第8話 そいつの名はクラッシック下着

「ちょっと、待って!なんで、こんな恰好で、こんなことしないといけないの!?」


 轟音を響かせる滝の音に負けない大声で綺羅が叫ぶ。


 昼食を食べ終えた後、綺羅は強制的に着替えをさせられて、滝壺の前に連れて来られていた。


 滝に打たれろと言うアクセリナに綺羅が半泣きで抗議する。


「あの下に行けって無理!」


 綺羅が指さした先には結構な水量が上から垂直に落ちてくる白滝があった。


「いいから、つべこべ言わない!」


 アクセリナが容赦なく綺羅に蹴りを入れる。


「うわっ!」


 綺羅が滝壺の中に落ちる。


「冷たい!何これ!?夏なのに冷たいよ!」


 水の冷たさに驚く綺羅にアクセリナが叫ぶ。


「冬じゃないだけマシでしょ?さっさと滝に打たれてきなさい!」


「うえー」


 覚悟を決めたのか不満顔のまま綺羅が滝の下に泳いでいく。そして丁度、滝の真下にある大岩によじ登った。


「痛い!これ結構、痛いんだけど!?」


「いいから、黙って打たれなさい!」


 アクセリナの指示に綺羅が両手を胸の前で合わせて両目を閉じる。その様子を見てアクセリナが腰に両手を当てて息を吐いた。


「まったく。やれば出来るのに、さっさとしないんだから」


「……いや、あれは私もしたくないな」


 頭上から降り注いでくる冷水を頭から浴び続けるのも嫌だが、それよりあの恰好がクリストファーは嫌だった。昔から日本にあるものらしいが、人前であの恰好にはなりたくない。


 引きつり顔で綺羅を見ているクリストファーにアクセリナが無情な発言をする。


「クリストファーも必要があればするわよ」


「全力で拒否する」


「じゃあ、必要にならないようにすることね」


「どうすれば必要な事態になるのだ?」


 それさえ避けていれば綺羅と同じことにはならないはずだがアクセリナは軽く首を傾げた。


「さあ?私は本能的にそういうことを避けるから、よく分からないわ」


「頼れるのは自分の本能ということか」


「そう。でもクリストファーも綺羅と同じで本能がそんなに鋭くないから、あまり過信しないほうが良いわよ」


「……では、どうすれば?」


「さあ?」


 クリストファーはひたすら滝に打たれる綺羅を見て決心したように呟いた。


「怪我が治るまで部屋に引きこもる」


 いつもすました顔で落ち着いた雰囲気を漂わせているクリストファーから出た拗ねた子どものような発言にアクセリナは盛大に笑った。腹筋で震えるお腹を押さえながら瞳に溜まった涙を拭う。


「ま、せいぜい頑張って」


 隣でどんなに大笑いされようがクリストファーは無言だった。あのような恰好で滝に打たれるぐらいなら、部屋から一歩も出ないほうがマシだ。


 そう決めたクリストファーの視線の先には鍛えられた体に白い褌が輝く綺羅の姿があった。


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