24 CARAT 俺のやり方

 ジュリ、ナイト、ユーナと俺は、町の人に軽く情報を聞き出しながら、城へ向かっていた。


「あんまりいい手がかりはありませんね」


「昨日探してもあれだけだったから、仕方ないよ」


 落胆するジュリを慰めたナイトは、興味深そうに手にいれたエメラルド王国の新聞を見つめている。


「魔王に関してはなにもないけど、新しい聖騎士の話が広まってるらしいね」


「ああ、ナイトの代わりか」


 聖騎士であるナイトが抜けたことで、国王が代わりを探し出すという内容だった。

『国王は、「聖騎士に加えて、新たな騎士を全種族から探し出す方針だ」と述べている。』

 ……あれ?


「なあ、エメラルド王国って」


「うん。ロミオが知ってるなら、言いたいことはわかる。全種族、つまり人間だけでなくビーストやエルフの加わった騎士団を、国王様と……おそらくルドは、作ろうとしてるんだ」


 横を歩いているユーナが前にした話によると、ビーストやエルフは、かなり前から差別されてきた種族だったはず。 

 国王や妖精がそれを決めたところで、今まで差別してきた人間がどう思うかわからないけどな……。まあ、エメラルド王国の差別というのが、どれほどの力を持ってるのか俺はわからないけど。


「ちょっと心配だね……」


 ナイトは、そう言い残すと新聞を懐にしまって城の方へ歩き出した。


 ―★―


「顔が特定されていない王……か」


 マリーニャ王は、しばらく考え込んでした。


「この国の同盟国にはいないと思うよ。……ただ」


 そう言うとマリ―ニャ王は立ち上がり、何か、確信したようにつぶやいた。


「誰とも同盟を組んでいない国なら、知ってるよ」


 誰とも同盟を組んでいない国……?


「そもそも同盟は、それぞれ相手に味方だということを伝える行いでもあるからね。誰とも同盟を組んでいないということはつまり、そういう場合も考えられるよ」


 ”そういう場合”というのは、王が魔王と呼ばれる男であること。ということだろう。


「あ、あの、その国って……」


 ジュリがおそるおそるといった様子でマリーニャ王に国の名前を聞き出す。


「絶対に、今は近づくときではないよ。アリア様がそこにいるかもしれないのだから」


 マリーニャ王は、忠告をしてからその名前を言う。


「ダイヤモンド王国。それがおそらく、彼のいる場所だね」


 ダイヤモンド王国……。

 聞いたことがない名前だが、ナイトだけは反応した。


「なるほど……。それなら、魔王がよくこの国にくることの辻褄が合いますね」


「どういうことだ?」


 俺の質問に、ジュリも耳を傾けるようにナイトの方をみた。ユーナはマリーニャ王の方を向いたままだ。俺はこの世界に来たばかりだし、ジュリは記憶をなくしていたらしいし、他の国のことについて詳しくない。

 もともとこの世界のことを知っているユーナはわかっているのかもしれないな。


「ダイヤモンド王国は隣の国だからだよ」


「隣の国……?」


 隣の国と言われて、いまいちピンとこない。単純に考えれば、隣の国なら一番近く移動もしやすいということなんだろう。ジュリも「なるほど」と言いながら納得しているし。

 けどここが、この世界が、俺がいた世界のパラレルワールドか何かだとしたら、リスタル王国は地球の中の日本ではないのか、と勝手に思っていたからだ。

 日本は島国なわけだし、隣と言ったら台湾あたりだろうか?

