12 CARAT ナイトとロード

僕の兄はかっこよかった。騎士の中の騎士で、ずっと僕の憧れで。


「ナイト。騎士は、人の命を、思いを守ってこそ、本当の騎士になれるんだ。忘れるな」


「うん!」


 その日の翌日、兄は僕をかばって亡くなった。


 ―★―


 赤黒くギラギラとした目を向けてくるナイトは、体中に纏っている炎をまるでむしるように掴んでから、俺の真横に投げる。


「――っ!」


 声に出すこともできない恐怖。

 俺は最初にこの世界に来た時と同じような、死の恐怖に直面しているように感じた。抜けた腰をなんとか起き上がらせ、全速力で逃げだす。


「逃がさねーぞ! 魔王っ!」


 炎が一気に俺めがけて飛んでくる。もはや「魔王じゃない」と喚く余裕すらない。何が起こっているのかもわからないまま、俺は必死に逃げる。


「ぁぁぁあああああああああっ!」


 オレンジ色だか、赤色だか、そんな色のついた強い光に包まれた瞬間、一気に視界が眩んだ。

 熱い、熱い熱い熱い。たまらなく熱い。それでもこう、考えが回らないのは意識が消えかけているからか。もう何も考えられない。助けを呼ぼうとしても、声すらもかさばって出ない。

 燃えて尽きて、俺は死んでしまうのだろうか。

 それはそれで俺の惨めな人生だと思って、もう諦めてしまおうか。

 そんな考えも、意識と共に消えて…………。


 ――バシャンッ!


 体中がジュゥ……という音を立てて、冷えていく。声にならない声が出た。実際には熱くて仕方がない。動くことすらままならない。だが、もうこれ以上に、熱いと感じることはなくなった。

 水……だろうか?


「ロ、ロミオくんっ!」


 ジュリが駆け寄ってくる。ジュリが助けてくれたらしいと、瞬時に理解できた。続いてガーネットやユーナも駆け寄ってくる。


「ユーナ、その忌ま忌ましい火達磨を 捕らえてくれるかしら」


「はい」


 怒りに満ちたガーネットの静かな声がはっきりと耳に届く。

 ガーネットは最初からナイトを疑っていた。ようやく信じていいと思った矢先にこうなったわけだ。相当の怒りで心が侵食されているはずだ。ナイトに対しても、自分に対しても。

 それにしても、ユーナに任せていいのだろうか。


「うぁあああああああ!」


 そう思うのも束の間、一瞬にしてナイトの体は炎を巻き上げ中へ浮き、真後ろの小さな家へ吹き飛ばされた。

 風の音がゴォオオと音を立てている。


「クソッ……何なんだよテメーらはっ!」


 あんな勢いで飛ばされ叩きつけられたというのに、起き上がっていた。だが、流石に持ち堪えることができなかったのか、その場に崩れるように座り込む。体に纏ってた炎も、周囲一面を覆っていた炎も、もう消えている。


