05.タバコとお酒


新しい靴で出勤した。


昨日の欠勤について、上司にはさほど怒られなかった。

昨日部屋のパソコンで必要な書類を作成しておいたおかげか、僕に関心が無いのかはわからない。

だけど少しだけ、心が虚しくなった。

真面目に働いてはいるのだが世間話が苦手な僕は、職場内では空気のような存在だった。

毎日黙々と仕事をこなし、残業になりそうであれば仕事は自分から持ち帰ることにしている。

残業代よりもこの居心地の悪い空間から少しでも早く抜け出したいからだ。

そんな僕に話しかけたり飲みに誘うような同僚はいなかった。気づけば孤立していた。

今日も仕事を持ち帰ることにして、スーパーでお酒とおつまみを買って帰る。

これも、日常。



自宅の鍵を開ける際、ふと左に目をやる。

今日は足首がドアに食べられるようなことがなくてよかった。

あの女性はあれから大丈夫だったのだろうか。

僕には関係のない事だが、少しだけ気になった。



持ち帰った仕事を終える頃には21時を回っていた。

僕はダウンジャケットを羽織り、買ってきたビールとナッツとタバコを手に取りベランダに出た。

狭いベランダに置かれた小さな机と、木で作られた折り畳み式の椅子。

ここが僕のお気に入りの場所だった。


このベランダから見えるものと言えば汚い川と遠くで光るラブホテルくらいなものだが、それすらも好きだった。汚さがリアルな自然と人工的な眩しさのミスマッチ感が、僕は何故か大好きだった。


タバコに火をつけ、煙を夜空に吹きかける。

ふわっと風に乗り、かき消える。

香りだけを残し、無になる。

僕は缶ビールのプルタブに指をかけた。



その瞬間、視界の左端に何かが顔を出した。

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