20 CARAT 別荘にて
ガーネットの別荘に到着すると、何やらガーネットがすごい囲まれていた。
チンピラとかに囲まれてるとか、そういう意味ではなく、いい意味で。
「ガーネット村長、ご無事で何よりです! それに私たちにこんな豪華な別荘までご提供くださるなんて」
「村長がいなかったら俺たち、どうなってたことか……!」
村人たちに泣いて歓迎されながら、ガーネットはまんざらでもなさそうに笑いながら村人と話をしていた。
「大げさよ。あなたたちも、無事に到着したみたいでよかったわ」
常にムスっとしてると思ったら、笑うんだな。この人。
俺は帽子を被って、ガーネットと村人たちの方へ歩く。ジュリは少し心配そうにしていた。また俺の説明に「オーラがない」とか「弱そう」とか言う気じゃないだろうな。
「あら、ジュリ。女王様との話は終わったのね」
「はい。少し、疲れてしまったみたいで、休ませていただけないかと……」
「前に話し合いをした客室で休むといいわ」
ジュリはお礼を言うと、目を擦りながらゆっくりと客室のように歩いて行った。
「おい。俺のこと完全に無視してないか?」
「ああ、いたのね。影が薄すぎて見えなかったわ」
「あのな……っ」
ガーネットは、俺の嫌いな奴ランキング二位になってもおかしくない。一位は勿論父親だけど。
「影が薄いとはいえ、何も言わず居られては混乱を招くわね。いいわ。紹介しましょう」
ガーネットがかなり大きめの声でそう言ったので、村人の視線は全員俺とガーネットに集中する。
まじか……ここから帽子を取るんだよな……。
「皆、落ち着いて聞きなさい。今回の魔獣討伐では全く役に立たなかったけれど、敵ではないわ。もう一度言うけど、敵ではないわ。ただの魔王もどきよ」
ガーネットが俺の帽子を取る。
「お、お前はっ!」
「え? どうして魔王がっ?」
ざわめきが大きくなり混乱する村人たち。
案の定わかってはいたけど……。
……やっぱこうなるよな。
ガーネットも頭を抱えている。
―★―
説得は10分ほどで済んだ。それほどガーネットの信頼度が高いようだ。
「あなたも少しは自分で説得できるようになりなさい。こんな調子じゃいつ刺されてもおかしくないわね」
忠告はありがたいのだが、手入れしている刃を向けながら言わないでほしい。
「双子か何かか?」
「すごく似てますねぇ……」
村人たちは若干警戒しながらも、少し離れた場所で俺の事を凝視しながらひそひそ話している。
あまり注目されるのは苦手なのに、俺はいつまで見せ物にならなければいけないのだろうか。
広い部屋だから余計に落ち着かない。
「ジュリ、大丈夫かしら」
この状況で俺の向かいのソファに座って平然と話をしようとするガーネットには尊敬するべきかもしれない。する気はないけど。
「ジュリ、来る途中も様子がおかしかったな。なんか、急に立ち止まったというか」
ジュリは今、客室からホテルのような個室に移動してもらって、ベッドで寝ているらしい。どうも様子がおかしかったのは俺にもわかる。
「……休めばなんとかなるでしょうね。きっと。魔王もどきも今日はここで休むといいわ。村人たちの誤解も、解けたようだし」
「いいのか……?」
「私の村のためにジュリ達にはお世話になったもの。あなたは何もしてないけど。ジュリがあなたと旅をするというのなら、あなたも体力を温存するべきだと思うのよ。歩く以外何もしてないけどね」
「……うっ」
わかってる。戦力にならないとただのお荷物だってことは。
けど、俺にできることなんて思いつかない。
「いいから、親切にされたら礼くらい言いなさいよ」
……確かに常識かもしれないが、俺はその言葉を一回も言った記憶がない。そんなふうに親切にされることなんてなかったから。
言ったとしても忘れるほど昔の話だ。
その俺がまともに礼を言えるはずもなく。
「ぁり……と」
礼を言ったことないからではなく。
「今、言ったの? 何も聞こえなかったのだけど」
「うるせーなっ」
