異世界迷子編 2
鳥のさえずりが聞こえる清々しい朝。ベッドから起き窓際へと移動する。テーブルの上の時計は7月10日6:05と表示されていた。
「俺が鷹矢と海に行ったのが7月9日だ、月日や時間の数えかたは地球と一緒なのか?」
疑問を口にし思考する。が、それは突如の破裂音で遮られる。
「なんだっ!?」
窓から外を見ると炎や雷が飛び交っていた。そんな炎雷飛び交う嵐の中を二人のフェアリーが剣のようなものを持ち、戦っていた。
「魔法……」
俺は昨日の夕食時、ミシェールに聞いた話を思い出していた。
「――ん」
ゆさゆさと体を揺さぶれる。眠い目を開けるとミシェールがそこに立っていた。
「おはよう、晩御飯持ってきたわ」
「あっ、すいません。寝てしまって」
「ふふ、いいのよ。それと服も持ってきたから」
俺はミシェールから服を受け取った。ジャージ、恐らく体操服だろう。
「ありがとうございます」
「じゃあ、着替えが済んだら呼んでね」
ミシェールが退室し、俺は手早く着替える。服から取り出した、自身の持ち物を改めて見てみる、俺の持ち物はスマホと財布だけ。財布の金やカード類はどうせ使えないだろう。
ドアを開け、ミシェールを部屋へと招き入れる。
2つの食事の置かれた机に着く、どうやらミシェールもここで食事をとるようだ。
「本来、生徒は食堂でご飯を食べるんだけど、シンくんはここの学生じゃ無いから部屋で我慢してね」
「いえ、とんでもないです。感謝の言葉しかありません」
「困ったときはお互い様って貴方の国では言うのでしょ?さて、食事をしましょう」
「はい、いただきます」
食事は意外なことに日本食だった。またひとつこの世界の疑問が増えた。味はというと普通に旨い。
「あの、これって日本食ですよね?」
「ええ、そうよ。それどころか貴方の世界の料理はこの世界でもたくさんあるわ」
食事を終え、質疑応答の時間がやって来た。
「さてと、じゃあ、気になることもあるでしょ?答えられる事には答えるから質問していいわよ」
「はい、じゃあ俺はこのあとどうなるんですか?」
「そこは一番気になるところでしょうね。学園長も仰っていたように悪いようにはならないから不安にならないでね。具体的には貴方は国の保護下に置かれることになるわ。異世界管理官という言葉を覚えている?」
「はい、イヌカイさんが言ってたと思います」
「そう、その異世界管理官とは貴方の世界で言えば、う~ん……そうね世界政府といったところかしら?それに所属するシンくんみたいな
「
「シンくん達のような人達の事よ。この世界ではそう呼んでいるわ。昔は違う名前だったんだけどね」
なるほど、逆らえない流れに乗ってるわけか。なら、今後の流れよりこの世界の情報を得る方が良さそうだな。
「あの、どうして急に日本語が通じるようになったんですか?」
「それはこれのおかげよ」
ミシェールは上着のポケットから取り出した物を目の前に差し出してきた。
それは、手の平に収まる正方形の物体。
「これは?」
「スマホよ」
ミシェールがそのスマホと呼ばれる物を指でタッチすると。それは彼女の手の平から少し浮かび、淡く輝くとヒュンッとモニターが空中に出現した。
「投影型の立体モニター……」
「この世界の魔法と
確かにミシェールの口許を見ると聞こえる日本語と口許の動きは違っていた。そして、聞き捨てならない単語。
そう魔法だ。
「魔法って俺でも使えますか?」
「えぇ、それどころかシン君は凄い潜在能力があるはずよ」
凄い潜在能力?それは一体……
「とっ、ごめんなさい。このあとも仕事があるの」
「あ、すいません。引き留めた見たいで」
「いいのよ。じゃあ、明日の朝また会いましょう」
「はい、お仕事がんばってください」
「ありがとう」
ミシェールが部屋を出ていき、一人となった俺はベッドに倒れこみ目を閉じるのだった。
しばしの回想を終え、再び窓の外を見ると、先程の二人は新に現れたフェアリーに引きずられるように地上へと降りていっていた。
