異世界迷子編 9
「やっぱりだ」
昼食を取りながら俺は呟く、朝食も昼食も俺の記憶にある通り、更に先程の勉強も昨日、確かにやった所なのだ。
そして、更なる謎は朝のトレーニングの時に魔法が発動しなかった事だ。昨日は問題なく出来てたのだが、何故だろうか?
(後でマリアベルに聞いてみるか)
釈然とはしないが俺にはどうしようもないので、午後の鍛練、マリアベルとの模擬戦に挑む。
「いつでもどうぞ」
マリアベルの始めの合図と共に打って出る。先ずは、火の初級魔法を繰り出す。
掌をマリアベルに向け唱える。
「ファイラル!」
何も起こらずに虚しく声だけが響く。
(何で出ない?)
もう一度、繰り返す。
「ファイラル!」
やはり、発動しない。異変に気付いたのか、構えをときマリアベルが近づいてくる。
「シン様、どうかされましたか?」
「朝から魔法が発動しないんだ」
怪訝な表情を浮かべながら、マリアベルが俺の腕に触れる。
「失礼いたします」
チクリと針が刺さるような感覚が走る。数瞬後、彼女の顔に浮かんだのは驚愕。
「エマージェンシーコール、ドクターマクカレガー」
呟くと、モニターが浮かぶ。何度かのコール音がしてドクターが写る。
「どうしたの!?何かあった!?」
「ドクター、シン様の魔力が枯渇しています。原因は不明です」
「何だって!?枯渇ぅっ!?直ぐにそっちに行くよ!」
電話が切れ、モニターが暗くなる
「シン様。本日の鍛練は中止です。ベッドにてお休みください」
「ベッドって、どこも悪くないよ?」
「今の状態は異常なのです。詳しくはドクターがお話をしてくださいます」
「いや、でも――」
「シン様!」
突然の大きな声でびっくりする。彼女がこんなに感情を表に出すことは滅多にない。
「あ、申し訳ありません。その、心配なのです。また、倒れてしまわないか」
「……そっか、ごめん。言う通りにするよ」
彼女には悲しい顔をして欲しくなかったので言う通りに屋敷に入りベッドに潜るのだった。
しばらくして、ドクターとシャロンが部屋へとやって来た。
そうとう慌てていた見たいでノックも無しだった。
「ヤマシタ君!」
「あ、こんにちは」
「え?アレ?魔力が枯渇って?」
俺の能天気な様子に毒気を抜かれたようで、ドクターは混乱しているようだ。
「落ち着けドクター。元気そうだな少年」
「はい。特にどこか悪いとか無くて魔法が発動しないんです」
「じゃあ、ちょっと診てみようか」
混乱から回復したドクターが魔法を使って俺の体を調べだした。
「うん、どこも悪くない。ただ、マリアベル君の言う通り、魔力が空だ。これはね、本来なら有り得ないことなんだよ」
「何故ですか?」
「いつか君に話したけど、君の魔力が規格外に高いのは覚えてるかい?」
彼に初めて会ったときの事を思い出す。
「はい、平均よりずっと高いって」
「そう!君の魔力は異常とも呼べる程多いんだ!それを枯渇する程の魔法を君が行使する事は今のところは不可能だ!それに通常、魔力が極端に減った場合は体調不良が必ず起こる。例えば、軽い物なら倦怠感や頭痛だね。ただ、枯渇まで行くと意識を失うと思うんだ。ただ、今のところ君にはそれが見て取れない。こうして話してるしね……何か心当たりはないかい?」
魔法――初級から始まり中、上、特、超とランクが上がって行く。地球には無かったこの世界の神秘の業。超級は天候すらも変えてしまうと言われている。人を傷つけ、時には命すら奪う業深き業。
勿論、人を助ける事だって出来る。要するに使い様だ。
「あの、関係あるか分からないんですけど。実は――」
俺は自身が体験した不思議な出来事が関係しているかも知れないので、話してみることにした。
聞き終わり、シャロンが口を開く。
「扉……なるほど。しかし、それは君の見た夢ではないという確信はあるのか?」
「それは……そうだ!今日、皆がくれるプレゼントが分かります!」
「ほう、では私とドクターのを当てて見せてくれ」
「日記帳とペンです」
ドクターは目を丸くし、シャロンは目を細める。
「なるほど。どうやらそれが君の能力のようだ」
「能力ですか?」
「そうだ。君は
「それは、はい。リトフィリアの人達が手を組めば直ぐに終わるんじゃないかと思いました」
「そう、だがそうはならなかった。勿論、現地人で
「ウイッシュアーツ……枯渇は代償ですか……」
「だから、ヤマシタ君。安心するといい魔力はいずれ戻ると思う。いつかは分からないけど」
「はい」
「では、少年。発動したときの状況をなるべく詳しく教えてくれ」
その晩、バースデーパーティーが終わった後にシャロンとドクター立ち会いの下、実験をしてみたが結局発動しなかった。
俺の魔力は翌日には元に戻っていた。
俺の誕生日から2週間が経った。今日はこの国で
その
俺は心配で仕方が無かったのだが、
「大丈夫!お姉ちゃんは強いから!」
と、俺の頭を撫でましろは朝方家を発ったのである。
「ねぇ、マリアベル。やっぱりダメ?」
俺は何度となくした質問をメイドに投げかける。返ってくる返答もこれまた何度も聞いたものだ。
「ダメです。応援に行きたいお気持ちは理解できますが。会場には只でさえ
「……そっか」
仕方無しにテレビで観戦することにする。
