異世界迷子編 6
「……ん……ここは?」
「大丈夫??」
目を開けると、トカゲを俺を覗き込んでいた。遥が
「
「落ち着いて!僕だよ!マクカレガーだ!」
「え……あ、ドクター……」
「シン様!大丈夫ですか!?」
ドクターを押し退けてマリアベルが俺の眼前に現れた。ヒヤリとした感触に手が包まれる。
「大丈夫だよ。何があったの?」
「それは僕から話そう。すっかり、仲良くなったね二人とも。さてと、ヤマシタ君、一つずつ思い出していこうか。まず君は極限決闘(クライシス)の動画を見ていた、ここまではいいかい?」
「はい」
「次は?」
「遥が
「うん。それでどうなったのかな?」
思い出そうとするも思い出せない。
「……分かりません」
「その後はね、君は錯乱し意識を失ったんだ。マックス君とマリアベル君から連絡を受けた時は驚いたよ、直ぐに僕達二人がこの屋敷に来たと言うわけだ」
「二人?」
上体を起こし顔を動かすと火の着いていないタバコをくわえたシャロンがこちらを観察するように見ていた。
「すまない、ヤマシタ君。私のミスだ、君には些か刺激的過ぎる内容だった」
今まで黙っていたマックスが頭を下げる。
「違うんです!マックスさんは悪くなくて――」
「その通りだ」
俺の台詞がシャロンに遮られる。
「少年、1つ聞くぞ。あの少女は君の知り合いだな?」
断定口調でそう言う、マックスは驚愕の顔をシャロンに向ける。
「そうです。彼女は幼馴染みです。死んだと思ってたんです……でも生きてた」
「で、少年どうしたい?」
「……遥には会えないですか話し合うから」
「難しいな、言った筈だぞ
「じゃあ、会う方法は無いって事ですか!?」
「落ち着け少年。無いこともない、1つトリスメギストスに入る、2つ
「じゃあ、俺をトリスメギストスに入れてください!」
「君の年では不可能だ」
「なっ!俺は本当は――」
言いかけて止める、何故ならばシャロンが射殺すような視線を俺に向けていたからだ。
「迂闊だぞ、少年」
ゾッとするような声で告げられる。
「ドクターより聞いている。良かったじゃないか目的が出来たぞ。これで頑張れるな」
「俺は……」
「いいか?私とて鬼ではない、可能な限りの事はするさ。ただな、君の努力も必要なんだよ。わかるだろ?」
「……はい」
「今は君も混乱しているだろう、一晩考えなさい。また、明日にでも話をしよう」
「何かあったら直ぐに僕に連絡をするんだよ」
「すまなかったな」
3人が帰り、ベッドの上で過去に思いを馳せる。考えるのは遥の事。
俺は遥が好きだった。高校受験も大学受験も遥と同じ学校に行きたいが為に頑張った。
学生生活だってそうだ、俺はずっと遥を見ていた。こう考えるとただのストーカーだな。
でも、遥の隣にはずっと鷹矢が居た。鷹矢はイケメンだ、おまけにスポーツ万能で頭も良い。幼馴染みだからか、ずっと比べられてきた。鷹矢の事は友達だと思ってる、だけど、俺の中には確かに彼に対する劣等感が雪のように積もっている。
そして、あの日。俺が遥に告白をすると決めた日、事件は起こった。
俺は遥をある場所に呼び出していた、そこは俺達3人にとっては思いでの場所だった。
運の悪いことに教授に呼び止められた俺は約束の時間に遅れてしまっていた。
急いで目的地へと行くとそこには遥と鷹矢の姿があった。
なんでだろうか?今になっては分からないが、俺はバレないように身を隠して二人を見守った。
鷹矢は遥に告白をした。ガツンと頭を何かで殴られたような衝撃を受けた、そして遥を見ると凄く嬉しそうな顔をしていた。
俺はその場をそっと後にした。そのあとはどうやって家に帰ったか分からないが気付いたら部屋にいた。
それからは俺は大学に行かなくなった。遥や鷹矢は何度も家に来たが一度として会わなかった。そして、親からは絶縁を言い渡され、幾ばくかの金を持たされ家を追い出された。
こうして考えると俺はなんてバカだったんだろうな。
「逃げただけじゃねぇか」
「何から逃げたのですか?」
「えっ!?」
ビックリした、そうかマリアベル部屋に残ってたんだな。
「えーと、嫌なことから逃げただけだよ」
「後悔されてるのですか?」
「……うん」
「それは、もう取り返しがつかないのですか?」
取り返しか……俺の後悔ってなんだ?遥と付き合えなかった事か?
