第26話「ファースト・フライト(前編)」

ブルー・ドラゴンに限らず、太古からドラゴン種というものはほぼ「天災」と紙一重だった存在である。


「くそ!!」


 が、その均等を崩したのが今、亡国の王子が駆るポイント・マテリアルといった存在だ。


「機体の出力が安定しない!!」

「ふぅむ……」


 ダマスカス基地の技術司令、まさに肉塊ともいえる怪異な風貌をした女ドワーフが望遠鏡越しにベオの戦いぶりを見て、軽く嘆息のようなものを上げている。


「オリジナル・ポイント・マテリアルってのは、こんなもんだったかしらねぇ……」

「さあ……」


 遠距離支援射撃を行っている男ドワーフ「マルコポロ」がその上官筋にあたる女へ向けて生返事をしながらも、有効打が、ドワーフ製PM「ナーイン・ワン」から巧く放たれた。


「あっしには、解らねえ」

「スピードだけはある」


 バリィ!!


 ドラゴンからの雷撃を上手くかわしたベオ機であるが、その尾による打撃をまともに受ける姿を見て、女技師はその肉塊の上に鎮座している眉をピクリと揺らす。


「だが、パワーと小回りがない」

「そうでゲスか?」

「宝の持ち腐れだ!!」


 ドンッ!!


 移動式のテーブルをその手で叩いた女技師に、マルコポロはその身をすくませながらオズオズとその口をひらく。


「結局、アナタ様は何を知っておられるので?」

「オリジナル・ポイント・マテリアルのことなら、ほとんどなんでも」

「そうでゲスかい……」


 正直、マルコポロにしても彼女の事はよくは解らない、ただ単にドワーフ達を統べる技巧王であるというだけのことだ。


「もしかしたら、彼ベオはPMファイターではなく」

「では、なく?」

「PMキャリバーなのかもしれないわねぇ……」


 その言葉も、マルコポロにはよく解らない台詞である。


「どちつにしろ、ただ飯を食わさせるわけにはいかないからねぇ……」

「ドワーフ達の土地も、豊かとは言えないでヤンスからな」

「エルフやオーク程ではないけどね」




――――――







「なあ、エルフどもってさ」

「PM技術を俺たちから掠め取った奴らの事を言うんじゃねえよ、全く……」

「いや、大してアタシ達と変わらないとおもってな」


 この闇夜の櫓の上に立つドワーフ歩哨がいっている意味は、ベオが仮リーダーとして率いる羽目になった難民達の事を言っているのであろう。


「戦争、始まるのかな」

「もう始まっているじゃねえかよ」

「直接かち合うって意味!!」


 相棒の相づちのへたさに苛立ちながらも、女ドワーフは望遠鏡で北方の監視を続ける。


「オークがこの近くの油田を狙っているという噂もあるから、北ばかり見ても仕方がないぞ」

「だったら、そっちはアンタが見なさいよ!!」

「へいへい」

「ハァ……」


 全く仕事にやる気の無い相方に嫌気が差しつつも、任務は任務。気を取り直して彼女は望遠鏡にその目を向けた。その時。


「おい、あれ!!」

「何だよ、うるさいな……」




――――――




「各員、戦闘態勢に入れ!!」


 ウゥウ……!!


「各員、戦闘態勢に入れ、これは演習ではない!!」

「リィターンがメンテナンス中だと!?」


 女巨漢が指示をだし、警報が鳴り響くなか、ベオは右往左往するドワーフの波に飲まれそうになっている。


「ベオの旦那は、アイワークスに乗るでヤンスよ」

「しかしな、マルコポロ!!」

「他の連中は、すでに覚悟を決めている様子でゲス!!」


 見るとパルシーダ、ハイエルフである彼女もPMスプリートにと乗り込もうとしている。相手は同族だというのにだ。


「いいのか、パルシーダ……」

「旦那も、早く!!」

「分かったよ、マルコポロ!!」


 一つ舌打ちをしながら、ベオは「カブトムシ」のような姿をした巨大非人型PMの操縦席へその身体を押し込める。


「訓練で慣れ始めたとはいえ、やはりドワーフ用の機体に俺の身体は合わないな……」

「アイワークス、エイトヘヴン応答せよ!!」

「こちらエイトヘヴン、肉ドワーフさん!!」

「アタシには、へパイトスという名前がある!!」

「初耳だね!!」

「エイトヘヴン、打上ヨーイ!!」


 バシュ!!


 最初からカタパルトに載っかっていたエイトヘヴン、早期警戒機がそのまま勢いよくはね飛ばされた。


「敵機、確認開始!!」

「エイトヘヴン、もっと上昇しろ!!」

「マテリアル・シップ三隻、随伴機多数!!」

「上昇せよといっている、ピトスが上手く作動しない!!」

「コンバーター、後部異常あり!!」


 それでも、早期警戒機は無理に機体を上へと押し上げる。


「敵、エルフに間違いなし!!」

「エルフどもがマテリアル・シップを持っていたのかよ!?」

「集中しろ、落とされるぞ!!」


 味方機アンゼアからの愚痴にベオは広域無線を使い、嗜める。


「高高度を制するものが、戦いを制するか……!!」


 ビュオ……!!


 何か夜の地平線の彼方が丸く見える程にまで高度を上げたベオは、先程発進準備の手引きをした女ドワーフ「ヘパイトス」の言葉をその舌へと乗せた。


「……!!」


 先程から気になっていた新鋭エルフ機だけではない、何か異質なものに気がついたベオは全軍に通達を送る。


「全軍、正体不明機、いや生物!!」


 ザォン!!


 激しい戦闘が始まっているダマスカス基地の遠く遠方から、何か生物に股がった巨大な人影をアイワークスで「捉え」たベオは、再度警告のたけぴをあげた。


「悪魔だ、魔獣もいるぞ!!」

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