26 CARAT 記憶と夢のつながり
―◆ ――side◆―
「王様って、あの魔王だったりしません?」
不気味な笑顔で僕の顔をみる彼女の目を見て、柄にもなくゾクッとした感覚が体中に響く。
「何を言っている? 国を治める私が、世界の敵だとでもいうのか?」
「そんなこと言っていませんよ。……むしろ、私の仲間だと思っています」
……何を言っているんだ?
目の前の金髪エルフリリーは、確かあの面倒くさい青髪エルフマリンの先輩だったはず。
前々からマリンと違って何を考えているか読み取れない部分があった。
今、まさに何を言っているかわからない。
「では教えるわ。わたくしは本物の魔王、黒の水晶様の復活を目論む者。元、黒の水晶幹部、思想操作の上級悪魔、ブラックダイヤモンド」
「……へぇ」
もはやリリーと言う女兵士の面影はどこにもなかった。
ここは本性をむき出しにして話し合おうということか。おもしろい。
「ちょっと難しい説明だったかしら? 簡単に言えば人からそうでないものにまで、洗脳ができるわ。今まで通りリリーと呼んでくれて構わないわよ。黒の水晶様に一番距離が近い悪魔の一人だってことを覚えてくれればね」
まさか自我を持つ悪魔がこの世に存在していたなんてね……。
妖精に続き、黒の水晶の側近まで現れるとは。
「あなたを手伝ってあげましょう。国王様」
「そう言って僕を騙すつもりとかではないよね? 洗脳の悪魔とか、怪しすぎるにも程があるよ」
「もちろん。そもそも黒の水晶様が復活されない以上、わたくしの力は限られているもの。妖精の力を宿したあなたには、わたくしなんかでは太刀打ちできないわ」
妖精の力……。
ふぅーん。そこまで知ってるんだ。面白いじゃないか。
それもそうだな。いざとなったらアリアがいるし大丈夫だろう。
「わかったよ」
僕は今までつけていた仮面を外す。
「それにしても、随分と雰囲気を変えていたのね」
「それはそうだよ。僕は世界中の敵だからねぇ」
「黒の水晶に願い事をするとどうなるか、知らないわけではないわよね?」
「勿論知ってるよ。僕は魂を食べられてでも、彼女を此処に連れ戻したいんだ」
僕が彼女を助け出すんだ。
もう一度、会いたい。魂を食われる前に、一度だけでいいから。
あの日の約束を叶えようではないか。
僕は、自分の魂なんていらない。
――僕の、大切な人を連れ戻すためなら。
―◆ Romio side◆―
目を開けると、アパートのベットだった。
「いつの間にか寝てたのか」
それにしても……。
今のは、夢、だったのか?
王座に座る自分に、髪の長いエルフ。
夢の中で、何か、何かを言っていたような……。
上手く思い出せない。けど、さっきから胸が締め付けられるような感覚に襲われている。
彼女を助け出す。
……そうだ。魔王だ。今の夢は、魔王の記憶だ。
全部は思い出せない、けど、黒の水晶の話をしていた気がするし、エルフは、この前水晶を使ってナイトが再現をした人と同じ口調の、同じセリフを言っていた……気がする。
俺は慌てて水晶を取り出した。
水晶は、真っ赤に染まっている。
今まで青や緑に染まるのを見たことがあるが、赤はない。
やっぱり、さっきの夢も水晶の力の一部なのか。
夢の中で、魔王の記憶を再現する力……か。しかも、リアルタイムではなく、時間を遡った出来事の記憶。
毎回は見ないが、この夢を記憶していけば、魔王のことを少しでも知ることができる気がする。
「王子くんおはよ……えぇ? 王子くんその包帯どうしたの!」
「触らないでくれます? あと普通に入って来るなください!」
智乃さんが勝手に俺の部屋に入り、勝手に俺の腹部の包帯に触ろうとしてきた。
イライラしてつい敬語を忘れるところだった。
「ちょっと斬られにいっただけです。もう治りました」
痛みはもう全くない。火傷の時もだけど、一晩で治るなんて、ユーナの治癒魔法はすごいな……。
俺がベットに座り直すと、智乃さんは隣に座ってきた。
「前に智乃さん言ったじゃないですか。俺にしかできないことをやれって」
「そっか。その結果に、王子くんが満足しているのなら、私はよくやったって言ってあげるよ」
真面目なときにはちゃんと真面目な智乃さんをみると、大人としてのかっこよさがあって、だからこそ何でもかんでも話してしまうのかもしれない。