「ナイトくん、私も、私の仲間も、守るって言ってくれたじゃないですか……! どうしてこんな酷いことを」


 ジュリは目に涙を溜めながら、顔よりちょっと大きめの水の玉を作っていた。


「あぁ? 魔王の手下がナイトとどういう関係だって言うんだよ」


 目の前で喋っているのはナイトのはずなのに、そんなことを言う。そんなナイトの言葉に、ジュリは怯えて小さくなる。水の玉もいつの間にか消えていた。

 俺は全身の痛みを感じながらもゆっくりと起き上がる。


「お前こそ、何なんだ」


 もうなんとなくわかっていた。


 ――こいつはナイトじゃない。


 ―★―


「だから、絵! この絵どう見てもそこで寝てるアイツだろっ!」


「話が通じないわね……! アレはただの魔王もどきだって言ってるじゃないの! そんな紙切れ当てにしてどうするのよ!」


 とりあえず、俺のことをアレと言うのはやめてほしい。魔王もどきと言うのも。


「ガーネットさん、ナイトくん、その、喧嘩はやめ……」


「あぁ!?」


「ひぃっ……!」


 ジュリはこうやって何度も止めに入ってはナイト(?)に睨まれ後ろに下がるし、さっきから三十分以上もガーネットとナイト(?)は言い争っている。

 俺はというと、ベットに寝そべってユーナに魔法で治療してもらっている。


「大きな怪我ですから、全治三時間はかかると思います」


「大怪我なのに三時間で治るのか……」


 この状況の中で唯一落ち着いているユーナは、魔法をかけ終わると、そのままやることもなく近くの壁際に座ってしまった。正直、こんな子供があんな強力な風を作り出せるとは思っていなかった。

 何分か黙って座っていたが、何か思い出したようにまた立ち上がる。その足はナイト(?)の方へ。


「メモ帳。見たらどうですか?」


 それを聞いて俺はハッとした。が、誰よりもハッとしていたのはナイト(?)だった。

 ナイトは確か、メモ帳に日記を書いていると言っていた。それがもし、連絡手段だとしたら……。


「す、すまねぇ……」


 メモ帳を取り出し、内容に目を通したナイト(?)が最初に口に出したのは、そんな言葉。さっきまでの威勢はどこ行ったのか、なさけない声だった。もうそれ以上喋らなくなってしまったので、ナイトの伝言が上手く伝わったのだと確信した。


「で、お前は何なんだ?」


 俺はベットに横たわったまま、ナイトの姿をした謎の人物に疑問を投げかける。


「ロードだ。 ロード・エメラルドだ!」


 胸に拳骨を置いて自信ありげに言う。開き直るのが非常に早い。


「ええと、ナイトくんじゃなくて……ロードくん? ……ど、どういうことでしょうか?」


 何故かジュリの声が遠く聞こえる。

 ガーネットもユーナもなんとなく理解しているようだったが、ジュリは全くわかっていないようだった。


 よく聞くところで言う、二重人格……だろうか。ナイトもそれらしいことを言っていた気がするし、この状況はそう考えるのが妥当だと思う。あんなにジュリの事を好き好き言っていたナイトが、怖い顔でジュリを睨みつけるなんてするわけがない。

 二重人格なんて初めて会ったものだから、どう接すればいいのだか。それに、ナイトでさえ関わりたくない性格だというのに、ロードはもっとめんどくさそうな性格な気がした。


「ナイトのやつ、また説明を俺に押し付けやがって……」


 ロードはメモ帳を突き出して見せる。俺でもギリ見える距離。


【運命の人に会った! ジュリちゃんを傷つけたら僕は手足を一本ずつ斬り落とします♪】


【ロミオっていう青年に会ったよ。僕の恋のライバル! 魔王のような容姿だけど魔王じゃないからうっかり殺さないでね。殺したら指一本折るよ!】


【もしロードに代わったら、魔獣を倒してほしいんだ。村壊してもいいって許可もらったから、全力でよろしくね】


 ……気になる文が二つほどあるのだが。

 というかそれよりも、文字が日本語っていうのが気になる……。いやでも、ここが並行世界なら、ありえない話でもないのか。


「ジュリ……っていうのは誰だ? テメーか?」


 気だるそうに目の前のユーナを見る。


「いえ。私はユーナです。ジュリさんはあちらに」


 ユーナが視線を送った先は俺たちのいる場所から大分離れた場所にぽつんと立っているジュリ。ユーナと共にロードにも視線を送られて、ジュリは硬直しているようだった。部屋の隅にいるのなら、さっき声が遠く聞こえたのもおかしくないことだった。

 しばらく間が出来たところで、ジュリはようやくハッとして向かって来た。


「ええと……ご、ごめんなさい! 今行きます」


「運命の人……って、アレが?」


 ロードはメモ書きとジュリを疑問に満ちた顔で交互に見る。姿はナイトそのものだし、さっきまでナイトだったものだから、ジュリに対する態度の変わりように困惑するほかなかった。


