第14章:狂宴

14-①:ジュリアン

「……ん?」

 セシルはうっすらと目を開けた。どうやら気を失っていたらしい。

「…っ!」

 そして、セシルは顔を上げるなり、目を見開いた。



「ここは…?!」

 セシルは周りを見回しながら、立ち上がる。ごつごつとした岩肌の空間が、明かりに照らされている。ここはどこかの洞窟の奥らしかった。


 しかし、普通の洞窟ではないのは明らかだった。あたりにはガラスの筒が所狭しと並んでいる。そして、その中で培養液に漬けられている人間は、皆同じ顔…


「アメリー…」

 銀髪のアメリアが中に入っていた。セシルは一番傍に合った筒の中を呆然と見る。



「あ、目が覚めたんだ」

「…!!」

 セシルは、ばっと振り返った。いつの間にか、アメリアの姿をした女が立っていた。女は頭の後ろに組んだ手をやり、セシルを見ていた。


「どう~?これ全部、ボクの器の複製。だけど、後で教えてあげるけど、この器は特別でね、他にも用途があるんだよ~」

「一体何者だ、お前」

 セシルは身構える。


「さっきも言ったでしょ?ジュリアンだって」

「そうじゃない。…名字を言え」

「……」


 女は問いには答えず、にまにまと黙ってセシルを見ていたが、やがてぷっと小さく笑ったようだった。


「やっぱりキミにはわかっちゃったみたいだねえ。ボクの名前はジュリアン・フィランツィル=ショロワーズだよ」

「…!!」

 そうじゃないことを祈っていた予想通りの答えに、セシルは驚愕して後ずさった。


 セシルはリトミナの建国物語を読んでいたので、初代王妃の名前がジュリアンと言う名前であり、夫からリアンという愛称をつけられていたことを知っていた。しかし、まさかとは思っていた。そんなこと、ありうるわけがないと。


「何で疑っていたくせして、驚いているの。まあそりゃそうか。500年も前のご先祖様がこうして目の前にいるんだからねー。驚かないわけないかー」

「なんで、なんで生きているんだ…?初代王妃は500年も昔に死んだはずだろ?仮に本人だとしても、他国はさておき、なんでリトミナを動乱に巻き込むようなことを…」


「説明するのめんどいから、カンリャクに教えてあげるね。まず一つ目、500年も前に死んだのに何故生きているのか」

 女はもったいをつけるように「そ・れ・は・ね」と口の横に人差し指を当てた。


「王家の最悪の事態って最後には行使者の体が結晶化するんだよね。で、500年前、ボクが大爆発しちゃったとき、一杯破片が出来て、メラコの山にまで飛んで行っちゃったんだよ。だけど、みんな落ちる直前で空気のマサツネツで消滅しちゃって、残ったのは大きい破片だったボクぐらいなんだ。そして、どういう理屈かは分かんないけど、その時、どうやらボクの意思がその破片の中に残ったみたいなんだよね。で、石には寿命がないから今まで生きてるってこと。一つ目は、そういう事」


 セシルは女―リアンの言葉に驚愕する。石に意思が宿って今まで生きていた?そんなことがありうるのだろうか。と思った時、



―ちょっと待てよ


 セシルはふと気づく。メラコの山に飛んで行った破片って…。


「お前、まさか、マンジュリカのネックレスだったあの石…?」


 約500年前に起きたという青白い流星群。その多くが降ったと言われるメラコのその山は、その日以来、神の奇跡が降りし山として信仰の対象になったのだ。その流星群の正確な年月日などをセシルは知らない。だが、初代王妃の死亡時期とメラコ教の創始時期はともに、約500年前とおおまかには一致している。ということは、メラコの山で拾ったあの流れ星らしき石は初代王妃の体の一部…


「ピンポーン。よくわかったねえ」

 リアンは嬉しそうにぴょんと跳びはねる。


「キミに拾われた時には意識はなかったみたいなんだけど、9年前のあの時、キミの王家の最悪の事態に触れたことで覚醒したんだよ。ありがとうね~感謝してるよ」


 このような得体のしれない人間―もとい石だが―を目覚めさせてしまったことは、一生の不覚だと、セシルは思う。感謝などされたくもない。



「で、二つ目の答えはとても簡単、人間がムカつくから」

「むかつく…?」

 セシルはあまりにも単純すぎる答えに、思わず問い返す。しかし、リアンは「話はここまで」とぱちんと両手を合わせた。


「今日はキミに会わせたい人がいるんだよ」

「会わせたい人…?」

 リアンは暗い洞窟の奥に向かって「おーい」と叫んだ。


「まさか、マンジュリカか!」

 セシルは手に氷の剣を出現させた。しかし、リアンは「違うしぃ」と笑った。


「マンジュリカならとっくに死んだし」

「死んだ?そんなわけないだろ、不死身になっていたってのに。サアラを操っていたのだって、あいつが…」


 セシルはサアラの狂気の様子を思いだす。きっとサアラはマンジュリカに操られていたのだと思う。そうでなければ、自分を殺そうとするはずがない。しかし、リアンは、そんなセシルの心を見透かしたかのように続ける。


「サアラなんて操ってない。あれは、サアラ自身が望んでやったことなんだよ。キミが自分の手に入らず、誰かのものになるぐらいなら、キミを殺して永遠に自分のものにしたいって思ってたみたい」

「…嘘だろ…」


 セシルは呆然とつぶやく。サアラが、小さい時からあれほど仲の良かったサアラが、自分を殺そうとするなんて。しかし、誘拐前に殺されそうになった時のことを思い出すと、セシルはそれが嘘だとも言い切れなかった。


「それに、マンジュリカならちゃんと死んだよ。あのお祭りの日に、予想外の邪魔が入っちゃってねぇ。そいつに食べられちゃったんだよ。ボクも油断して、そいつに半年ほどメラコの山の中に封じ込められちゃった。まあ、なんとか出てきてやって、お礼にそいつを、そいつが喜びそうな場所―リザントに封じ込めてやったけどね」


「…は?」

 セシルは、すぐに理解できない。要するに、あのサーベルンの祭りの日に、誰か奴らの敵となる存在があのマンジュリカを殺し、この女を一時的にも行動不能にしていたということだろうか。



 しかし、近づいてきた足音に、セシルははっと振り返ると、驚愕した。

「…久しぶりだね。セシル」

「…アーベル…」



---------------------------------------------------------------------

 サクラソウの仲間、プリムラ・ジュリエとプリムラ・ポリアンサの交配で、プリムラ・ジュリアンが誕生。




 初代王妃の出身民族ジュリエの民と、初代国王の出身地ヘルシナータの首都ホリアンサ(ポリアンサ)で、初代王妃の名前の回答が導き出せる…訳ねーだろ!とキレられた方、すみません…。ただの言葉遊びという事にしときます。(ちなみにカクヨムの私の登録ユーザー名(鮎川拓馬@sieboldii)も、ちょっとしたヒントのつもりで登録してたり・笑)


 それと、手乗りメラコという矮性のプリムラがありまして、石になって小っちゃくなった初代王妃がいた所という事で、メラコなんちって。後、リトミナの暦、ロゼア暦ってのも、プリムラ・ロゼアにちなんで…。サーベルンのトキワ暦は、トキワザクラ(桜草の別称)にちなんで…(笑)。




 後、伏線をぶち込みすぎて、文章自体が訳がわからなかったことも多いと思います。すみません、いつもご苦労をおかけしてます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る