異世界迷子編 7

 

「マジですか?」

「マジよ」


 ニッコリと笑って答えるましろ。


「先にいっとくけどここ私の家だから」

「えっ!?」


 マリアベルを見ると頷く。その意味は肯定だろう。


「国ごとに違うかも知れないけど、極限者クライストって勝つと国からお給料とは別にボーナスが貰えるのよ。それはお金でもいいし、物でもいい。私は小さな男の子の来訪者ゲストが日本から来たって聞いてたからね、一緒に住みたいってお願いしたの」


 分かった?と首を傾げて聞いてくるましろ。


「あの、俺、男ですよ?一緒に住んでいんですか?」

「ははは、だってまだ11才でしょ?小学生じゃない。それともお姉ちゃんのこと襲っちゃうのかなぁ?」


 イタズラな笑みを浮かべ聞いてくる、彼女の全裸がフラッシュバックして顔が熱くなる。

 

「あー!赤くなってる!かわいい!」

「襲いませんよ!」


 そう言い返すのがやっとだった。

 賑やかな食事を終えると勉強の時間となる。マリアベルが準備を終えるとその様子を興味深く見ていたましろが話しかけてくる。


「ねぇねぇ弟君?ゲーム好き?」


 ましろは俺の事を弟君と呼ぶ。


「好きだけど……ましろさんも好きなの?」

「ましろさん?一緒に暮らすんだからそれじゃダメよ。お姉ちゃんって呼んで」


 先程、ましろの歳を聞いたら19歳との事だった。なぜ、俺が年下を姉と呼ばないといけないのか……


(どんなプレイだよ)


「……お姉ちゃんの事嫌いかな?」


 俺が押し黙ったのを見て不安そうに見てくる。そんな顔をされたら仕方ない、それに住まわせて貰うんだからな。


「……ましろ姉ちゃん」


 ニッコリと笑うと俺を抱き締めるましろ。豊満な胸に包まれるのは正直言って最高です。抱き締めたままましろは話を続ける。


「それでゲーム好き?」

「うん。好きだよ」


 日本にいるときからそれなりにゲームはやってきたからな、正直に答える。


「ふふ、やっぱり男の子だね。じゃあ、お姉ちゃんが買ってあげる!買いにいこう!」

「マジで!?」

「マジ!マジ!」


 二人で盛り上がっているとマリアベルが釘を刺す。


「なりません。シン様はこれより勉強の時間となります。午後は昼食の後に鍛練が、夕刻にはドクターマクレガーを訪ねるのが入学までの日課です。また、外出許可がおりていません」

「えぇー、いいじゃんちょっとくらい。弟君もお姉ちゃんと遊びたいよね?」


 マリアベルを見ると心なしか悲しそうだ。昨日の夜、何も説明していないのに手伝ってくれると言われた事を思い出す。


「ごめん、ましろ姉ちゃん。俺、勉強するよ」


 ましろの目をしっかり見て告げる。背中に回されていた手は外され解放される。


(怒らせちゃったかな?)


