2℃ mao
「マオ様、メシア太丸がいらっしゃいました!」
どうやらここが終着点のようだ。予想していた神聖な場所には程遠く、重苦しい雰囲気が漂っている。そして太丸が一歩踏み出すと……。
ギャリアァッ!
突然、あたりの暗闇から生き物とは思えない声が聞こえた。太丸は少し怯んだが、よく見てみると、鎖で繋がれているようだ。目は赤く狂気の色に染まっており、体の全てが殺気だっている。
「他のデビルとは違う……こいつらが悪魔か……!」
太丸が驚いていると、奥の方から暖かな青い光が差し込む。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ人間!」
青い光は収束するように1つのデビルの姿になっていく。
「ビビってんじゃねー!!早く俺らにソウルをよこしやがれ!」
この声、この感覚。デジャヴのように感じる。落ち着くようで、懐かしい。太丸が少しの間、この気持ちに浸っていると、執事が太丸に近付き声をかける。
「……太丸様。あなた様の熱をわけてあげて下さい……」
「……どうやって?」
熱を分ける?疑問にしか思わない。執事は続ける。
「名前を、ソウルを呼び覚ますのです……!」
「名前……」
普通わかるはずない。でも今は確かに胸に……。
「……バズズ、カコデモン」
呟きは次第に大きく、はっきりと鮮明なものへとかわっていく。
「クルード、ドゥルジ、サキュバス……!」
全ての名前を呼び上げると、体の奥から抑えきれない力が解放されていく。
【この青の輝き!まさしく強き青の炎!我等の欲する熱!】
先程まで狂気に満ちていた悪魔たちに青い光が灯る。目は元の優しき瞳にかわり、束縛されていた体に生命の力が宿っていく。
「「俺達、戻れたんだ!メシア殿が助けてくれた!これでシェオールは救われるぞ!」」
言葉を交わすデビル。嬉しさのあまりに泣き出す者もいた。皆の口からは笑みがこぼれ、喜びが先程までの重苦しさを吹き飛ばすようにこの部屋を埋めていく。
「人間の力、それは他者にソウルをわけることが出来るのです」
執事が太丸に人間の力を説く。
「これが俺の力……!」
感動しかない太丸。すると執事がひざまずく。
「……メシア太丸」
周りのデビルたちもこちらを向き、頭をさげている。
「その来臨に感謝いたします……どうか!」
「どうか我等を、このシェオールの地をお救いください!」
救世主という言葉。その言葉やっと理解する。そう、太丸にはこの世界を救う力がある。
「なんだよそれ……!めっちゃ輝いてんじゃん!」
夢にみた話。ゲームや漫画で憧れていた主人公。その体験を現在進行形で体験した太丸の目は生き生きと輝いている。大きく呼吸をして、辺りに語りかける。
「……いいか、お前達!俺はシェオールを救う、この力で魔王をぶっとばす!」
そして。
「俺は救世主になる!」
と、宣言したあと直線的に太丸の頭をめがけて突進してくる物体。
「生、言ってんじゃねぇ!」
ドゴッ!
