第44話 アラド、武器のエンチャントを試す

 火吹き鳥の襲撃を切り抜け、どうにか44層に辿り着いた。

 44層も、もはや見慣れた感のある溶岩地帯。

 そこをひたすら進んでいく。


 周囲を警戒しつつ、それでも走るのはやめない。

 ふと後ろを振り返ると、リュミヌー達の顔色が明らかにヤバい。

 もう限界が近づいているのは誰の目にも明らかだ。


 俺はリュミヌーの隣に並ぶ。


「大丈夫か?」


「はい、アラドさま。わたしはまだ行けます」


 リュミヌーは俺に心配をかけまいと明るい笑顔を見せた。

 その笑顔はまるで美の女神が地上に降臨したかのようだった。


 だが、ごまかそうとしてもしきれない疲労感がその笑顔の端からにじみ出ていた。


(こりゃ、急いだ方がいいな……)


 俺の思考をまるで先読みしたかのように、前方をモンスターの群れが塞ぐ。

 溶岩でできた人形兵器、マグマゴーレムだ。

 マグマゴーレムは人間の身長のちょうど二倍くらいの背丈で、触れたらいかにも熱そうな溶岩で出来ている。


 俺は舌打ちしつつ片手剣を鞘から抜く。

 しかももう一本抜いて二刀流にする。


 出来るだけ体力の消耗を抑えるためあえて温存していたのだが、もう一刻の猶予もないと判断したので、出し惜しみは辞めることにしたのだ。

 マグマゴーレムの群れがこちらを視認し、戦闘態勢に移行。

 だが、奴らが何か行動を起こす前に俺は魔力で底上げした脚力で一気に加速して、マグマゴーレムどもの懐に飛び込む。


「うおおおおお!!!」


 二本の片手剣で次々とマグマゴーレムを斬り伏せていく。

 すれ違いざまに連撃を叩き込み、素早く次のターゲットへ。


 俺の背後にマグマゴーレムの残骸ができていく。


 俺の強引な中央突破に触発されたのか、セリオスとミロシュが遅れて吶喊。

 俺が打ち漏らしたマグマゴーレムを各々の武器で屠っていく。


「なんだよ、そんな事ができるなら最初からやれよな」


 俺のすぐ後ろから文句を言ってきたのはオレンジ色の髪をした刀使いミロシュ。


「決戦前まで出来るだけ体力を温存しておきたかったんだ」


 次の45層にはまたボスがいるだろうし、そいつを倒すまでは一息つけないからな。


 俺が作った道に、他のメンバーも走ってついてくる。

 すると最後尾を走っていたロッティが何かにつまずいて転んでしまった。

 俺は先頭をセリオスとミロシュに任せると素早く後ろに引き返した。


 どうにか身体を起こして逃げようとしたロッティの背後からマグマゴーレムのパンチが飛び――。


 それを『カーバンクルの盾』でガードする。


「……アラド……!」


 ロッティが初めて俺の名前を呼んだ。


「早く行け」


「う、うん」


 こくんと一つうなづいて、すたすたと走っていくロッティ。

 いつの間にか俺の周囲をマグマゴーレムがぐるっと囲んでいた。


「アラド!」


「アラドさま!」


 包囲網の外からリュミヌー達が心配そうにこちらを見ている。

 ここを突破するには、やはりこいつらを全滅させるしかないか。


「リディ! 上に向けて氷弾を撃ってくれ!」


「えっ!? う、うん。わかった」


 俺の言葉を聞いて、リディが魔法銃の準備を始めた。

 上手くいくかどうかわからないが、試してみる価値はあるだろう。


「行くよ!」


 言いながらリディは上空に向けて魔法銃を発射。

 同時に俺は上空にジャンプし、放たれた氷弾のレーザーに『光剣グレイセス』を当てる。

 すると刀身に冷気魔法がエンチャントされた。


「うおおおおおおお!!!」


 そのまま剣をマグマゴーレムめがけて薙ぎ払う。

 横一線に蒼白い剣閃が走り、マグマゴーレムの焼け付くような胴体を溶かしていく。


 そのまま轟音と共にマグマゴーレムの群れが崩れさった。


「す、凄い……」


「あのマグマゴーレムを一太刀で」


 ヨアヒムとテレーゼが驚いた表情でそう言った。

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