第45話 45層、ボス戦

 マグマゴーレムの包囲網を突破し、45層へと滑り込んだ俺たち。

 そう、この迷宮は5層ごとにボス部屋となっているため、当然俺たちを待ち受けていたのは。


「エンシェントベヒモス……またSランクモンスターか……」


 鑑定スキルを使い、額から汗を流しつつ表情をこわばらせるセリオス。


 前方には、全長5メートルはあろうかという巨体を誇る四本足の獣がこちらに狙いを定め眼光を光らせた。


 そして、こちらが準備するのを待たずして、一つ遠吠えをすると突進してきた。


 俺たちはどうにかそれを回避する。


「ったく、作戦を立てる暇さえやらないってか」


 ボヤキつつ『光剣グレイセス』を鞘から抜き、左手に『カーバンクルの盾』を装備。

 既に他の連中もそれぞれ武器を取り出して戦闘態勢に移行している。

 迷宮に突入する前はぎこちない動きだったリュミヌーとリディも、すっかり動きが洗礼されてきた。


 今の彼女達ならば、Aランクパーティーに入っても足手まどいにはなるまい。

 そしてヴェーネやセリオス達は元々Aランク冒険者なので動きに問題はない。


 溶岩地帯での体力消費も思ったほど深刻ではないようだ。

 これなら充分倒せるだろう。


 俺はエンシェントベヒモスの側面をとって、剣で斬りつけた。

 俺が傷つけた部分に魔力が集まり、傷が塞がっていく。

 奴のカウンター攻撃を盾でガードしつつ、距離を置く。


「こいつ、自動回復しやがる」


 見ると、ヴェーネとセリオスが攻撃した部分も、みるみる修復されていく。


「ずるい!」


 エンシェントベヒモスの攻撃をかわしながら、文句を垂れるヴェーネ。

 なるほど。

 こいつは一気に大火力をぶつけて、回復する暇も与えず一気に倒さないとダメらしい。


 俺はテレーゼの隣に移動すると、声をかける。


「あいつの注意をしばらく引き付けられるか?」


「ええ、でもあんまり長い時間は耐えられないよ。あいつの攻撃力、ちょっとずば抜けすぎてる」


 それは知っている。

 さっき奴の攻撃をガードしたとき、今までのどのモンスターの攻撃より衝撃が大きかった。

 まともに食らえば、防御力の低い両手武器の使い手なら即死してもおかしくない。

 つまりヴェーネ達が危ない。


 戦局を見ると、ヴェーネ達は紙一重でエンシェントベヒモスの攻撃をかわし続けている。

 だがおそらく疲労が蓄積しているだろうから、このまま戦闘が長引けばまずい。


「1分だけでいいんだ。頼めるか?」


「それくらいなら何とかなると思う」


「わかった。じゃあ頼む」


 話を終えると、テレーゼは挑発スキルを使ってエンシェントベヒモスの注意を引き付けた。

 憤怒の表情でテレーゼに襲い掛かるエンシェントベヒモス。

 エンシェントベヒモスの強靭な両腕による波状攻撃を、必死に盾で受け止め続けるテレーゼ。


 さて、急がないと。

 あの調子だと1分がギリギリ限界だろう。


「みんな! 集まってくれ」


 俺が声をあげると、散らばっていたヴェーネ達が俺の元に集まってくる。


「テレーゼが引き付けているうちに、奴に俺たちの全力攻撃をぶつけて一気に倒すぞ」


「わかった。でもどこを狙えば?」


 ヴェーネが真剣な表情で質問してきた。


「奴の首のあたりを狙う」


 鑑定スキルでエンシェントベヒモスの魔力回路を察知すると、首のあたりが他の部位より脆弱になっているのを確認した。

 だからそこを狙えば倒せるはず。

 あとはタイミングと、狙いを確実に命中させる技術があればだが。

 ここにいる連中は皆、この過酷な迷宮を45層まで潜ってきた猛者ばかりなので、心配は無用だろう。


「よし、じゃあ行くぞ! 早くしないとテレーゼがやられてしまう」


 全員が武器を構え、精神を集中させる。

 俺も盾をしまい、二刀流にする。


 テレーゼに思った通りダメージを与えられず、苛立ちを覚え始めたエンシェントベヒモスの動きに乱れが生じた一瞬を、俺は見逃さなかった。


「今だ!」


 俺の合図で、みんな一斉にエンシェントベヒモスの首めがけて技を振るう。

 次々と攻撃が炸裂し、苦痛に顔を歪めるエンシェントベヒモス。


「とどめだ!」


 俺は大きく跳躍し、エンシェントベヒモスの首を十字に切り裂いた。


「ぐおおおおおお!!!」


 紫色の鮮血がばっと飛び散り、エンシェントベヒモスの巨体が轟音と共に地面に沈む。

 自動回復の痕跡はなし。

 目標は完全に沈黙したようだ。


「やったね! アラド!」


 ヴェーネが駆け寄って、右腕に抱きついてきた。

 テレーゼも安堵したように、リュミヌーの回復魔法を受けている。


 この調子で『災禍の王』の元まで行こう。

 そう思って振り返り、俺は目を疑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る