いや違う!告白出来なかった事だ!どんな結果になっても告白するべきだったんだ。
「いや、まだ取り返しはつくかな」
「そうですか。でしたら全力で取り組んでみては?微力ですがお力添え致します」
告白に全力か、マリアベルは何も知らないが手伝ってくれると言っている。その気持ちが嬉しかったと同時にこんなことを相談できる相手が前の世界ではいなかった事を思いだし悲しくなる。
(俺の学生生活は可もなく不可もなくじゃなくて不可だったんだな……)
「ありがとう」
「いえ、当然の事ですから。では、お食事を用意してきます」
「あっ、マリアベル。今日からは一緒に食べよう」
「ですが……」
「ね、お願い」
「あの、その、かしこまりました」
初めての二人での食事はマリアベルが甲斐甲斐しく俺の世話をするので少し恥ずかしかった。
一夜明け、朝早くにシャロンとドクターが訪ねてきた。マリアベルには外に出て貰い話を始める。
「どうかな?少し落ち着いたかい?」
「はい、昨日はすいませんでした」
「いや、いいよ。そんなに気にすることじゃない」
「少年。彼女との関係を聞かせてはくれないか?」
「えっ?昨日も言った通り幼馴染みですよ」
「もっと詳しくさ」
シャロンを見ると優しい眼差しでこちらを見ていた。
俺はため息をつき、遥との経緯を説明した。
「――ということがありました。情けないでしょ?」
シャロンは笑うんだろうなと思って見てみると、存外真剣な顔で俺を見ていた。
「では、感想を述べよう。一般的には君は馬鹿だと笑われるだろうな。告白すら出来なく、挙げ句に大学を辞める。なかなかの親不孝だ」
これはキツい、扱き下ろされるより笑われた方がましだな。
「しかしだ、私は笑わないよ。なぜならばどんな事があろうと君が必死に生きた21年じゃないか」
「その通りだね。若いと色々あるさ、この前話しただろ?」
「話してみるものですね、こんなこと話せる友達いなかった……」
「少年……」
「ヤマシタ君……」
哀れみが痛い。
「そうだな……では、こうしよう。少年、リア充を目指せ」
「は?行きなり何を?」
「君は幼馴染みに会いたいのだろ?ならば、トリスメギストスに入るのが一番だろうな」
「いや、昨日は無理だって言ってたじゃないですか」
「当然だろ。冷静でない人間には話しても無駄だからな。簡単だよ。何事にも例外がある。君と同い年の少女が
アレ?そういえばそうだ。何故だろうか?