「けど、本当に死んじゃったらお姉さんは悲しいから、無理はしちゃだめ! オーケー?」
指で×を作って俺の顔をのぞき込む智乃さんに「わかってます」とだけ言って、俺は立ち上がり部屋のドアにかけられたカレンダーを確認した。
「今日、か」
「んん~? なになに、桜木ちゃんとデート?」
カレンダーみただけなのに察しが良すぎるだろこいつ……。
「別に、ただ遊びに行くだけですよ」
「それをデートだっていうことはおわかりだよね、王子くん」
さっきまでの真面目な智乃お姉さんはどこへやら、にやにやと俺をいじってくるので、俺は素早く仕度をしてドアを閉めた。
「王子くん! 忘れも……」
ドアの向こうで、急に智乃さんの言葉が途切れた。
「智乃さん……?」
智乃さん、忘れ物って言いかけてたような……。
まさか、水晶か! 起きて取り出した水晶を置きっぱなしにしたままだったかもしれない。
俺がドアをもう一度開けると、智乃さんは静止したまま立っていた。
相手の許可なしに記憶再現をみるのはあまり乗り気じゃないが、仕方ないか。
「ねえねえ、あなたの嫌いなジュリちゃんが悪魔の呪いにかかったみたいだよ? これは封印石を呼び出すチャンスだよね!」
こいつは……アリアか? アリアじゃないにしても、この前ジュリに再現をして貰った時の人物と口調が似ている。
「悪魔の力と妖精の魔法を合わせたら、あの魔獣はどうなるかなっ? さっそく実験しよう!」
大きく「おー!」と手を上に上げたポーズのまま、止まる。
しばらくするときょとんとした智乃さんが「あれ?」とか言いながら自分の手を見上げていた。
悪魔と、妖精……?
それって、悪魔も妖精も魔王の味方をしているってことじゃないか。それに……。
って、そんな分析をしている場合か!
「お、王子くん、なんかお姉さん、さっきからの記憶が曖昧なんだけど……」
「それは後で説明しますから、水晶に触るのはやめてください。それよりも」
俺はベッドに転がった水晶玉をしまうと、自分の頭を指さして智乃さんにダメもとでお願いしてみる。
「智乃さん、俺を気絶させてください。ここを思いきり殴るのでいいですから」
「え? だ、大丈夫王子くん、頭でも打った? 頭打ってドMに目覚めた? 私はキャラ探し中だけど、Sキャラは目指してないよ?」
「目が覚めてて寝るには時間がかかる。一刻も早く、ジュリ達に知らせないといけないんですよ」
「で、でも、桜木ちゃんとのデートは……」
「行けないって伝えといてください。いつもの公園にいるはずですから。あとで、ちゃんと謝ります」
魔王が何かを企んでいるのなら、今日中に実行するに違いない。今の再現は明らかにやばかった。ジュリだけじゃない。魔獣なんかが町に出没したら大騒ぎになるはずだ。
こんな気持ちのまま桜木と会ったりなんてしたら、それこそ申し訳ない。
「いや、でもね、よぉーく考えて、お姉さんは三一歳。王子くんは十六歳、王子くんをぶったりして気絶なんてさせたら、警察に突き出されちゃうよ! 隣にお父さんいるし!」
あー、そういえば隣の住人は智乃さんの父親だったっけ。
「大丈夫ですよ。俺はあっちの世界に行くんだから、誰か音に気付いて入ってきても、証拠は一つも残りません。残るとすれば、智乃さんの不法侵入くらいです」
「しょうがないなぁ。軽めの睡眠薬を飲ませてあげるよ。すぐには起きれないと思うけど、気合いで起きて!」
智乃さんは素早くコップに水を入れを睡眠薬をカバンから取り出した。
この人なんで睡眠薬を持ち歩いてるんだ。怖い。
とにかく、智乃さんが気絶させてくれない以上、これを飲むしかないか。
俺が水を一気飲みすると、智乃さんは俺の目を見て真剣な眼差し言った。
「王子くん、君のいるべき場所がどこか、よく考えてね」
「智乃さん、それって、どういう……」
「じゃ、不法侵入って言われたら困るから智乃お姉さんは公園によってから一旦帰ります! 気を付けるんだよ、王子くん!」
俺の質問に聞こえなかったふりをして、智乃さんはそそくさと外へ出てしまった。
自分のいるべき場所……か。
俺はベッドに横たわり、眠気が来るのを待った。
―★―
目を覚ますと、ナイトが自分のベッドでメモ帳を凝視している最中だったようで、俺の存在に気付いてもいない。
何をそんなに一生懸命メモ用紙をめくってるんだ……?