「ジュリがわかってないようだから説明してくれないか」


 俺の言葉に、ロードは思い出したように口を開く。


「あーそうだった。説明すりゃいいんだろ?」


 誰に聞いているのか、ロードは腰かけていた椅子から立ち上がると、説明を始めた。


「本当は俺が何がどうなってるんだか知りたいけどよ、理解能力が皆無な奴がいるみてぇだから先に説明する。オレはロード・エメラルドだ。俺になる前まではナイト。一つの体で二人の人格が生きてる。いわゆる……」


「二重人格、なのね。なるほど。それならナイト・エメラルドの【乱暴】っていう噂の辻褄が合うわ」


「乱暴……って、あの国の奴ら、またオレらのこと噂しやがったな! クソッ!」


 ロードは憎しみに近い声を出しながら地面を力強く踏む。ボロボロの建物が今にも壊れそうだ。

 あの国。というのはナイトとロードの住む国のことだろうか。


「オレらが騎士をクビにさせられた理由。聞くか?」


 無言で頷く。

 俺たちはしばらくロードの話に耳を傾けることにした。


「オレらの住むエメラルド王国の妖精は双子だ。宝石は妖精が作り出すのは知ってるだろ? その妖精が二人もいるから、エメラルド王国は金持ちだって言われてんだよ」


 そのロードの言葉に、かすかにだが、頷いたのはガーネットだった。何かエメラルド王国に対して面識があるのだろうか。そんな俺の疑問に気が付いたらしいガーネットは、少し面倒くさそうに答えた。


「お婆様がエメラルド王国出身なのよ。リスタル王国のお爺様と結婚したの。ハーフのお母様はお父様と結婚してね。私はハーフのハーフ、いわゆるクォーターだからエメラルド王国の血はほぼないようなものだけど」


 淡々と話すガーネットは、少しだけ重そうな表情をしていた。

 おそらく、ガーネットはお金持ちに生まれたことに罪悪感を抱いている。俺としては羨ましいことだが、ガーネットにとっては自分の金銭感覚が気にくわないのだろう。だが、幼い頃から裕福に暮らしてきた習慣は、変えられるものでもない。


「金持ち。だからか、エメラルド王国は狂ってる。特にあの国の騎士団は」


 ロードの拳は、固まった岩石のように、強い怒りの感情が込められているように感じた。


「アイツは何もしてないのに、あんなの、間違ってるだろうがっ!」


 吐き捨てるように言ったロードの言葉は、部屋中に響いていた。

 沈黙が続いた。

 それからロードは、もう一度話し出した。


 ―★―


 オレたちの住んでいたエメラルド王国は、双子の妖精メラルとルドと、エメラルド鉱石を祀ってる。


「えーメラルゥ、もっと刺激的なお城がいいなあ。なんか貧乏くさい」


「メラル、うるさい。どうせここの人間に立派な城なんてできるわけないでしょ。全員クビでいいよ」


 メラルはとにかくわがままな女で、ルドはとにかく人に厳しい男。

 体は人の顔より小さいのに、あの二人は随分と態度がデカい。祀られているのだから当然だろうが。

 二人が満足しなければ城を作り直し、二人が欲しいものは死者が出ても必ず手に入れ、二人にダメな奴だと言われた者はみんなクビ。そんな容赦のない妖精。


 ナイトと俺がまだ騎士として勤めていたある日。

 あーこれは、ナイトのメモ帳に書いてあったことと俺の記憶をまとめた話になるから、話が断片的になる。


「ナイトは今日もかっこいいねぇ~」


「メラル、こいつのこと知ってるでしょ。早くクビにしたらいいのに」


「ははは、メラル様に気に入ってもらえて光栄ですよ。ルド様、ロードはそんなに悪い奴じゃないですよ?」


 ナイトはメラルに気に入られ、オレと言う騎士に似合わない人格が居ても、ギリギリクビにされずに騎士をすることができていた。

 オレもナイトが騎士を続けられるように、できるだけ感情を押し殺していた。

 だが、それができないのが、あの国の騎士団に出会った時。


「おい! なんだよこれ!」


 オレはある日、明らかに悪意ある形で傷つけられている剣を目にした。水につけたのか、サビれていたし、サビた後に他の剣で何度も痛めつけたような痕も残ってた。明らかにナイトがメラルに気に入られていることが気にくわない騎士らが、集団で実行したいじめだ。


