第4話 勝負が始まる

 30分後。

 暖かな日差し、人々の集まる中で、勝負が始まる。

 一番目の選手であるタコタコ星人と唯がプールに入ってスタート位置に着いた。

 相手は戦いに慣れているようだ。そう唯は相手の体格や身のこなしから読んでいた。

 それに目付きが鋭い。負けまいと唯は余裕を見せて不敵に見つめ返した。

 相手は少し感心したように目を細めた。


「俺はタコタコ星人のタコ次郎だ。お前の名は何と言う」

「唯だ。陸上部をやっている」

「その陸上はもうすぐ無くなる」

「無くさせないさ。わたし達が勝つ!」


 ピストルが鳴る。スタートの合図で二人は同時に飛び出した。


「何だと!?」


 タコ次郎はすぐに驚くことになる。唯は速かった。それにフォームが力強く美しかった。

 タコ次郎はそれをもっと見たいと身を捻って遅れてしまった。


「タコ次郎! 何をやっている!」


 リーダーから叱責が飛ぶ。


「はっ! しまった!」


 タコ次郎はすぐに体勢を戻すが、もう勝負は付いていた。25メートルのプールで唯はもうずっと先にいる。

 その光景を第2泳者である美波はタコ三郎と跳びこみ台に立って見ていた。


「まずはこっちのリードのようですわね」


 だが、タコ三郎は全く慌てた様子を見せなかった。

 彼はクールで知的な性格のようだった。


「しょせん彼は力だけで泳いできた男。泳ぎとはスマートでクールな技ということを知らないのですよ」

「たいそう自信がおありのようで」

「すぐに分かることになるさ。君も。僕の泳ぎを見ればね」


 美波はプールに視線を戻す。タコ次郎は力任せに背泳ぎをしているが、それでは唯に追いつくことは出来なかった。

 二人プールを凝視する。唯が着き、美波は綺麗な人魚を思わせるフォームでプールに飛び込んだ。


「あの子は相変わらず……」


 唯は見送り、プールから上がった時に


「やってくれる子だなあ」


 気づいたことがあったが、それを口にすることはしなかった。

 タコ次郎がゴールに着く。


「済まない! 遅れてしまった!」

「あなたの無様を笑うのは後にしますよ。そこで自分の無力さを反省するのですね」


 タコ三郎は飛びこみ台からプールを見る。相手にリードを許しているが、計算では追いつけるはずだった。


「では、優雅に……参りますか」


 タコ三郎は獲物を狙う残忍な笑みを浮かべ、スマートに飛びこむはずだった。

 だが、足がもつれて引っ張られるような感触とともに空中で体勢を崩し、派手な水しぶきを上げて落下してしまった。

 浮かび上がって自分の足を見て、タコ三郎は驚いた。


「なんじゃこりゃああ!」


 足が括られていた。何でこうなっているのか理解出来なかった。


「美波の仕業だな……」


 唯には想像がついていたが、それを相手に教えてやる義理は無かった。

 これはスポーツではなく、生存を掛けた勝負なのだから。


「くそ固い!」


 タコ三郎が足をほどく間にも美波は平泳ぎでリードを広げていく。

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