画面には対戦前に録画したであろう、対戦する二人のインタビュー映像が流れている。
俺が気になったのは、ましろの対戦相手だった。
画面に映るのはリザードマンの男。
『レウス選手、対戦相手のアマギ選手はかなりの強さですけど、勝算の方はどうですか?』
『強さ?関係ない。
『なるほどぉ〜、レウス選手が
『そうだ。奴らは殺す』
『……』
インタビューアーも最後は何と言っていいか分からないと言った風にインタビューは幕を閉じる。
俺は怖かった。何もしていないのにアレだけの憎悪をぶつけれる事が。
そして、試合が始まる時刻となる。
ましろは赤を基調としたスーツを着て登場した。その手に深紅の鞭を携えて。
「マリアベル、あんな軽装で大丈夫なのか?」
「問題ないかと。勝負は一瞬でつくでしょう」
マリアベルはそう言うが、俺はやはり心配で仕方なかった。リザードマンの装備している爪の様な武器は全てを引き裂こうとするが如く伸びていたからである。
睨み合う二人の間に立つ、審判が始まりを告げ試合が始まる。
始まると同時にリザードマンがましろに肉薄し、爪を振り下ろす。
ましろはただ一度、腕を動かす。おそらくは鞭の振るったのだろう。
俺がそう認識したと同時にリザードマンか崩れ落ちた。
画面には血だらけになり、自らの血溜まりに沈んだリザードマンが映る。
一瞬の静寂、次の瞬間、会場からは割れんばかりの喝采が起こる。
「何が……」
「あの鞭です。あれはマシロ様専用の魔科学兵装です」
実況の声が喧しく、部屋に響く。
『ウィィナァァー!天上の薔薇!アマギ・マシロ!』
そして、月日は流れ。本日、4月3日は俺の入学の日だった。
真新しい制服に袖を通す。時刻は6時、ましろは既に学校へと向かっており。後で落ち合う手筈になっている。
キッチンへと降りると既に朝食の準備が整っていた。
「おはよう。その、どうかな?」
「おはようございます。よくお似合いですよ」
微笑と共に答えるマリアベル。彼女は出会ったときより遥かに感情を出すようになった。
食事を済ませ、戸締まりを確認する。これからは俺は学生寮住まいとなる。
マリアベルは学校の職員として昼は働くので、彼女もまた職員寮に住むことになっている。
全ての準備を終え玄関へと向かうとちょうど良いタイミングで来客を告げるベルがなった。
誰が来たのかは容易に想像ができた。扉を開けると、予想通りの人達が立っていた。
「おはようございます。見送りに来てくれたんですか?」
俺はシャロンとドクター、マックスと挨拶を交わす。
「あぁ、僕はついていけないからね。見送りと最終確認だ。もし、体調が悪くなったり君のウィッシュアーツが発動した場合は直ぐに僕に相談するんだ。これは君の責務、義務だよ。分かってるね?」
「はい」
強く頷き、思い出す。それは一週間前のことだ。
俺はドクターとマリアベルと共に総理官邸を再び訪れていた。
ネットで閣僚達の名前を完璧に覚えてきた俺は意気揚々と部屋に入る。
だがしかし、部屋にいたのは総理一人だった。
「やぁ、ヤマシタ君。久しぶりだね」
「お久しぶりです」
俺達が席についたのを見計らい話を始める総理。
「わざわざ呼び出してしまってすまないね。なに、簡単な確認を取るだけさ。ヤマシタ君。君は
「……もし、隠して生きる場合はどういった対応をとるんですか?」
「その場合は、さる貴族のご子息という架空の設定を設けるよ。そうすることで従者を常に側に置いていても問題が無くなるし、
……あれ?そう言えばいつか皆で食事に行ったときに噂の
「……あの、でも
「頭の痛い話でね。やはり、人の口には戸は立てられないようだ。だが、国が全力で隠蔽すればあくまでも噂で終わらせられるよ」
(答えは決まっている)
「俺は、俺として
力強く宣言する。不可抗力とはいえ、只でさえ実年齢を隠しているのだ。これ以上の隠し事はしたくない。
「……そうか。いつか会った時とは大違いの覚悟ある目だ。今の君ならばしっかりとした振る舞いが出来るだろう。ただ、
と、いうのが総理との間であったのだ。俺はこの国の
「シン、しっかりやるんだぞ」
マックスさんはそう言うと握手を求めてきた。彼とはゲームを通じてすっかり仲良くなった。俺はそれに答える。
「はい!頑張ってきます!」
固い握手を交わす。男の友情にいくらかの感動を覚える。
そして、最後はシャロンだ。
「しっかりな。まぁ、どのみち向こうで会う」
「そうなんですか?」
「あぁ、私はトリスメギストスの代表として新入生どもに挨拶をくれてやらねばならん。少年、君は
「いえ、電車で行きます」
通常、新入生は皆一緒の電車で行くのが習わしだ。その電車の中でコミュニティーを作らせるようだ。
金持ちのボンボンは従者を連れて行く奴もいるとか。
因みにこの世界の電車も空を飛んでいる。
俺は屋敷を仰ぎ見る。半年以上住んだ場所だ、最初はただっ広くて嫌だったけど今では思い出のある大事な場所だ。
そして、みんなに向き直る。
「行ってきます」
さぁ、行こう。学校へ。俺が最初に降り立った地。学園レヴンを目指し足を踏み出すのだった。
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