ただ単にこいつに言うのが嫌なだけだったのかもしれない。
「それで、休む前に今後のことを少し話したいのだけど」
そうガーネットが言いかけたところで、声が聞こえた。
「おおロミオいるのか! ガーネットおばさんも一緒か」
急に大声で俺たちの名前を呼んだのは、馬車を返しに行っていたナイト……じゃなくてロードだった。隣にはファイもいる。
それにしても、ガーネットに対してその呼び方は地雷でしかない気がする。
「ガーネット様。ただ今戻りました」
「ええそうみたいね。ファイお疲れ様。火達磨はさっさと引っ込みなさい」
イライラした面持ちでガーネットがロードに刃を向ける。勿論本気で斬るつもりはないだろうけど。
「オレは出てきたら最低二時間はこのままだ。あと一時間半は確実にオレのままだな! 残念だったなおばさん」
「年上を敬いなさいと言ってるのよ! こっちの魔王もどきよりもたちが悪いわね、あなたは!」
「おい、こんなところで喧嘩するなよ……」
何なんだこの二人の相性の悪さは。
「そうね。本当はあなたにも黙ってほしいけれど、こんなくだらないノミ虫を相手にしていても疲れるだけだわ」
「あぁ? 今何つった!」
もう、話が進まないなっ!
とにかく俺はガーネットに殴りかかろうとするロードを抑えつつ、話をもとの方向へ戻すことにした。
「おい。ナイトに指折られるんじゃなかったのか」
確かナイトのメモに、ジュリを傷つけたら手足を切り落とすとか、俺……というか俺を含めたジュリの仲間だと思うが、殺しはしなくても殴ったりなんてしたら、指を折るとかそんなことするとか書いてあったような。
まあ、ただの脅しというか、本気ではないのだろうけど。
「クソッ……それを言うなよロミオッ! オレにとってはトラウマなんだ……今まで見ないようにスルーしてきたのにっ」
「はぁ? まさか……折られたことあるのか」
「そーだよっ! 思わぬ事故でぶつかって相手が擦りむいただけだってのに、指を折るんだぜ? 第三関節から! どういう神経だよアイツ!」
マジか。マジなのか……。
確かに、この世界には回復魔法があるから回復はできるのだろうけど……自分から指を折ってロードに痛みを味わせるとか、恐ろしすぎる。
「本当、どういう神経だ……っ」
「ロード?」
ロードの表情が曇っている。
頭を抱えながら本気で思い詰めている様子。さっきまでのイライラとした表情に一瞬で何か別の感情が入り込む。そんな風に見える。
「なあロミオ、ジュリ……アイツはどこだ?」
「今は部屋で休んでる。今日は顔色が悪かったしな」
「非力にも程がるだろうがっ! あんなヤツに、ナイトを助けられるわけない!」
そうロードが言ったところで、ガーネットはロードの足元の床に、短刀を投げ、刺した。
俺も、ガーネットの言いたいことはわかった。
「ジュリの事をよく知りもしないあなたが、あなたのよく知っているナイトが好きになった人を、侮辱するのはどういうことかしら。ジュリは非力なんかじゃないわ。私だって彼女とは出会ってからそんなに時間は経ってないけれど、わかるもの。ジュリは、とてつもなく強い。意志の強い子よ!」
「……」
ロードは言葉を失う。
ガーネットの一点を見つめる目は、今までにないほど鋭く感じる目だ。
俺もこんな風に、かっこよく言えたらいいんだけどな。
ジュリが強い。そう思うのは、ガーネットも、俺も、そしてナイトも同じだ。
けど、ジュリは自分を弱いと思い込んでいるように見えるし、実際、その強さは何かで隠れてしまっているように感じる。
ふとした時にしか見えない、けどしっかりと見える強さを、ジュリは持っているはずだ。
「オレはまだ、認めねえ。……それに、ナイトの事、よくは知らねえよ」
「……。とにかく。話を戻しましょうよ」
ロードが大人しくなったところで、ガーネットが再び落ち着いた声色で、俺と話していた話を続ける。ロードは渋々ながらも話し合いに加わるらしい。
「えっと……今後のことだよな」
急にロードが割り込んできたせいで、すっかり話を忘れていた。
