第5話 続く勝負
続く勝負の行方を一夏と佳奈はプールサイドから見ていた。
不安で始まった勝負だったが、今では興奮していた。
「凄いね、佳奈ちゃん。優勢だよ!」
「うん、でも……」
佳奈は何か不安を感じているようだった。それを口にする。
「こういう時って次で逆転されるんだよねえ。わたし大丈夫かな」
次の相手のタコタコ星人は体が大きくてとても強そうだった。不安を感じるのも無理は無いかもしれない。
だからこそ、一夏は力づけようと元気に言った。
「大丈夫だよ、佳奈ちゃん! 少しぐらい負けそうになっても、アンカーのあたしが勝つからさ!」
「うん、任せるね。キャプテン」
「キャプテン……あたし、キャプテンかあ」
一夏がそう感動を噛みしめた時だった。客席から声が飛んだのは。
「一夏ちゃ~ん! 応援に来たわよ~!」
「頑張れえ!」
人混みの中に両親が来ていた。
「お母さん! お父さんまで!」
父は今日は仕事だったはずなのに、会社を休んでまで来たようだ。
一夏は恥ずかしくなって、隠れたくなった。だが、佳奈の後ろぐらいしか隠れる場所が無かった。
佳奈は背後の一夏を笑顔で振り返って言った。
「フフ、応援団が来ているね。じゃあ、わたしも一夏ちゃんに恥を掻かせないように行ってくるから」
隠れる場所が行ってしまう。
佳奈は次のタコタコ星人と並んでスタート台に着いた。一夏から受け取った勇気で、隣に立つ岩のように頑強そうなタコタコ星人に言う。
「あなたはタコ四郎さんですか?」
「違う。俺はタコ五郎だ」
次郎三郎と来たから次は四郎だと佳奈は思ったのだが、どうやら違っていたようだ。首を傾げて訊いた。
「では、四郎さんは?」
「四郎は死んだ」
「死んだ!?」
思いも掛けないショッキングな言葉に佳奈は口を噤んでしまった。
タコ五郎は言う。
「あの戦いの反省から、リーダーは戦争ではなく、こうした勝負で侵略をするようになったのだ」
「そうなんですか」
思いも掛けない言葉に佳奈はいろいろ考えてしまう。
振り払わせるようにタコ五郎は言った。
「気に病む必要はないぞ。お前達が負ければ、滅びるのはお前達なのだからな」
そうだった。タコタコ星人は一夏達が負ければ地上を海に沈めると言っているのだから。
自分達は優勢だからと気を緩めすぎていたのかもしれない。
タコ三郎がもつれた足をほどき終わって、追い上げを開始する。
「許しませんよー!」
冷静さも何も無い力任せの平泳ぎだ。その動きには無駄が多かったが、美波はそれほど水泳が速いわけでは無かった。
距離が詰められていく。だが、追いつかれる前にゴール出来た。
「あとお願い!」
「うん!」
このリードを無駄には出来ない。特に仲の良い友達というわけでは無かったけど。佳奈は唯と美波の思いを受け取って、プールに飛び込んだ。
美波は黙ってプールから上がった。そこにタコ五郎から声を掛けられた。
「今のうちに勝ち誇っているのだな。リーダーの自由形は甘くないぞ」
「ご忠告どうも」
「ついでにもう一つ言っておいてやる。俺の傍に来るな。死にたくないならな」
「分かりましたわ」
美波は小さく頭を下げてプールサイドを歩いていった。
言われずともタコ五郎から立ち昇る闘気は見えていた。近づく者全てを粉砕するような凄い気だった。足を括るような小細工は無理だとすぐに悟った。
思考に没頭して隙があった三郎が間抜けだったのだ。
「佳奈―! 頑張れー!」
唯はすっかり自分の出番は終わったとばかりに応援の声を張り上げている。
だが、美波はそのように呑気に浮かれてはいなかった。
「何かあると考えるのが普通よね。一応手を用意しておきますか」
彼女の頭はすでにこれからの勝負のことを考えていた。
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