雨と雨の隙間

優しい人は、大きな傘を持っている。たくさんの人を入れられるような、どんなバケモノも入れられるような、大きな傘を持っている。私は雨男あめおんなだから、その傘の中に入ってしまったら、みじめさが込み上げてきて、傘の内側に雨を降らすことになるの。


優しさは傘として、雨粒の音をたんたんと鳴らすばかり。その繰り返しに飽きたんだ、というのが、傘を捨ててしまった私の言い訳。雨が見えるの、なんて言っていた自分も、すでに傘を持っていなかった気がする。そういえば、雨に打たれていたのは全部私だったっけ。少年も少女も、私のことだったっけ。


ほんとの私を言葉にしたとき、僕の前でママは泣いてしまった。私に傘があれば、差し出すことができたのかな。僕も私も、優しい人にはなれないな。


だけど、それでも「ずるい人間になりなさい」って、泣き終えたママが言ったから、ずるい人間になろう、と決めたんだ。


「雨と雨の隙間を縫っていけるような、ずるい人間になろう」と決めたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

詩集『私の嫌いな僕のこと』 雨月 秋 @Rhyth0606

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