「分かりません」
「素直でよろしい。では説明をしようか。先ずは渡航、行動についてだ。これは再び戦争を起こさせないために
「世界の所有物……」
「そう、世界の所有物だ。君が世界の為、未来の為に奉仕する事を世界と契るのさ」
「……」
「理不尽だと思うだろ?しかし、我々はこの世界にとっては異物だ。それに、その立場に見合った生活が約束されるよ。悪い話ばかりではない」
少しの沈黙の後にシャロンが再度口を開く。
「それと、君はトリスメギストスが何をしている組織ちゃんと把握しているか?ここまで話は進めたが、その確認をしてみよう」
俺は少ない時間でネットで調べた事を思い出す。
トリスメギストスの主な活動は以下の通りだ。
一つ、都市計画。世界中の都市の発展、整備を各国と協議し進める。
二つ、医学の発展と治安維持。各国、主要都市に大きな病院やそれに類する施設を設置し、医療と発展にあたる。また、犯罪抑止や治安維持の為に各国の警察組織、軍隊と連携しこれにあたる。
三つ、異世界研究。文字通り、異世界への接触を各国研究機関と連携し行う。また、来訪者(ゲスト)発見時の対処である。
「――こんなところです?」
「ふむ、しっかりと学んでいるようで結構だ」
「……あの、トリスメギストスとさっき言ってたリア充って何か関係してるんですか?」
「これは持論だが。人間はね、人間に投資するんだ。例えば人当たりも良く交遊関係も広い成績優秀な人間と、その真逆の人間。君ならばどちらと友達になりたい?」
「それは、前者です」
「そうだな。良い交遊関係は良い情報や上手い話を君にもたらすだろう。それを積み重ねて行けばいずれは大事を成しそれが手柄となり君の存在を知らしめる。なに、一発で手柄をあげる必要は無いんだよ。幸いにして、君は11才の体となった。ゆっくりと盤面を固めていけばいい。だからまず、学校にて君の存在を知らしめたまえ。そうすれば、見習いとしてトリスメギストスに入る目も出てくるだろう」
「見習いですか?」
「そうだ、簡単に言えば……そうだな、インターンのようなものさ。だが、年齢と言う枠組みを超えるには君の努力が必要不可欠だ」
「話は分かりました。さっき、シャロンさんは投資って言いましたけど。俺に投資するメリットがあるんですか?」
先程までの優しい顔は何処へやら、悪役ぜんとした顔でニヤリと笑う。
「あるんだよ。君がトリスメギストスに入り私の仕事を手伝うのがメリットだ。君の基礎魔力値は聞いている。魔力は適切な訓練と加齢でその値を増していく。
「……あっはい」
「まだ、やる気にはならないかい?では、これを見てくれ。私としてはどちらの事を言っているのか分からないが、これを聞く限りゲームセットはまだ早いんじゃ無いのか?」
シャロンがスマホを操作し動画が流れ出す。これは――
『いやぁ、相変わらずの強さですね!今回も圧勝!ズバリ、強さの秘訣は何でしょうか?』
インタビューアーが勝利者である遥に質問している。
『そうですね……秘訣は目的を持つことです』
『目的ですか?では、その目的とは?』
『いつか……いつか、約束を破った私の心の火に文句を言いたいんです。いつまで待たせるの?って』
『おっーと、これは意味深ですね~!さて、時間も押して参りましたので今日はこの辺で!では、遥さん最後にいつものお願いします!』
「これって……」
心の火……鷹矢が言っていたな。
「どうとるかは少年次第だ。さて、やる気になったかい?」
「……やります。俺、リア充になります」
力強くはっきりと宣言するのだった。
シャロン達が帰り、朝食を食べたあとは勉強の時間だ。
「マリアベル、お願いがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「今日から、勉強厳しく出来ないかな?」
そう、今の俺はやる気に満ちていた。
「決められたスケジュール通りにこなしておりますが、シン様がお望みならばスケジュールを前倒しにする事は可能です」
「ありがとう。じゃあ、ガンガン進めていこう!」
「かしこまりました」
そうして午前の勉強を終え、午後の鍛練の時間となった。
武術と魔法の基礎をマリアベルから習っているが、こちらも今日からはいつもより厳しくとお願いした。
(ちょっとでも遥に近づきたい)
休憩を挟み、午後4時には一日の行事が全て終わりそこからは自由時間だ。
今までは風呂に入り、夕御飯を食べたら1時間ネットをしてごろごろして気付いたら寝てたが、今日からは違う!