 それとも、地球の作りが違ってしまってるのだろうか。


「二人にはあとで地図を見せるよ」


 わかって無さそうな俺に向けてだろうか。ナイトはそう言って、またマリーニャ王の方を向いた。


「僕たちは、一旦エメラルド王国に行きます。魔獣や悪魔関係も事例が最近、多いようなので」


「エメラルド王国……か。なら、少し頼みがあるのだけど、聞いてくれるかな?」


「何でしょうか?」


「メラルとルドを、ここへ連れ出して来てほしい。もちろん、あちらの王様同意のもとで」


 ―★―


 魔王のもとについているとするアリア。まだそうと決まった訳ではないが、その可能性は高い。

 人間が何百人いた所で勝てない妖精の力だが、エメラルド王国の妖精の力をかりれば、取り抑えられる可能性は十分にある。

 汚れた心になってしまった妖精は、人より強くても、純粋な妖精の力には勝てない。

 マリーニャ王は、そう言っていた。

 なので、メラルとルドの力を借りて、アリアの問題を先に解決するつもりらしい。


 そんなことを思い出しながら、俺たちは出発の準備として武器屋に来ていた。

 ジュリのおすすめらしく、武器、鎧、魔道具、薬草や仕かけ、宝石が売っているらしい。武器屋なのにラインナップが多い。


「うーん。まずロミオは、魔力を持っていないんだよね?」


「まあ」


 どうやらこの世界は、空気中に魔力が散らばっているわけでもなければ、生まれた時から魔力を持っているわけではないらしい。

 いまいちピンと来なかった俺に、ナイトは武器を見ながら付け足して説明する。


「本当に魔力があるのは、宝石だからね。それを生後二週間以内に魔法で埋め込むんだって。僕の場合はロードナイト。ジュリちゃんは?」


「私はラピスラズリらしいです。宝石が埋め込まれてるって、なんだかすごいですよね」


「なるほどな……ユーナは?」


 俺の問いかけに、若干の間を空けてユーナは答える。


「グリーンガーネットです。ガーネットは名前の通りガーネット。ファイさんはサファイアです」


 本当に皆、宝石の力が体の中に流れてるんだな。

 じゃあ、俺には魔力を使うことは無理ってことじゃないか。剣なんて使いっこないし、俺はどうしたらいいんだ。


「魔法が使えないなら僕みたいに剣を使えばいいけど、それが難しいならロミオには、宝石が埋め込まれた魔道具がおすすめだよ」


 ナイトが店に並ぶ品に指を指した。茶色い木の棒に、大きな宝石が埋め込まれている何か。

 魔法使いとかが使う杖のような形をしている。

 埋め込まれている宝石の色は様々だ。


「宝石の種類によって使える魔法が違うんだ。ロミオはどういう魔法が使いたい?」


「いや、何がいいのかさっぱり」


「魔法の属性で決めるのもいいけど、好きな宝石で決めるのも全然いいと思うよ」


 好きな宝石か……。

 改めて宝石が埋め込まれた杖を見比べてみる。カラフルに彩り持った宝石が並ぶ中、透明な宝石が埋め込まれた杖があった。水晶玉よりは白いけど、不思議と透き通ったように見える。

 他のカラフルな宝石よりも、ひときわ目を奪われた。


「それはセレナイトだね。セレナイトなら、光属性の魔法が使えるはず」


 ナイトの言う光属性というものがいまいちよくわからない。

 俺の心を読んだのかお喋り好きなだけなのか、ナイトは説明をさらに加えた。


「宝石によって使える力は変わるけど、光属性なら、回復とかバリアとか、闇属性の力を打ち消す魔法はあると思うよ。……うん、そうだね。意外とロミオにはぴったりかも」


 いや、俺的には光属性って言葉が自分に合わないような気がするけどな……。

 ナイトに便乗するようにジュリも首を縦に振って頷く。

 

「確かに……ロミオくんには、先頭に立って攻撃する魔法より、サポート側に回ってもらったほうがいいと思います」


「じゃあこれを買おう! あとは、薬草かな。ロミオやユーナちゃんが回復できるなら必要はないかもしれないけど、傷の治りを良くするにも必要だしね。あとは……」


 ナイトって、戦いに必要な物はこんなによく考えて選ぶんだな。

 ナイトが陳列する防具や武器を見ていると、ジュリは小さく手を挙げて声を出した。

 一瞬、顔色が悪いように見えたけど、気のせいだろうか。


「あの、私は先に外に出ていてもいいでしょうか? エメラルド王国は少し遠いですし、食料も必要ですよね?」


「うん。ジュリちゃんに任せちゃっていいかな? 気をつけてね」


 ジュリは「大丈夫です」と答えると、外に出た。


「ロミオ、服装を見直そうか。もっと厚手なものがいいと思うんだ。防具とかがないと鍛えてないロミオなんかはすぐ死んじゃうからね」


 言ってることは正しいけどストレートに言い過ぎじゃ……。

 俺たちが買い物を済ませている間、外が騒がしく感じた。

 購入後、俺が、防具を身につけようと思ったその時だった。


「きゃあああ!」


 ジュリの叫び声が、店の外から聞こえた。

 外で何かあったのだろうか。


「ロミオ、ユーナちゃん、行こう!」


「あ、ああ」


「はい」


 俺たちは店を急いで飛び出した。

 魔獣か? 魔王か? 頭によぎる敵を想像し身構える。

 だが、そこには敵らしきものは誰もいなかった。


「これは……?」


 町人たちの視線が集まっている先には、ジュリがいた。

 ジュリの様子が、明らかにおかしい。心配そうにしている辺りの人を見て顔を強ばらせているし、頭を抱えていて痛そうだ。


「まさか……ジュリちゃん」


 ナイトの呟きを気にする時間もないまま、ジュリが剣を手に持った。

 周りは剣を抜くべき相手なんていない。敵なんていない。

 なのに、ジュリの目は、戦う意志そのものだった。

 そんなジュリの行動を見てナイトは大声で叫ぶ。


「……みんなっ! 逃げてっ! ジュリちゃんは、悪魔に呪われている!」


「なっ……悪魔⁉」


 ジュリが? 様子がおかしいと思っていたら、そんなことになっていたのか!

 確かに、ジュリの瞳からはユーナに似たような光の灯らない暗い色が混じっている。

 ナイトが一生懸命「ジュリちゃん!」と叫んでいる。けど、ジュリには聞こえていないらしく、町人を敵だと思い込んで剣を振り始めていた。


「ジュリッ! ここに敵はいないっ!」


 くそっ……!

 ジュリは震える手で、剣を振り町人を襲っている。こんな光景は、はっきり言ってみたくない。誰よりも、町の人を守ると言っていたジュリが、その守りたい人たちを攻撃しようとしているのだ。

 幸い、魔法を使って攻撃を防いでいる人や、素直に逃げている人もいるから今のところ怪我人は出ていない。

 けど、このままだといずれ、ジュリの守りたい人を、ジュリ自身が傷つけてしまう。


 ――王子くんは王子くんのやり方で、世界を救ってみせろ!


 智乃さん、俺のやり方は、自分でも間違ってると思います。

 それでも、自分のやり方が正しいと思う”ふり”をしてしまうのが、俺だから。

 最終的に、俺が自分で決めて行動したことなら、応援するって言いましたよね?

 だったら、俺は。

 

「ジュリッー! 目を覚ませっ!」


 目の前に、剣を振りかざしたジュリがいた。

 血しぶきが、飛んだ。


 それは…………俺の血だった。


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