第23話 三人旅

 翌日、俺はリュミヌーの作ってくれた朝食のパスタを平らげると、さっそく村の入口に向かう。

 入口には既にシャンテとヴェーネが待機していた。


「おはよう、 アラド!」


 片手を上げて挨拶してくるヴェーネ。

 俺も同じように挨拶しつつ、彼女たちの元へ移動する。


「あれ、ヴェーネ、お前も一緒に行くのか?」


「まあね。たまには気分転換に村の外に出てみたいじゃない。それとも、私と一緒は嫌?」


「別にいいけどさ」


 俺とヴェーネの会話にシャンテが割り込む。


「準備はいいか? アラド」


「ああ」


「よし、じゃあ出発するか」


「アラドさまー!」


 振り返ると、リュミヌーがこっちに向かって走ってくる。


「リュミヌー、お前も来るのか?」


「いいえ、わたしは留守番します」


 そう言ってリュミヌーは、銀弓フレイアボウを見せてきた。


「アラドさまが修行なさってる間、わたしも弓の練習をしていたんですよ。留守は任せてください」


「へえ、頼もしいな」


 俺に褒められて、リュミヌーはご満悦。

 彼女の頭を撫でてやると、みるみる陶酔とした表情になった。

 いつもなら、この後キスの一つでもするところだが、今日はギャラリーがいるので自重する。


「いってらっしゃいませー!」


 リュミヌーが入口のところで手を振って俺達を送り出してくれた。

 俺達は手を振り返すと、街道を進んでいった。



◆◆◆◆



「ねえ、アラド」


 街道を三人で歩いていると、隣のヴェーネが右腕をこつきながら声をかける。


「なんだ?」


「その……リュミヌーとずいぶん仲がいいみたいだけど」


 ヴェーネがどこか複雑そうな顔でそう訊ねてくる。


「ああ……まあな」


「リュミヌーとどういう関係なの?」


 そう言えば、ヴェーネには話してなかった。俺とリュミヌーの関係を。

 なんとなく言い出せなくてそのままになってたけど、どの道いつかは言わなきゃいけないことだし、ここで話しておくか。

 まだ目的地まで距離があるからな。


 そう決心して、俺は口を開いた。

 リュミヌーと身体の関係になったことを、包み隠さず話した。

 俺の話を聞いたヴェーネは、つまらなさそうな表情になったが、すかさずこう切り返した。


「じゃあアラドはリュミヌーと結婚するの?」


 結婚。

 正直言って、まだわからない。

 俺はもう18歳だし、結婚してても不思議じゃない年齢だ。

 だが俺はまだ家庭を持って守りに入るつもりはない。

 そう告げると、ヴェーネは険しい表情を緩めていった。


「じゃあまだ私にもチャンスがあるってわけだ」


「チャンス?」


「何でもない! さ、行こ!」


 顔を赤らめて前方に向き直るヴェーネ。

 何だったんだろう。

 まあ考えてもしょうがないか。

 それより、


「シャンテ、目的地までまだあるのか?」


「ああ、まだ半分くらいだな」


 シャンテが振り向いてそう言った。


 俺達は腕利きのドワーフ族が住むというルバンツという街まで向かっている。

 ルバンツの街は、キィンロナ村から南に行ったところにあるらしい。


「そのドワーフ族ってのは、どんな奴なんだ」


「私の古い友人だ。会うのは10年ぶりくらいだろうか。気難しい奴だが技師としての腕は確かだ」


「そうか」


 日が暮れるまで俺達は歩き続け、夜になったのでキャンプをすることにした。

 俺とヴェーネで近くの森に入り、夕食になりそうな獲物を探す。

 しばらく奥まで入っていくと、スコルが二匹うろついていた。

 スコルは青白い毛並みをした狼型のモンスターで、ランクはC。


「そうだアラド、どっちが先に仕留められるか競争しない?」


「競争ってお前、子供じゃないんだから……」


「いいでしょ! 負けた方が料理当番ね」


 そう告げると、ヴェーネはすかさず飛び出して行った。


「あ、待てよ!」


 俺は慌てて片手剣を鞘から抜くと、もう一匹のスコルへと走った。

 スコルは俺の存在に気づいて振り返ったが、その時にはもう俺の剣で真っ二つに切り裂かれていた。


 少しして、ドサッという音がした。

 ヴェーネが大剣でスコルを倒したらしい。

 だが僅かに俺の方が速かった。

 大剣は確かに威力は高いが、大振りだからどうしてもスピードで劣ってしまう。

 だから俺の勝ちはやる前からわかってた。

 まあそれでも、ヴェーネの大剣技は他の大剣使いと比べれば格段に速いんだけど。


「じゃ、料理当番よろしく!」


「むうぅー!」


 ヴェーネが悔しそうにむくれる。

 キャンプ場に戻り、ヴェーネが早速焚き火でスコルの肉を焼き始めた。


「シャンテ、どこ行ってたんだ?」


「ん、ああ、これを拾っていた」


 シャンテが見せてくれたのは、何かの草だった。


「それは?」


「この辺りに群生しているバシル草だ。いい香りがするから、肉に巻けば臭みが消せる」


 おお、それはありがたい。

 ヴェーネは不器用だから、これがあれば万が一肉を焦がしても何とか食べられる。

 案の定ヴェーネは焼き加減を失敗し、いくつかの肉を焦がしてしまった。


「お前、もう少し肉の焼き方も練習しろよ」


「う、うるさいわね。文句あるなら食べなきゃいいでしょ」


 ヴェーネの悪態をいなしながら、シャンテが拾ってきてくれたバジル草を使って肉の臭みを取る。

 お陰でおいしくスコルの肉をいただくことができた。

 夕餉を食べ終わると、ヴェーネとシャンテはテントで、俺は寝袋にくるまって休息を取った。

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