「ねぇ、弟君。何か目標があるのかな?」

「うん。やりたいことがあるんだ」

「そっかぁ。じゃあ、お姉ちゃん応援するね!ドクターの所に行くときは一緒に行こ。そのあとに許可もらってゲーム買いに行こうか!勉強頑張ってね!」

「うん!」


 最後に俺の頭を撫でましろは部屋を出ていった。


「じゃあ、マリアベル。勉強始めようか」

「はい」





「ドクター!久しぶり!」

「やぁ、マシロ君。元気そうだね、そして極限決闘クライシスの勝利おめでとう」

「ありがとうございます!」


 二人は久しぶりの会話に花を咲かせている。手持ちぶさたになった俺はスマホでましろの事を調べてみた。

 天城ましろ――19歳。ミールズウェイの来訪者ゲストでこの国に二人いる極限者クライストの一人。学園レヴンの院に在学中。

 まだ学生なのか。学園レヴンって俺が通うことになる学校だよな?じゃあ、先輩ってことか。


「なぁにしてるのかな?」


 いきなり後ろから抱き締められる。そして、スマホの画面を覗き込む。


「あー!私の事調べてたんだ。弟君はお姉ちゃん大好きだね」


 背中に当たる、柔らかな感触と目の前のドクターからの冷ややかな視線。


「弟君……お姉ちゃん……良かったね。姉が出来て」


 ドクターが含みを持たせて言う。


「ええ、俺も嬉しいです姉が出来て」


 ドクターは俺の様子に苦笑いを浮かべているようだ。そこにノックの音が響く。


「どうぞ」


 入って来たのは、マックスだった。


「あー!マックス先輩じゃないですか!」

「む、ましろか……帰っていたのか。君に会いに来たんだ山下君」

「俺にですか?」

「あぁ、この前はすまなかったね。お詫びに食事でもとな」

「あれはマックスさんは悪くないです」

「それでもだよ。勿論、マリアベルも一緒だ嫌か?」


 マリアベルをちらりと見る。相変わらずの無感情な瞳。いや、よく見ると目が輝いている。


(行きたいんだな)


「じゃあ、お言葉に甘えます」

「ドクター、そう言うわけで彼の外出許可を」

「構わないよ」

「やったー!晩御飯は先輩の驕り!」

「……ついてくる気かましろ?」

「ひどい!私だけのけ者ですか!?弟君はお姉ちゃんと一緒がいいよね?」

「弟君……?ましろ、あまり山下君に迷惑をかけるなよ」

「ちょっとどういう意味ですか!あっ、先輩がいるならちょうどいいわね。ゲームは先輩に選んでもらいましょう」


 マックスはゲームとかしそうにないんだけどな。俺の予想は裏切られる。


「ゲーム?ましろがするのか?」

「違いますぅ!弟君のですぅ!」

「ほぅ、それはいいな。好きなジャンルはなんだい?」


 俺が以外そうな顔をしているとましろが説明をしてくれる。


「先輩はね、こう見えて重度のゲーマーなんだよ」


 人は見かけによらないな。好きなジャンルか。


「何でも好きですけど、特に好きなのはアクションとRPGですね」

「なるほど、ならば良いのがある。早速行こうか。ドクター、行き先にゲームショップも追加でお願いします」

「君がついていくのなら、構わないよ」


(食事か……リア充ならもっと人を集めそうだな)


「あの、ドクターも一緒に行きませんか?大勢の方が楽しいし」


 以外な質問だったのか、目を白黒させている。


「え?いいのかい?僕が行っても?」

「私は構いませんよ。ドクターと食事も暫く行ってませんし。何より、大勢の方が楽しいには同意です」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えようか。僕はもう少し仕事があるから、現地に直接行くよ」

「分かりました」

「はいはーい!じゃあ、所長も呼びましょう!」

「そうだね。後で皆でご飯に行ったのに呼ばれていないと必ず拗ねるだろうね」

「分かった、では私が声をかけておこう」

「あ、いいですよ。帰ってきた挨拶もまだなんで今から行ってきます」

「ではそちらはまかせる。店はいつものところと伝えておいてくれ」

「はーい!」


 ましろを見送り気になったことを聞いてみる。


「シャロンさんって拗ねるんですか?」


 マックスが苦笑をしながら答える。


「ああ、ああ見えて寂しがり屋なんだ」

「そうだね。所長は飲み会好きだからね」

「そうなんですね。以外だ」

「ヤマシタ君は所長がどんな人間だと思っていたんだい?」

「えっと、怪しい科学者です」


 ドクターの質問に正直に答えると二人が声を出して笑う。マリアベルを見ると笑いを堪えていた。




 戻ってきた、ましろと共に俺達は施設を後にした。ゲームショップはトリスメギストスの施設から近く徒歩で行くことになった。

 道中、問題が1つ発生していた。それは、


「マシロさんだ!」

「サイン下さい!」


 ましろが大勢の人に囲まれたのだ。


(そう言えば総理が言っていたな、極限者クライストは人気だって)


 ましろは一人一人にちゃんと答えている。

 しかし、このままでは俺達はここから進めない。


「すまないが、我々は急いでいる。道を開けてくれ」


 マックスが声を張り上げる。ましろを囲んでいた人達が一斉にマックスを見る。


「キャー!マックス様よ!」


 今度はマックスも囲まれてしまう。収集がつかない状況となってしまった。


(ましろが人気なのはわかるけど、なんでマックスさんまで)