「俺たちは魔王を探しに行く」
「オレも、つーかナイトもロミオらに着いていくらしい。魔王をぶっ潰してやる」
面倒くさそうに、かといって本気で嫌がっているようでない様子で、ロードは言う。
ナイトはジュリから離れる気はなさそうだし、俺とジュリだけではどうも戦力が足りないし、ナイトとロードがいるなら安心できる。
「私は村人を優先するつもりだから、ここに残るわ。本当は、魔王を叩き潰したいけれど。今の私では、魔王にはかなわない。悔しいわ」
ファイが攻撃された瞬間を思い出しているのか、ガーネットは歯を食いしばってそう呟いた。
「ガーネット、わたしは、行きます」
三人だけの会話の中に、別の声が割り込んできた。
ユーナが、立っている。
いつもこいつ、急に現れるよな……。
「ユーナ、行くって、どこに……?」
「わたしも、ロミオさんたちの魔王探しにお供します」
常にガーネットとそばにいるようなユーナが、なんで、ここを離れるんだ……?
俺が思った疑問はガーネットも感じたらしく、ユーナの次の言葉を待っていた。
「このままガーネットのそばで、ガーネットにすべてを任していたら、わたしは本当に何もないロボットになってしまう。そんな気がします。それに……ジュリさんなら、わたしの探してる感情を、与えてくれるような気がします。それだけの、不確かな考えですけど」
「そうか。テメーも、ジュリが……」
ユーナの言葉に最初に反応したのはロードだった。
わからない。といった様子で首をひねっている。
「ジュリさんは、落ち着いているように見えて、様々な感情をみせます。それが、私は羨ましいと感じているのかもしれない。だから、確かめたいのです。彼女と間近で行動をして、変われるのか」
「そう……。確かに、ジュリなら、あなたのことを救えるかもしれない。けれど、ジュリたちは魔王を探しに行くのよ? たとえエルフとはいえまだあなたは子供だわ。危険な真似はさせたくない。……それでも行きたいと言うのなら、ユーナ、あなたの思うように行動しなさい。感情を取り戻すためには、そうすることが一番よ。魔王もどきも、それでいいわね? 断ったら殺すわ」
微笑みながらガーネットは短刀を俺に向ける。
こいつ、もう少し自然に笑えないのか。目が殺意むき出しになってるのに気づいてないのかよ……!
とはいえ、別に断る理由はない。子供とはいえ、ユーナはしっかりとしているし、むしろ助かるくらいだ。
子供に戦わせるというのは、良いことではないと思うが。
「ジュリも断らないだろうし、大丈夫だ」
「そう。ユーナに何かあったらすぐ殺すから、覚悟しておきなさい」
やっぱりこいつ、本気の目だ……。
―★―
話し合いも終わって、俺は用意された部屋でベットに横たわる。
ただ王都に移動するだけだったというのに、変な魔獣に襲われて馬車は壊れるし、ジュリの記憶喪失のことを知って、当のジュリは様子がおかしかったし、よくわからない一日だったな。
こんなのが毎日なのか?ここの住民は。んなわけないか。
ついこの前まで就活してたのに、もうそれどころじゃないな……。
明日はあっちの世界か。智乃さんが居候していなければいいけど。
この世界の事、桜木にはいつ、言えばいいのだろうか
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
―◆Juri side◆―
熱があるわけでもない。気分が悪いわけでもない。
なのに、あの時感じた違和感は一体……。
十分休んだし、ロミオくんが戻るまで、明日は町で情報収集をしよう。ナイトくんやロードくんに戦術を学ぶのも忘れないようにしないと。
もし村の人がピンチになったら、私が守れるように。
今まで守られてきた分、力になれるように。
もし魔獣が現れたりしたら、町の人を必ず守る。
――魔獣は、私が斬る。
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