第3話 4人目は誰だ
プールにはもう人が集まっていた。マスコミも来ていた。
校庭にはたくさんの車が止められ、人で賑わっている。
テントが建てられ、売店も出ていた。大人はしたたかだ。
一夏は人の間を縫うように歩いていく。小学生の一夏の身長は低いのでちょっと苦労したが、隙間も無いほど混雑しているわけでも無かったので通る事が出来た。
ぶつからないように気を付けて歩いていく。
テレビに自分が映るかも。一夏の鼓動は高鳴ったが、特にインタビューは求められなかった。
みんなタコタコ星人のことに半信半疑だったのかもしれない。無理もないことかもしれない。
自分もインタビューされて何も起きなかったら恥ずかしすぎる。勝負することよりもそっちの方が心配になってしまう。
一夏は人で賑わう校庭を横切ってプールに向かう。入り口に着いたところで声を掛けられた。
腕を組んで偉そうにふんぞり返っている美波と、熱血の闘志を見せている唯がいた
「逃げずに来ましたわね、一夏さん」
「ここから先は決戦の場所だ。もう後戻りは出来ないぞ!」
二人ともとてもやる気に満ちていた。そのやる気を一夏も受け取った。
そうだ。異星人の侵略を前に、もう尻込みは出来ないのだ。
一夏達は円陣を組んで手を合わせた。
「うん、やるよみんな! あたし達の手で世界を救うんだ!」
そんな台詞でも普通に言えた。その光景はバッチリとカメラに撮られていた。
お茶の間のニュースは今回の事件を伝えていた。
これからの戦いに、世界が注目していた。
水着に着替えた一夏達はプールサイドで準備運動をしていた。
もう慌てても仕方ない。万全の準備で挑むだけだ。
やがて時間が来る。ちょうど昨日と同じ時間になった時だった。
周囲が暗くなる。もう分かっていた。見上げると空に宇宙船が現れていた。
一夏はもう迷わなかった。強い選手の目でそれを見上げた。
光が今度は地上に向かって照射される。それに乗ってエレベーターのように降りてきたのはタコタコ星人だ。彼らがプールサイドに降り立った。
同時に乗り組み員を降ろした宇宙船が姿を消した。
彼らの姿を直接見るのは始めてだった。周囲の人々からは驚きの声が漏れ、カメラのフラッシュが焚かれるが、誰もそちらを気にしてはいない。
選手達は堂々と向かい合った。タコタコ星人の中央に立つリーダーが言う。
「勝負を始めよう。まずはルールをおさらいしておくか」
一夏は頷く。勝負が水泳のリレー方式だとは聞いていた。タコタコ星人は改めてそれを確認していく。
「勝負は水泳のリレーで行う。4対4、そちらの様式にのっとって背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、自由形の順番だ」
「その順番で良いの?」
一夏は横の美波に訊く。美波は頷いた。
「ええ、わたくしがネットで調べた通りです」
さすがお金持ちのお嬢様だけあって、美波は一夏の知らない情報収集の手段を持っているようだった。一夏は素直に感心してしまった。
唯が闘志に拳を打ち合わせて言う。
「こちらのルールに合わせるなんて、相手は相当な自信家だな」
「ええ、水の惑星出身なだけに泳ぎは達者なのでしょう。だからこそわたくし達に敗北を知らしめることが出来る」
「でも、あたし達は負けないよ!」
「それはもちろんですわ」
「みんなが見てるしな!」
「でも……」
一夏には一つ心配なことがあった。二人が気づいていないようなそれを口にする。
「あたし達3人しかいないけど」
「そう言えば、4対4って言ってましたわね」
「わたしが二人分泳ぐ!」
「ええーーー」
唯は随分と自信家だ。運動が得意なので当然かもしれないが。
そんなことを話し合っていると、声を掛けてきたのはタコタコ星人のリーダーだった。彼らの他のメンバー達はすでに準備運動を始めていた。
「あの場にいたのは4人では無かったかな?」
「え? 4人?」
一夏達は顔を見合わせる。だが、考える暇は無かった。
すぐに声を上げた人物がいた。
サングラスを外し寝転んでいたチェアから立ち上がりシャツを脱いだ、競泳用の水着を着た彼女は先生だ。
「フッ、先生の実力を見せる時が来たようね!」
「まさか先生が!」
いつもプールサイドのチェアに寝そべっていたので気づかなかったが、彼女は実は凄い選手だったのだろうか。
強い眼差しと威厳のある立ち姿からそうと感じる。一夏達は憧れの目で先生を見た。
タコタコ星人は言う。
「いや、プールにもう一人いただろ」
「え?」
「わたしです。潜ってました」
「佳奈(よしな)ちゃん」
人影からこっそり現れたのは隣のクラスの佳奈ちゃんだった。一夏は前に着替え中に一緒に話す機会があった。
彼女もあの日来ていたのか。気づかなかった。
「先生は……」
もう誰も先生には構わなかった。ここからは選手達の戦いだ。
タコタコ星人は言う。
「4人揃ったようだな。勝負は30分後に行う。それまでせいぜい作戦を立てておくことだな」
そして、彼は仲間達と準備運動をしに向かった。
一夏達は集まって作戦を考えることにする。
「まずは順番を決めないとね。誰が何を泳ぐか、得意なことも考えて決めないと……」
「わたしは一番をやらせてもらうぜ! 背泳ぎだろうと何だろうとどんとこいだ!」
「では、わたくしは二番をいただきますね。平泳ぎは得意なんですの」
「あ、じゃあわたしは三番で……」
「えっと、じゃああたしは……ってもう四番の自由形しか空いてない!」
何かを考える暇も無かった。一夏が何を言う間もなく順番が決められていた。
だが、仲間達が決めたのだ。きっとこれが一番良いのだと信じて……
「うう、アンカーだなんて緊張するよお」
「大丈夫だ! わたしがぶっちぎっておく!」
「ピンチになった時はわたくしがフォローしますわ」
「わたしも頑張るから。頑張ろう」
「うん、そうだよね。よし、やろう!」
一夏は大空に高く拳を突き出す。
そして、準備運動を始めた。
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