 俺の疑問に気付いたのか、マリアベルがその疑問に答えてくれた。


「マクシミリアン様はあの若さで異世界管理官に就かれています。それには実績が必要です。また、そのルックスも相まってメディアにも露出がありますので、若い女性のファンが多いのです」


(へぇーそうなんだ。ところで、これどうすんだろうか……)


 人が人を呼びどんどん人が集まってくる。俺はそれを見守るしかなかった。


「いやーごめんごめん!ちゃんと変装すれば良かったね」


 目的のゲームショップにつき、謝罪をするましろ。あの後、騒ぎになり過ぎた為に警察がやって来て、集まっていた人達を解散させたのだ。

 ゲームショップはこじんまりとしており、お世辞にもキレイとは言えない装いだった。その見た目にましろは少しひいていた。


(この店、大丈夫なのか?)


「すまないな、山下君」

「大丈夫です。でも、二人ともすごい人気ですね」


 二人とも苦笑いを浮かべる。


「気を取り直して、ゲームを買おう!」


 入店して驚く、空中に浮かぶ萌えキャラや剣や銃。店の至るところにゲームのプレイ動画が浮いており、そのどれもに目を奪われた。

 マックスが目的のゲームを指差す。


「これが私のお勧めだ」


 力強くマックスが言う。レジへと持っていき、会計を済ませる。

 マックスは顔馴染みのようで店員と何かを話していた。

 先程の経験を教訓に俺達はタクシーで集合場所へと向かった。

 タクシーと言っても運転手はいない。タクシー乗り場の空いてる車に乗り、目的地を入力して必要な運賃を払うというものだ。

 車内ではマックスが饒舌に買ったゲームの魅力を語り続ける。

 集合場所の独特な門構えの店に着くと既にシャロンとドクターは来ていた。

 

「遅かったな、なにかあったのか?」

「実は――」


 マックスが事情を説明すると。シャロンはため息をつく。


「ましろ、気をつけろ。何があるか分からんからな」

「はーい」


 気のない返事に呆れるシャロン、気を取り直して入店する。


「「いらっしゃいませー!」」


 入店すると威勢のいい挨拶で出迎えられる。店はというと居酒屋の様な感じだ。


「おう、いらっしゃい。今日は面白い組み合わせだな」

「あぁ、話は後でいいだろ。いつもの席で頼む」

「はいよ」


 所長が出てきたドワーフと言葉を交わし俺達は席へと案内された。


「で、そっちの可愛いお二人さんはなんなんだい?」

「相変わらずの詮索好きだな。いつか死ぬぞ?」

「まぁまぁ、この二人は――」


 ドクターが宥め、俺達の紹介をしようとしたところをましろが遮る。


「こっちの男の子が私の弟で、こっちのメイドがそのお付き」

「弟って……お前さん弟いたか?まてよ……じゃあ、この坊主が噂の?」


 ドワーフの言葉にシャロンが目を細める。


「噂?誰から聞いた、答えによっては――」

「もお、所長すぐ怒る。いいじゃない来訪者ゲストが来たんなら隠せないわよ」

「やっぱり来訪者ゲストか!いやぁ、たまげた。今日は俺の驕りだじゃんじゃんやってくれ」

「え?いいんですか?」


 俺の問いに豪快に笑いながら答える。


「ガハハ、いいってことよ!ただな坊主、内の店の宣伝頼むわ!」


 そう言って奥へと引っ込んでいった。


「よくやった少年」


 さっきまでの剣呑な空気はどこへやら機嫌良さそうにシャロンから誉められる。

 さて、楽しい食事が始まったのはいいんだがシャロンが酷い。

 プロージットと言ったかと思えばひたすら飲み続けているのだ。挙げ句の果てに泣き上戸の絡み酒だ。隣にいたマリアベルにずっと絡んでいるのだ。呆れながらそれを眺めていると視線に気づいたのかマックスが声をかけてきた。


「凄いだろ?所長はいつもああなんだ」

「はい、マリアベル若干疲れてますね」

「そろそろ、助け船を出すか」


 そうして、食事を終え。俺達はタクシーに乗り家へと戻った。

 家に着いて客室にシャロンを放り込むマリアベル。ちょっと怒っているようだ。

 さて、待ちに待ったゲームの時間だ。

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