「あれって部活か何かなのかな?」
分からないな……そこにノックの音がしミシェールの声がした。
「おはよう、起きてるかな?」
「はい、どうぞ」
空気の抜けるような音がしドアが開く。このドア音声入力で自動で開くのだ。にしても、科学と魔法が混在してる不思議な建物だな。
ドアが開き入ってきたミシェールが机に食事を置き腰を掛けたのでそれに習い俺も座る。
「おはようございます。ミシェールさん」
「おはよう、シン君。ご飯を食べたら、学園長の所に行くからついてきてね」
「はい、もう異世界管理官の方がお見えになられてるんですか?」
「まだよ。ただ、学園長が貴方に話があるそうよ」
(話か……)
「分かりました」
早々に食事を終えた俺はミシェールと共に学園長室を訪れていた。
「おはようございます」
「おはよう。昨日は良く眠れたかね?」
「まぁ、それなりに。そうだ、ご飯おいしかったです」
「そうかそうか、それは良かったわい」
イヌカイがクルリと手に持った杖を回すとイスとテーブルが出現した。促されそれに座る。
「さて、では本題じゃ。昨日の続きじゃ、もうじき異世界管理官殿がこちらに見えられる。その前に話しておかねばならん。昨日も言ったがの。良いか?君が子供になった事は言ってはならんぞ。元々、その歳だと振舞うのじゃ。すまんのぉ、理由は今は話せんのじゃ」
理由は話せないか……さて、どうしたものか。
「それでは納得できません」
「そうじゃろうなぁ」
「でも、俺には少なくとも貴方達が悪い人には見えないので信用します」
宿も貸してもらった、飯も食わしてもらった。まぁ、疑うのは失礼だろ。
「すまぬのぉ、次に会うときは必ず話すと約束しよう」
「え?次ですか?それって――」
俺の言葉を遮るようにノックの音が部屋に響く。
「来たようですね」
「開いておる。入られよ」
入ってきたのは2人、1人はスーツ、そうスーツをしっかりと着こなした赤い髪の男性。イケメンといって相違ないだろう。しかし、冷たい印象を受ける。そしてもう1人は、
「ふぉぉぉ……メイドさんだっ!」
思わず感嘆の声を上げるてしまう俺。入ってきた女性の方は紛れも無くメイドだった。
そんな俺を無視して男が口を開く。
「ご無沙汰しております。イヌカイ学園長。それにミシェールも」
「むぅ~、ついでみたいな言い方ね」
「そう言うな。私も仕事できてるんだよ」
「活躍は聞いておるぞ」
「いえ、私なぞはまだまだです。それに、これも一重にこの学園の教師の方々のご指導の賜物です」
「あの、知り合いなんですか?」
「あぁ、私はここの卒業生なんだ。初めまして、山下伸君。私は世界機構トリスメギストス所属、異世界管理官マクシミリアン・フォーベンドルフだ。そして、君と同じくドイツからの
「え!?貴方も!?」
「あぁ、そしてこっちのメイドが」
「メイドロイドTK131型、TKとお呼びください。よろしくお願いします、小さな
そう挨拶した銀髪のメイドからはどこか機械的な印象を受けた。
「あ、はい。よろしくお願いします」
挨拶が終わったところで、本題を話し出す、マクシミリアン。
「早速だが、山下君には私達についてきてもらう。その前にTK」
「はい。ご主人様、腕を出してください」
……?おかしな事を言われたが、言われた通りに腕を差し出す。
「失礼いたします」
TKが腕を手で包む、彼女の手は冷たく俺は驚いた。そして、チクリと針が刺さる感覚。
「健康状態異常なし、致命的な病原体無保持、年齢11才、身長151.1、体重41.5。全てにおいて健康だといえます」
それを聞き頷くマクシミリアン。
「よし、健康ならいい。じゃあ、行こうか?心配しなくてもいい。これから行くところは私達のような
「うむ、頼むぞ。マックス」
「じゃあね、マックス君。シン君もまたね」
「あの、本当にありがとうございました」
俺は深々と頭を下げ部屋を後にした。