軽く脳震盪がおこりそうな一撃を頭にくらった太丸。気づけば、先程の青いデビルが太丸の目の前にいる。コイツが突進してきたようだ。
龍……と呼ぶには程遠い生き物。鹿の角に、尖った口元。首には柔らかそうな毛がふわふわと生えており、体は幼虫のようで六つの手が青い宝玉を大事そうに抱えていた。
「お前みてぇな雑魚一匹じゃあ何も出来ねぇんだよ!」
喧嘩腰のデビル。流石の太丸もこれにはカチンと来たようだ。
「なにもんだてめー!」
「この方はマオ様。この東の地、ニヴルヘイムの守護神です」
執事はマオと呼ばれたデビルの横に立ち、教えてくれた。マオはまだ不機嫌そうにこちらをみている。
「こいつがメシアか?小便くさいガキじゃねぇか」
相次ぐイライラワード。二人は口論になる。
「お前だってチビだろーが!」
「バカいえ!俺は千年生きてんだよ!」
すっと間に入って喧嘩をとめる執事。太丸により詳しくマオについて語っていく。
「マオ様は唯一神ラクァッホ様の力を授かり、この東の地を夢の世界にすることで守り続けてくれました。」
それでもマオは挑発を続ける。
「さっき見てたぜー!お前、過去のシャルルと目が合っただけでビビってたなぁ?」
先程の光景。過去のシャルルをみたとき、明らかにこちらを睨んできた。その威圧感を再び思い出す。
「……あれはただ!」
「お前自分が特別だと思ってんだろ?」
少し怖じ気づいた太丸に気付き、づけづけと文句を言ってくるマオ。
「そんなことねぇ、人間なら誰でもいいんだよ!どんな雑魚だって、俺と契約すれば勇者になれる!この俺が特別なんだ!」
明らかに調子にのっているマオ。太丸は苛立ちを隠せない。
「お前なぁ……!」
微笑ましくふたりを眺めていた執事は、咳払いをして二人の喧嘩をとめる。
「お二方、元気なのはとてもよろしいことです。しかし、明日からは運命を共にする身。仲良くして下さい」
運命を共にする?何が始まるかわからない太丸は疑問に思う。
「明日から何があんだ?」
いやがる表情を隠せないマオ。太丸に嫌そうに言葉を吐く。
「ラクァッホのとこに行くんだよ」
ラクァッホ。先ほどいっていた唯一神のことか。
「そこで仕方ねぇけど、俺とお前のソウルを一つにしてシャルルを倒す力を手に入れる」
それに付け足すように、執事が言葉を重ねる。
「マオ様、明日に夢の結界をときラクァッホ様の元へ旅立って下さい。どうかお二人で協力して聖地を目指すのです!」
「……お気を悪くさせてしまいましたか?」
時忘れの間から退出する太丸と執事。執事は少し心配そうな顔をしている。
「……少しな」
「マオ様は千年あなたを待ち続けました」
千年……想像も出来ないくらい果てしなかったのだろう。
「その間、多くの仲間が悪魔になり、倒れていったのです。長い間、眠り続けて心はまだ子供。思うところがあったのでしょう。許してあげて下さい」
こうして、二人は出会った。運命的とは言えないが、確かに互いの存在に気付いたのだった。
一方、その頃。北西20キロ地点に1つの空中船が飛行している。禍々しいデザインの機体の中に彼はいた。
「おおー我が故郷、ユグドラシルは今日も立派であるなー」
細いシルエットに、髑髏模様の羽。人間の力を姿に近い彼は、呑気に大樹を眺めていた。
「アソコニ人間ガ……?」
鎧を着込んだ悪魔。その隙間から隠しきれない醜い体が、みてとれる。理性を持っているのかわからないが、先程の者に問いかける。
「知らねーよ。シャルール様が行けって言ったから来たんだよ」
めんどくさい。めんどくさい。そういった風にこたえる。
「いいか、今回はお前のために手柄を渡してやるんだ。感謝しろよ」
「……アリガタキ」
鎧の隙間から腐臭が漂う。話すたびに漏れだしている。
「ああー口くせー、もう喋んな」
鼻を摘まみながら彼は、少し鎧を観察するような動作をみせる。
「……潰ス……潰ス……潰ス!」
彼は考え込む。
【理性がないな、爵位を貰ったばかりのバロン級ではこんなもんだろう】
そしてまた大樹を眺める。
「まぁ、十中八九負けることはないだろう。人間には調度いい練習相手だ」
鎧は少し頭を傾ける。
「……潰ス?」
「ああーわかんないでいいのよ。よし!ついでに顔を拝見しておくとするかー!」
目指すは大樹ユグドラシル。狙うは東帝と救世主。彼は胸をときめかせまだ見ぬ光に闇を運んでいく。
ラドックソウル @gurassimiri
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