木ちゃんみたいなかぁわぁいい女の子の誘いを断るはずないもん! ほらよしよーし! お姉さんが慰めてあげよぅ〜!」
「ち、近づくな! あたしに近づいていいのはミオだけだから! ……あとアンナもか」
「おぉーバイト仲間かな? ずいぶん仲良くなったみたいだねえー?」
「いやいや、あいつが勝手にベタついてくるだけだし!」
「桜木ちゃん、無理してない?」
会話の流れとか関係なく、鈴木智乃がそんなことを行ってくる。
「は? 何がだよ?」
無理してるよ。楽しみだったんだから。
「別に無理なんかしてねーし、また誘えばいいだけだし。てかあいつから誘ってくんねーかな!」
辛いに決まってる。カフェとか色々調べてきたし、友達らしくゲームセンターとか行きたかったし。映画館にも行きたかった。
「でもあれだな。あいつそういうとこ気が利かねーから、またあたしが誘って、今度は逃げられないように当日にでもいくかな!」
告白だって、しようと思ってた。
だから、朝からずっと緊張してて、けど決意して……だから……。
「桜木ちゃん、無理しないで――」
「なんであんたが全部知ってるんだよっ!」
あたしは泣いていた。怒鳴っていた。
鈴木智乃に向かって、どうしようもない怒りが湧いてくる。
路美尾が何か隠してることはわかってた。
けど、路美尾が言いたくないなら、無理に言わすのも悪いと思って、言わなくていいって。
なのに、目の前にいる鈴木智乃は、ミオの大家さんなだけのあんなやつが!
なんで――。
「なんでいつも、王子路美尾のことをお見通しって感じでいるんだよ! ミオが、路美尾が大好きなのはあたしなのに!」
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い――。
「あんたみたいなやつ、大嫌いなんだよ!」
鈴木智乃だけは、大嫌いだ。
いつもふざけてるのに、時々優しくて。
そうやって聞き出したんだろ。路美尾が話したがらなかったこと。
あたしが聞きたかったこと。
「……桜木ちゃんっ」
「じゃあな、ミオが来ないんならもうここに用はないし」
鈴木智乃がなにか言いかけたけど、あたしは遮った。
涙を袖で拭って、鈴木智乃の横を通り過ぎて、一度も振り返らずに公園を出た。
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