18.5 CARAT どの国も問題を抱えている
ロミオ達がリスタル王国の王都へ向かっている頃、それぞれの国ではそれぞれの事情を抱えながら、話し合っていた。
全てがダイヤモンドで出来た煌びやかな城の中。
「王様。例の結界は張り終えました」
エルフと思われる男女数名は、王座に座る彼に対して、丁寧に膝をついていた。
「ご苦労様。下がっていい」
「一つ、質問よろしいでしょうか?」
小柄な青いショートヘアのエルフは、素早く手を挙げ、一歩前に出る。
「ああ」
若干裏返った青髪エルフの声に、王は気にすることなく許可を出す。
「何故、このようなことをする必要があったのですか?」
王は、必ずしも聞かれることだと思っていた。
用意していた答えをそのまま青髪エルフに伝える。
「魔王によって今、世界が混乱していることは知っているな?」
「はい」
「国を美しく保つためには、魔王の存在は邪魔でしかない。私達に魔王をどうこうできない以上、住民やよその国の者の記憶から、その存在を消すことは最善の策と言える」
それを聞いて納得したか否か、青髪エルフは後ろに下がり軽く礼をすると、他のエルフと共にその部屋から出た。
―◆Marine side◆―
外の景色を反射しているものの、はっきりとした色見のない城の外観を見ていると、女剣士をしている自分が、おかしく思える。
「王様は本当に、何を考えてるかわからないですよね」
私は隣のエルフ、リリー先輩にため息交じりで話しかける。
リリー先輩は「まあまあ」と言いながら、歩き出す。今からいつもの酒場に行くようだ。
「ダイヤモンド王国はどの国とも干渉しない珍しい国だからね。他の国からの印象も気にしないと、いつ戦争が起こってもおかしくないのよ」
「それもどうかと思うけどなあ」
今の王になってから、なんだか国の状況が大分変わった気がする。何か考えがあってやっているのかもしれないけど。
ただ、ダイヤモンド一つで国を彩るっていうのは、あまり色見がなくて好きになれない。
「マリンはカラフルな国が羨ましいんだっけ?」
「そりゃそうですよー! 確かにダイヤモンドは綺麗ですよ? 宝石の中でも格別に綺麗だと思ってます。けどなんか、なんか飽きたというか。あ、飽きたって言い方は良くないですよね。ええと、なんていえばいいのか……」
この国はどこもかしこも宝石と言えばダイヤモンドしかない。
よその国に行ってカラフルな宝石を飾る国を堪能するのもいいけれど、国を支える私の立場的に、あまり頻繁に出かけられない。
「まあね。他の国の宝石を使うことは『この宝石を信仰する国とは同盟が確立されてるんですよ』ってことを知らしめる行為だし、同盟を全部葬ったのだから、彩りがないのも当然当然」
「そんなことはわかってるんですよー! というか、なんで王様は同盟を全部捨てちゃったんですかっ! 交友関係も大事ですよ! 引き籠ってちゃろくな大人になれませんよ!」
「それを私にいってどうすんのよ。まったく」
王様にこんな文句言えるわけないじゃないか。
私はわざわざ深呼吸をして溜息を吐く。それほど疲れてしまった。
いつもの酒場に着いた所で、先輩とは別れることになった。
「いつでも来てちょうだいね。いいお酒を提供してあげるから」
「いや私未成年なんですけど!?」
「大丈夫よ。ベロベロに酔ったマリンをどうこうするつもりはちょっとしかないから」
何言ってるんだこの人。寒気がするからさっさと帰ろう!
