第34話「偉大なる者」

「またしても、紅い月の日であるな」

「ハッ……」


 愛機の整備調整を行っている黒不死鳥の団長へ労いの言葉をかけながら、エルフの偉大なる者、ハイエルフはPMの基本構成物質である「クレイ」別名霊力土の様子をその目で確かめる。


「時期が、悪うございました」

「因果かもしれんぞ、団長」

「はい」


 霊力土、それをポイント・マテリアルの四肢胴体へと詰め込み、それをあたかもゴーレムのように駆使するのがPMの基本設計である。


「ベアリーチェさまも、猛っています」

「ベアリーチェか、不憫な子だ」

「実の御子をそのようにおっしゃられますな、偉大なる者」

「うむ」


 いわば、人物が乗り込むようなゴーレムとも言えるのがポイント・マテリアル、ドワーフ達の技術結晶だ。


「うっ……」

「どうなされました、偉大なる者」

「いや、なんでもない……」


 頭痛と共に四柔可しじゅうか、その名が偉大なる者、ハイ・エルフ王の頭へと疾った。


「それよりも、この霊力土」


 人が機体の中心に居座り、そこから手足を魔法器具のように動かすのが人型のPMであれば、操縦桿に依存するのがドワーフ製のPM、そしてマテリアル・シップであるといえる。


「少し、古いな……」

「申し訳ありません、何ゆえ原材料がなかなか手に入らぬ物で……」

「人工魔力媒体、開発を急げよ?」

「はっ!!」

「人工筋肉機、ベールクトもな」


 そう言い残し、偉大なるハイ・エルフ王はその細い髭をしごきながら、ハンガーデッキから出ていった。




――――――




「紅い月か……」


 暗い夜に浮かぶ紅い月の伝承、それはもちろんハイ・エルフ王は知識として知っている。


「はたして、オークどもに悪魔についての知識があるのかな、不思議だ……」


 オークが偶然ベヘモス、生け贄には最適な魔獣を調達し、それをもって悪魔を召喚したとは考えづらい。


「まあそれをして、悪魔どもが我々の戦力と出来たのだが、な」


 しかし、果たしてそれを偶然で片付けられるのか、ハイ・エルフ王は思案を重ねていた。


「しかしに、ベアリーチェをいつまでも」


 その悪魔、彼らを味方へと引き入れる事ができたのは彼女の功績が大きい。


「ワシが御せるか、な」


 しかし、そのベアリーチェを憎悪と怒りの化身へと変えてしまったのは自分に大きな責任がある。その為に彼女には強いことは言えない。


――偉いことを言っても、あんたがアタシに何をしたのかを知っているよ――


その目、視線で訴えられてはその次の言葉がでないのが「偉大なる者・ハイ・エルフ王」という人物なのだ。

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