第2話

私は早速、学校までの移動時間に『自分の好きな夢を見る』や『夢をコントロールする』といったことが書かれているサイトを見まくった。そして昼休み、まきちゃん先輩に一連の出来事を伝えた。


「なるほどね、かよが言ってることは分かった。」

「ざっとネットを見た感じ、夢に出てきてほしいものの写真を見てから眠るとか、それに関わる音声を聞きながら寝るとか、色々やり方があるみたいですけど、結局は寝る前に見たい夢を強くイメージするのが大事っていう精神的なことに行きつきます。」

「あとさ、枕の下に写真を入れるとその人が夢に出るっておまじないあるよね。」

「あー、それもなかなか効果あるみたいです。」

「実は前に試したことあるんだよね…。」

「え、先輩がですか!なんか意外です、おまじないとか。」

「いやー、前に好きな声優さんが夢に出てきてほしくてさ。期待しないで試しにやってみたんだ、懐かしい。」

「それで、出てきましたか?」

「いや、その時はダメだった。」


よし、とりあえずダメ元でやってみるか。夢に出てきたらラッキーくらいに考えていよう。もしかしたら毎日続ければいつかは会えるだろうし。私が色々考えていると、先輩が何かを思い出したように言った。


「あ、そういえば、推しが出てるアニメの劇場版記念イベントのライブビューイング行った日の夢には出てきてくれたよ。」

「それ、どんな感じのシチュエーションでしたか?!」

「す、すごい圧だね。」


思わず前のめりになってしまった。いくら食堂の端の方にいても学校であることには変わらない。少し落ち着かなければ。


「確か、推しの出待ちしてる夢で、周りの人に押されて一瞬しか見れなかったなぁ。」

「その話を聞くと、やっぱり夢は起きている時の記憶の整理って説が有力ですかね。」


この感じだと推しが業界人である構図は変わっていない。いや待て、でも先輩は3次元で推しに会って、それでやっと夢に出てきた訳で…。いくら推しの画像を見ても、私の場合、実際に会ってる感じにならないと意味がない。3次元では出来ないことだから夢の中でやりたいのに、このままでは推しの画像を見つめる夢になってしまう。


「あとはかよの妄想力次第じゃない?今ちょっと検索してみたけど、やっぱり寝る前に夢で見たいことを考えるのが大切みたいだよ、どのサイトにも書かれてる。」

「分かりました…頑張ってみます…。」


 今日、というか明日も続けて推しの夢を見るために、放課後はまきちゃん先輩とオタ活をする約束をした。しかし結局、“推しと夢の中で会う”という夢の決定的な対策は見つからず、昼休みは終わった。



 今日は私が推しの夢を見るべく新たにグッズを買いたい、先輩は好きな声優が表紙の雑誌を買いたいという目的があったので、2人でいつものアノ店を目指した。

 それにしても、先輩とオタ活をするのは久しぶりである。私たちの場合、オタ活といっても何かイベントに出向いたりはせず、アニメグッズ専門店に行って推しのグッズを愛でたり、関連雑誌を眺めたりするくらいだ。先輩と一緒にここへ来ることが少ない理由は、見たいコーナーが全く違うからだ。一緒に店に来ても、私はアニメ作品のグッズコーナーへ、先輩は声優関連の雑誌売場へ直行からのCDコーナーへ。このルーティンが分かってから、ほとんど一緒に来ることはなくなった。


「アニメ終わってしばらく経ったから売場が狭くなってる、推しのアクキーあるかなぁ…。」


 私は、自分が見た漫画やアニメにそれぞれ推しが存在する。そして、その推したちの中でも特別な位置付けにある“最推し”がいる。黒髪ぺったんこ系推し、頼れる隣のお兄ちゃん系推し、まっすぐ負けず嫌い系推しの3人だ。みんな同じく推せるのにこれといった共通点が見つからないのが何とも不思議である。私は夢女子だが、遠くから眺めていられればそれで満足だと思える、言ってしまえばそのキャラクターのファン的な立場にある推しキャラもいる。もちろん、推しと親しい関係になった、都合良い自分を想像することもあるが。

 小さくなった売場からなんとか推しのアクリルキーホルダーが見つかったので、合流するべく先輩を探すことにした。店内を歩き回っていると、声優さんが歌うキャラソンが並んでいるところに、しゃがみ込んで2つのCDをじっと見比べる先輩の姿があった。


「先輩、なに迷ってるんですか。雑誌買うんじゃないんですか?」

「そうだった、そのために来たのに!」


この人は好きなものに囲まれると理性が機能せず、正常に判断できなくなってしまうのである。これを買う!と意気込んでいても、店に入った途端、両手に雑誌やCD、DVDを持てる限り持ち、これ以上無理だと感じたときにようやく気がつくらしい。


「そもそも、なんでCDのコーナーにいるんですか?いつも雑誌の方からなのに。」

「あぁ、だって好きな夢を見るにはそれに関わる音声を聞きながら寝るといいんでしょ、だから。」

「ええっと、全く分かりません。」


すると先輩が大きなため息をついた。


「アニメは好きなのに声優には本当に興味無いんだね。推しの夢が見たいなら、推しの声を聞きながら寝ればいいんじゃないの?」

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夢女子が2次元の推しと会う方法 かの @kano_mamemame

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