それは傍から見たら不思議な光景だろう。スーツを着た、マクシミリアンとジャージを着た俺、更にはメイドのTKと続くのだ、エントランスホールにいる生徒達の視線が突き刺さる。俺以外の二人は気にも留めていないようだ。
先頭を歩くマクシミリアンが一つの魔法陣の上で立ち止まる。少しの浮遊感の後に地下室の様な暗い部屋へと着く。
「さて、山下君。どうやって首都に行くと思う?」
「えっと車とか飛行機ですか?」
「残念だがそのどれでもない。魔法があるのは聞いているな?」
「はい。まさか、長距離移動できる魔法が?」
俺の言葉に頷くと、マクシミリアンはミシェールが持っていたのと似たスマホを取り出した。
「スマホ?」
空中に浮かんだモニターを操作し終えると、部屋全体が発光しだす。部屋全体に魔法陣が描かれたおり、一目見て大掛かりな物と言うのが分かる。
「これは?」
「これはポータルです。決められた場所に一瞬で移動する事が出来ます」
「そういうことさ、私達の活動拠点はいたる所にある。大きな国の首都にも当然ある。そこまで一気に飛ぶ」
TKが手を握ってきた。さっきも感じたがこのメイドさん手が冷たい。それにニコリとも笑わない。
「飛ぶぞ」
マクシミリアンがそういうと浮遊感と共に目の前に光が広がった。眩しさに目を閉じる。閉じていた目を開けると先程と同様な部屋にいた。
「便利だけど眩しいのが難点なんだ。さ、行こうかついておいで」
メイドに手を引かれながら窓すら無い殺風景な廊下を黙々と進んだ。
やがて、金色の文字でCHEFと書かれているプレートがかかっている扉の前で止まった。
(シェフ……?)
「到着だ。所長、マクシミリアン・フォーベンドルフです。保護対象を連れて戻りました」
「入れ」
扉が開く。
中はお世辞にも綺麗とは言えなかった。床に乱雑に置かれた本、テーブルの上を見れば、灰皿にはたくさんの吸殻がささり、食べ物の空の容器が置かれていた。
「……汚い、それにタバコ臭い」
先程まで吸っていたのか、タバコの煙が部屋には充満していた。
「じき慣れる」
「ほう、なかなか素直な少年だな」
部屋の主である、よれよれの白衣を着た頭ぼさぼさの女性が言う。
「ご苦労だったな、マックス、TK。でだ、少年。私はここのトップのシャロン・マーティストだ。もちろん私も
有無を言わせずとはこう言うことを言うんだろうな。
「はい」
「よろしい。では、続けよう。山下少年、君はパラレルワールドというのを知っているか?」
「えっと、可能性の世界ですか?」
「その通り。我々、トリスメギストスはこの世界をそう結論付けた」
「じゃあ、ここは地球なんですか?」
「そうだ、様々な要素から考えるにそう考えるのが妥当だ。故に我々はこの世界の魔法と我々の持つ科学の知識から魔科学というものを生み出し、異なる世界へのアプローチを試みている」
「確かセルン?でしたっけ、そういう実験をしてたのは?」
俺の問いに、シャロンの目が細まる。
「なるほど、完全に無知ではないようだな。ところで君は西暦何年の地球から来たのかな?」
「えっと、2017年ですけど……」
「なるほどな。では、インターネットは分かるな?」
「はい、それは分かりますけど……あの、ネットあるんですか?」
「当然だ。先ほど魔科学と言っただろ?この世界の科学力は君の住んでいた時代以上だよ」
やはりか……この世界のスマホを見たときから感じていたがそんなに進んでいるのか。
「後ほどスマホを渡そう。さて、これからの事を話そうか。君には学校に通ってもらう」
「え……?」
「当然だろう?
「自国のため……あの具体的にどんなことをやるんですか?」
「そうだな……個々人の能力に合わせた分野に進むことになるが、例えば政治家や警察、医者。もちろん我々のようにトリスメギストスに入るというのもある」
「それは、強制なんですか?」
「そう取って貰って構わんよ」
俺は自身の置かれた環境と将来を考え暗澹たる気持ちになるのだった。
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