―◆Rudo side◆―
緑色に輝いた城の地下で、僕達妖精と国王は、今日も話し合いをしていた。
「ダメ! もっとイケメンでかっこいい騎士を雇って!」
「これもダメか……」
メラルは書類を国王に乱暴に返した。
いつもは冷静沈着な国王も、どうしたものかと、頭を抱えている。
「メラルの好み似合う人材、なかなか現れないね。こんなに見つからないということは、いても性格の悪い奴らばっかってことだろうね」
僕も書類に目を通すも、元聖騎士ほどの顔が整った人間はいなかった。
「もう性格の悪い人でもいいから、強くてイケメンな聖騎士を雇ってくれないと、つまんなーい!」
それは絶対にダメだ。
僕はあえて、それを言わなかった。メラルがどうかしちゃったのは前からだし、僕が反論なんてしたら、メラルに敵視されてしまうかもしれない。そんなこと絶対に合ってはいけない。双子の妹に、兄は優しくあるべきだ。
優しくできているかは定かではないけど。
だからいつも、メラルの前では肯定しつつも、裏で調整をとるという、面倒な役割を担っているけれど、今回はそうもいかなかった。妖精である僕は、部屋の外へは出られないし、メラルが出たらもっと危険だ。だから国王に頼むしかない。
ナイトに代わる、新しい聖騎士の発掘を。
「やはり、ナイトをクビにするのはまずかったかもしれないな」
思い詰めて呟く国王に、僕は即座に否定した。
「ナイトにはロードがいるってこと知ってるでしょ。あいつが城を焼き尽くしたんだから、クビも当然だよ」
「メラルは殺しちゃっても良かったんだけどな~。せっかくお気に入りだった城が崩壊しちゃったんだもん。殺して遺体だけメラルの部屋に置いてくれれば、よかったのにぃ」
メラルは当然のように『殺す』とか、『遺体』とか言ってくる。昔はこうじゃなかったのに。
ただ、殺すのは絶対に避けたかった。どうにかメラルにも納得してもらったものの、もし次、ナイトに会ったりしたら、死刑を命令する可能性だってある。今更ナイトが騎士を復帰するなんて言わないだろうし。
なんとしても、次の聖騎士を見つけ出さないといけない。
「とにかく、ちゃんとみつけてねぇ。最近退屈だから話し相手がほしいの」
そういって、メラルは小さな足で立ち上がる。
「話し相手なら、僕がしてやってもいいけど」
「ルドの話最近つまんなーい」
そういってメラルは自分の部屋の方へ行ってしまった。
「……そう」
こんな率直に言われると……流石に。
「ルド様、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えないでしょ」
国王にまで心配されるとは。
隠してはいるつもりだけど、僕が俗に言うシスコンであることは、認めるしかない。
「ナイトくらい性格が良くて顔がいい、剣を扱える騎士なんているものなのか……?」
国王は独り言のように書類を見比べながら呟く。
代わりなんていくらでもいると思ったけど、性格の悪い人間が多い国で有名なエメラルド王国に、そもそもそんな人材求める方がバカなのかもしれない。
これはもう、人間以外も対象に入れるべきではないかと思う。
昔から多数の民の意見でそれは許されてこなかった。けれど、そろそろ性格の悪い連中の言葉を聞くのも虫唾が走る頃だった。
僕個人としては、平等を願っている。
僕が平和主義者だってことは、たぶん国王とナイトくらいしか知らないだろう。ロードにはどこまで感づかれているかわからないけれど、あいつはきっとバカだから僕の内面まで深く探らないだろう。
メラルのイメージを最悪にしないためには、僕も極力メラルの後をついていくしかない。
けれど今回だけは、それだけではいけない。
「エルフとビーストから探すのは?」
僕の提案に、国王は口をあんぐりと開けて、言葉を失っていた。
「いつからエルフとビーストを差別するようになったのか、覚えていないけれど、そろそろそんな国で暮すのも嫌になってきたよ。国民と直接の交流はないにしてもね。エルフでもビーストでもメラルの好みに合うならそれでいい。とにかく今度は人間以外を探してみてよ」
「認めるとは思いませんが」
「かっこよければなんでもいいから。……少なくとも今のメラルは」
「メラル様はいいとしても、一人だけ人種が違うとなると、人間の国民や騎士団から反感を買うことになりそうですが」
「その時は僕が反発した騎士をクビにするよ。それで人種関係なく新しい騎士を雇う。それで解決でしょ。宝石を生み出す妖精には誰も逆らえないからね」
だからこそ、妖精は正しくなければいけない。
それぞれの国で、重要視されてきている問題。
――心の汚れた妖精は、直ちに殺すべし。
まだ、まだメラルは、汚れ切っていないはず。
なんとしてでも、昔のメラルを取り戻す。
それが僕の、思い続けている願いだ。
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