「こんなことさせられてるのは、あんたのせいだって気づかないのかねえ」


「あーあ、ナイトも可哀そうだよな~。品のない悪霊に取り憑かれて」


 オモチャで遊ぶように楽しそうに笑う騎士団の奴らをみると、心底腹が立った。


「あぁ!? 俺だって静かにしてるだろーが! ナイトのこと本当にそう思ってんなら、こんなことしねーだろっ!」


 その日は、そう叫んだ瞬間意識が途絶えたから、たぶんナイトに代わった。翌日からナイトにメモ帳で何度聞いても、何も返事を寄こさなかった。

 話題は全部他に流れて行って、その辺はあいつのペースに巻き込まれてうやむやになった。


 それから何度も同じようないじめが絶えず起きていた。

 ナイトはそのことに関して何も言ってくれねえし、悩んでるのは俺だけかと思ってた。


 ナイトは騎士の中でも位の高い聖騎士だ。そのくせ年齢は18歳で最年少だから、周りの騎士から憎まれ続けている。ちなみにオレは聖騎士として認められていない。

 妖精であるメラルとルドは、誰にでも会えるわけじゃない。国王とか、聖騎士とか、それくらいの地位を持つ者ぐらいだ。


 ナイトは会えても、オレは妖精のいる部屋に通されない。途中でナイトからオレに代わったら当然すぐに追い出される。

 だから、何度も俺はいじめのことを相談しろとメモ書きしている。

 それでもナイトは、相談したようなことをメモに残してこない。アイツはいったい何を考えてるんだろうって、本気で思った。


 ある日の夜、住み込みの騎士であるオレは、自分の部屋でナイトのメモ書きに目を通して、ため息をついていた。

 いじめのことに関しての話は、一切書いていなかった。

 返事を書いてようやく寝ようとした時、小さなノックが聞こえた。最初はノックなのかもわからないくらい小さな音だった。声を聞くまでは。


「ルドだけど」


 なんで妖精がオレの部屋に?呼び出せばいいものを。

 そんなことを考えながらドアの前に立つ。ナイトに会いに来たんならオレが出たらマズい。


「オレはロードだ」


「それは丁度よかった。早く開けて」


 オレは仕方なく開けた。「丁度よかった」と言うことは、オレに用があるってこと。聖騎士でもないオレに、わざわざ部屋まで来て話しにくるような奴だとは思っていなかったから、ルドの行動には心底驚いた。