先ずは、復習。そして、予習。また、魔法に関する自身が感じたことをノートに書き出し、イメージトレーニングを行う。
これら全てを終え、時計を見ると夜の10時を過ぎていた。
体が縮んで分かったことはこの時間になると無性に眠くなるということだ。
「眠い……」
ベッドに倒れこみうとうとしているとノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
鈴の音と共にマリアベルが入ってくる。
「まだ、起きていらしたのですね」
「うん、でももう寝るよ。おやすみ」
「はい、お休みなさいませ」
そう言うとマリアベルがベッドに入ってくる。困ったことに何故か初日から一緒のベッドで寝ているのだ。
実は風呂もそうなのだが、こちらは断固拒否に成功。だが、その代わり一緒に寝るのは許可するという痛み分けの結果となった。
その当時は会話もほとんど無かったのでベッドの中は薄ら寒くもあったものだ。
「ねぇ、マリアベル。俺、頑張るから」
「はい。ですが無理をされないように」
マリアベルのやさしい声を聞きながら俺の意識は落ちていくのだった。
翌朝、目覚ましの音で目が覚める。眠い目を開け、眼前に浮いている画面をタッチし音を止める。時刻は6時。
この時間に起きたのは、今日から庭で武術と魔法の自己練習をするため。相変わらず、外出許可が降りないが、屋敷の敷地内ならば出歩けるので無駄にでかい庭でそれを行うのだ。
隣を見るとマリアベルはもういなかった。
「何時に起きてるんだろうか?」
目を覚ますためにシャワーを浴びに浴室へと向かう。余談だが俺は風呂が大好きだ。
脱衣徐のドアの前で止まる。中から人の気配がする。
「マリアベルが掃除でもしてるのかな?」
俺はなんの気なしに扉を開けた。そこには裸の見知らぬ女性が立っていた。
「……え?」
とりあえず扉を閉める。もう一度開けてみる、やっぱりいる幻ではない。見たところ年は二十歳前後、黒髪と黒い目、日本人のようだ。スタイルは出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる、つまりは細身の巨乳だ。
そして、女性は息を大きく吸い込んでいる。
(あぁこれは……)
「キャー!」
屋敷に甲高い声が響き渡った。終わったな、頑張る決意をしてから直ぐに変態の烙印を押される日がくるとは……
項垂れていると、柔らかな感触に包まれた。というか苦しい抱き締められている。
「逢いたかったわ!山下伸くんでしょ?ほんとに逢いたかった!」
ここは天国かはたまた地獄か、気持ち良さと苦しさで意識が飛びそうな所に鈴の音と共に福音が聞こえた。
「マシロ様。シン様が苦しそうですのでお離しを」
「あっ、ごめん。大丈夫?」
咳き込みながらも俺は自身の無事を伝える。
「ごほっ、ごほっ、大丈夫です。あのっ!服着てください!」
そうなのだ、マシロと呼ばれた女性は全裸で目の前にいる。俺には些か刺激が強すぎる。
「もしかして恥ずかしいの?かわいい!」
何故かまた、抱き締められるのだった。
さて、そんなこんなんで今は3人で食卓を囲んでいた。
「じゃあ、自己紹介ね。私は天城ましろ。君と同じ日本人よ」
「俺、僕は山下伸です。こっちがマリアベル」
ずいっと胸の名札をアピールするマリアベル。名前、気に入ってくれてるんだな。
「あの、天城さんはなんで――」
「固いなぁ、これから一緒に住むんだから、お姉ちゃんって呼んで」
言葉が遮られる、それより今何て言って?
「一緒に住む?」
「そうよ!もしかして、何も聞いてないの?」
「えっと、はい。何も聞いてないです」
「敬語はなし!いつも通りに話すように、これはお姉ちゃんからのお願いね」
「はい、じゃなくて、うん」
「よろしい。じゃあ、説明しましょうか。私はこの国の
「え……えええぇぇぇ!?」
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