第22話 新たな懸案
修行を始めて一週間たった。
地獄のような修行も、一週間続ければ次第に慣れてきた。
今日も俺はシャンテと共に、村から少し離れたところにある森の中で修行に打ち込んでいる。
「アラド、もう一度やってみろ」
シャンテが切り株に腰掛けて厳しい視線を送ってくる。
俺は左右の手にそれぞれ片手剣を持って構える。
この二刀流スタイルははじめの頃こそ違和感があって上手く使いこなせなかったが、修行しているうちにその違和感は確実に小さくなっていった。
神経を集中させ、眼前を見据える。
「うおおおおお!!!」
『セイクリッド・エッジ』!!
金色のオーラをまとった二本の片手剣を振り下ろし、前方にオーラを放出。
凄まじい衝撃音と共に、目の前の木々が次々と打ち倒されていく。
「どうだ?」
すっかり身通しが良くなって広場みたいになった所を指し示した。
「うむ、見事だ。この僅かな間によくここまで自分のものにしたな」
シャンテが珍しく手放しで俺を褒めてくれた。
いつもは、「この程度のことも出来ないのか」とか「ここでへばってるようじゃまだまだだ」とか、キツイ言葉を浴びせてくることはあっても、こんな風に褒めてくれることは滅多にない。
「少しは俺のこと認めてくれたか?」
そう聞くと、シャンテは再び厳しい顔になった。
「調子に乗るな。まだ技を出すタイミングにやや難がある。もっと完璧に出来るよう研鑽しろ」
……どうやらまだまだのようだ。
それから再び地道な修行が始まる。
修行が終わったのはもう日が傾いた頃だった。
「よし、今日はここまで」
「疲れたーーー」
シャンテの終了の合図と共に俺はその場にバタンと倒れこむ。
それを見ながら「やれやれ」と溜息をついたシャンテの顔が真剣になる。
「! あれは!」
「どうかしたのか?」
シャンテが見上げている方に視線を送ると、巨大な赤い翼竜が飛んで行くのが見えた。
「あれは、フレイムワイバーンか!?」
イザルス山脈の山頂で戦ったフロストワイバーンの色違いのモンスターだ。
フレイムワイバーンが飛んで行った先は……キィンロナ村!
「まずい、あいつ、村を襲う気か」
「急ぐぞ! アラド」
シャンテのかけ声が終わらないうちに、俺はもう駆け出していた。
◆◆◆◆
俺とシャンテが村に到着すると、大剣を持ったヴェーネがフレイムワイバーンと交戦中だった。
ヴェーネのやや後ろから、リュミヌーが弓で援護射撃している。
リュミヌーはともかくヴェーネは一応Aランク冒険者なのだが、怪我が完治していないせいか、苦戦している。
フレイムワイバーンが口を大きく開いて火炎の球を吐き出した。
ヴェーネは軽やかなステップでその火球を躱していくが、彼女がちょうど着地したタイミングを狙って敵は再度火球を放つ。
よけきれず、両目をつむってダメージを覚悟するヴェーネ。
だが、彼女は無傷だった。
俺が間に入って盾で火球を防いだからだ。
「アラド!」
嬉しそうに叫ぶヴェーネを横目に、俺は左手の盾をその場に落とす。
代わりに闇剣ダークアスカロンを左手に装備し、右手の光剣ムーングレイセスをフレイムワイバーンに向けて構える。
二刀流の構え。
突然の闖入者にも動じることなく、フレイムワイバーンはすかさず臨戦態勢。
軽く宙に浮き上がり、口を大きく開いて火球を放とうとしているフレイムワイバーン。
だが、相手が攻撃してくるのを黙って見ているほど、俺は吞気じゃない。
地面を強く蹴って一気に間合いを詰めると、両手の片手剣をクロスさせるようにしてフレイムワイバーンに剣戟を浴びせる。
フレイムワイバーンの胴体にバッテンのような傷痕。
そのまま悲鳴と共に赤き翼竜は大地に沈んだ。
武器を鞘に収めると、ヴェーネとリュミヌーがこちらに走ってきた。遅れてシャンテもこちらに歩いてくる。
「こいつ、イザルス山脈の山頂にいたやつに似てるな」
「もしかして、この近くに翼竜の巣でもあるのでしょうか」
俺の言葉に、リュミヌーが首を傾げながらそう言った。
リュミヌーの言う通り、この近くに翼竜の巣があるとしたら、また村が襲われるかもしれない。
「どうやら、村の防衛について本気で考えなければいけないらしいな」
しんみりとした口調でそう呟くシャンテ。
やはり、村の防衛問題を解決しないと俺はこの村をおちおち離れられないようだ。
「となると、やはり……」
「何か考えがあるのか? シャンテ」
俺がそう訊ねると、シャンテは一つ頷く。
「魔導砲を直すしかないな」
シャンテが向いている方を見ると、砲台に固定された黒光りする大砲がある。
以前リュミヌーから話を聞いた魔導砲ってヤツか。
あれの威力がどれ程のものかはわからないが、もしあれを直せれば村人達だけで村を護衛することが出来るかもしれない。
「問題はどうやって直すかだが」
シャンテはしばらく考えて、やがて口を開く。
「ドワーフ族に頼むしかない」
確かリュミヌーもそう言っていたが、あの魔導砲を直せるのは相当腕利きのドワーフ族じゃないとダメなんじゃなかったか。
俺の懸念を察したかのように、シャンテは言葉を続ける。
「心配するな、技師のアテはある。明日さっそく頼みに行ってみよう。アラドも一緒に来てくれるか」
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