「おいナイト、何やってるんだよ」
「え? ロ、ロミオ? 今日はこっちじゃないんじゃなかった?」
「無理矢理戻ってきた。ジュリが危ないかもしれないんだ」
俺はアリアだと思われる魔王仲間が、智乃さんの再現で言っていた言葉をナイトに伝える。
ついでに夢のことも覚えている限りは話した。もう一人、魔王に仲間が増えたこととか、夢の中で魔王が言っていた、「彼女を助け出したい」という言葉。
「魔王は誰かを助けるために、黒の水晶に願いを叶えてもらおうとしてるってこと?」
「そうだな。俺は夢をみた日は夢の内容を覚えてる限りメモしていくつもりだ。そうすれば、魔王の目的も見えてくるかもしれない」
目的が分かったところで、やることは一つだけどな。
魔王を止める。魔王を本当の魔王にしてはいけない。
「前にも夢をみたことがあるんだが――」
今までは鮮明に残っていた記憶。それが今朝の夢は曖昧になっていた。そのあたりを説明すると、ナイトが言うには、
「魔王がその記憶を鮮明に覚えているか、覚えていないかの問題じゃないかな? ロミオがはっきり覚えている夢は、魔王にとって思い出したくなくても思い出してしまう思い出とか、逆に大切な思い出とか。今日見た夢は、魔王にとってはそうでもない記憶なのかも。だけど、夢として思い出すくらいには重要な記憶、だとか。」
ということらしい。
目の前に悪魔が現れてそうでもない記憶なのかよ……。
……じゃない! 今話すべきことはそのことじゃない。
「ナイト、ジュリはどこだ? さっき言った通り、アリアらしき魔王の仲間が何か企んでいるみたいなんだ」
「そ、それが、目が覚めてジュリちゃんの部屋に行ったんだけど、いなかったんだ。だからさっき起きてたはずのロードがメモに何か書いてないか見てたんだけど……やっぱり白紙だった。細かいことでも報告するようにいつも言ってるのに」
時計の針は11時か……。
現実世界で目覚めたのが7時くらいだとすると、あれから4時間くらいたってる。
さすがにやばいな。今朝魔王がどこにいたのかは知らないが、そう遠くにもいないはず。
「探しに行く」
「うん、悪魔と妖精の力を合わせるとか言ってたんだよね。もしかしたら普段結界で入ってこない魔獣が町に入ってくるかもしれない。その前に、ジュリちゃんを探そう」
―★―
「ジュリ? ジュリならさっき、町の広場で魔法の練習をするって言って出て行ったわ。あまり気が進まなかったけど、悪魔に呪われた状態でしばらく過ごすことになるのだから、慣れるためにも必要だと思ったのよ」
ガーネットから聞いた話によると、ユーナもついていったらしい。そういえばユーナも部屋にいなかったな。
「広場、とりあえず広場に行こう、ロミオ!」
「ああ」
広場まで走って10分くらいだったはず。何事もなければいいけど……。
――別荘を出た瞬間、視界が真っ暗になった。
最悪なタイミングで、ソレは現れた。
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