「最近、ナイトが自分から僕たちの所に顔をださないんだ」


 テーブルの真ん中に座ると、率直に、淡々とルドは言った。


「メラルがうるさいんだよ。ナイト今日も来ないねって。あーうざい」


 そう言いながら、ルドの心の中は誰が見てもわかる。こいつ、隠してるけど恐ろしくシスコンだ。


「メラルサマが寂しそうにしてるから、ルドサマがわざわざオレに相談しに来たってわけかー!」


 不自然に大声でオレは部屋中に響く声で言った。

 それに怒っているのか、ルドの目は鋭く光っていた。これはこれ以上怒らせると絶対殺される。オレは珍しく静かになった。


「妖精に対しての敬意を感じない」


 シスコンだということは認めやがった。


「はあ? そんなことで怒ってるん……デスカ」


 とりあえずまた睨まれたから慣れない敬語っぽい言葉を並べた。


「ナイト、何かあったでしょ」


 オレは無言のまま頷いた。


「いじめられてる。……アイツが何を思ってるのか、何度聞いても答えてくれねえんだ」


「ナイトはそういう奴だよ。お兄さんを亡くしてからずっと」


「……」


 ナイトの兄には会ったことがある。オレが最初に会った時、ナイトの兄は魔獣と一緒に血だらけになっていた。息をしていなかった。

 ナイトを庇って、命を落としたらしい。


「あの時からなんだよ。オレが生まれたのは」


 オレにはそれ以前の記憶が一切ない。アイツの兄の死が、オレが目覚めた瞬間だった。


「ナイトがとっくに壊れてるのはわかってんだよ。文面からみても、無理してるのはすげえわかる。だから、助けてほしい」


「……言っておくけど、騎士団を全員クビにて新しいのを雇っても、また同じことの繰り返しになるよ。この国のヒトはほとんどのが汚れてるから」


 不愛想にそう言うと、ルドは部屋を出た。


 翌日だった。問題は。


「なんだよ……これ」


【僕は大丈夫だよ。でもごめんね。心配するようなこと、僕は何も思ってないから。ロードも、我慢してほしい】


 翌日の昼、オレは朝にナイトが書いた内容を呼んで、絶句した。やっといじめの事について書いたと思ったら、あきらかにダメな回答だった。

 我慢してでも騎士を続けようと思ってるナイトの真意は知ってる。それでも。


「我慢って言ってる時点で、大丈夫じゃねーだろうが……!」


 オレたちは一番近くて、一番遠い関係で、会うこともできなければ、お互いを全く知らない。分からないし分かってくれない。


「どうしたー? ロード」


 騎士団のリーダー格の男が楽しそうにオレに話しかけた。名前は知らない。ウザい最低な奴だということは知っている。

 ……この顔、これは何かした時の顔だ。


「今度は……今度は何したんだよっ!」


「ナイトがなかなかいい反応見せてくれないからさー、大切な物、切っちゃったあー」


 男がオレの背後の床を指差す。

 指差した方向を見る。

 全身が燃えるように熱くなった。


 ――ナイトと、ナイトの兄が写った写真が、ナイトの宝物が、バラバラの紙切れになっている。


「これを見せたら泣きわめいたり激怒したりすると思ったんだけどなー。なんにも思ってなさそうだったぜ」


 騎士を続けようと思ってるナイトの真意は知ってる。それでもオレは、もう耐えてられなかった。


「耐えてられるかっての。悪いけどオレは、ナイトじゃねーんだよ」


 独り言を呟いて、写真とメモ用紙を耐火ケースにしまう。ずっと我慢してた熱くなっていく体の衝動を解放していく。

 自分の周りが真っ赤な光で覆われ、さらに厚くなっていくのを感じる。

 炎という魔力が全身からマグマのように噴き出る。


「何でもかんでもテメーらの勝手にさせるかよ!」


「ロ、ロードっ、ここは城だぞ、何して……ぁあああっ!」


 男の体が真っ赤に染まる。

 いや、城全体が赤くなっていた。

 ずっと我慢していた怒りが、炎となって、オレの中から爆発して叫んでいた。

 オレには我慢なんてできるわけなかった。


「会ったこともねえけど、初めて目覚めた時のあの光景が焼き付いて離れねえんだよ」


 一度でいいから、アイツの兄と話してみたかったもんだ。

 それで、一番アイツに親しい兄から、アイツの事を話してもらいたかった。

 何も知らないオレに。


「アイツは、自分の事全然話さねえから、オレには全く理解できない。アイツの気持ちが」


 何で泣かない?

 何で怒らない?

 何で我慢する?

 ナイトという人間が、オレにはわからない。

 同じ体なのに、そういう自覚がオレにはない。きっとナイトにも。

 もし自覚できていたら、こんなすれ違いが続くはずない。


「すまねえナイト。オレは」


 時々、自分が何なんだかわからなくなる。

 けど、オレはナイトの怒りとか、悔しさとか憎しみとか、そういう感情を全部受け止めて、お前の代わりに――。


「全部、焼き尽くす!」

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