04.ウーパールーパーと憂鬱


仕事を休んだ。



あの後、やっとの思いでたどり着いたキッチンは想像を遥かに超える悲惨な状態となっていた。

使えそうな食器が見つからないどころかキッチンとして機能できない衛生状態だった。コンロの上にはパンパンに膨れたゴミ袋の山と衣類。シンクの中は乱雑に置かれた食器とビールの空き缶と、大量のカビ。グラスにもカビが付着していて、使い物にならないだろう。

ここの水は飲ませてはいけない。そう思い、ゴミをかき分け、いまだに吐き続ける彼女を避け、なるべく見ないように嘔吐物を跨いで部屋から脱出した。僕の仕事靴も見ないようにした。すまない。靴。


自室から水を汲んだコップを持ってきて、彼女に手渡した。彼女は唸りながらコップを僕から奪い取り、一気に飲み干した。

「あぁぁぁぁ…も、もう一杯…」

「それはいいけど吐くならトイレで吐いたほうがいいんじゃないかな…?」

「気持ち悪くて立てない…ううっ」

唸り声と共に水が出てきた。

もう出るものなど何もないのではないかと思えるほど、ただの水だった。

「あーあー…水、持ってきますね。」

「うぐぅ…すんません、へへ…」

笑う元気はあるようで少し安心した。


この後何度も水を汲んで来ては彼女にそれを与えた。

彼女は何度も吐いたがしばらくすると落ち着いたようで、静かに唸りながらゴミの上を這って行った。去り際に「ありがとうございます…この御恩は忘れやせん…」とヘロヘロな口調で言っていた。僕は亀でも助けたのだろうか。


彼女の嘔吐物と僕の靴をその場に放置し、僕は自室に帰ってきた。

時計を見るとすでに始業時間を過ぎていた。

職場には「吐き過ぎて動けませんでした。」と連絡した。人助けしてました!なんて、言ったところで信じてもらえるほど僕の評価は職場内で高くはない。

ベッドに倒れ込み、ふと、部屋の水槽に目をやる。

飼っているウーパールーパーがこちらを見て首を傾げている。

「何してんだお前?」と言われてるようだった。


僕も、そう思う。

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