異世界迷子編 1
「ねぇ、伸!私ね、燃えるような青春をしたいんだ」
これは、いつだろうか?まだ、俺と遥が中学に上がる前位か?
「燃えるような青春?なんだよそれ?」
「お父さんとお母さんが言ってたの。学生時代は燃えるように熱くすごせって。でも、それってどうやるのかな?」
「う~ん。アレだ!何かに向かって心を燃やすんだよ!」
「心を燃やす?」
「うん、漫画で見たんだ。何か一つの事に熱中して取り組むん」
「なるほどぉっ!じゃあ、伸が私の心の火だね」
「……ん」
懐かしい夢を見たな。もうずっと前の出来事だ。俺は微睡みから目を開ける。
そこは森の中だった。
「は?」
思わず情けない声が出る。さっきまでは海にいたんだ。きっとこれは夢だこんなのありえない。ごしごしと目を擦ったり、頬を両手で叩いて見るが一向に夢が覚める気配が無い。
「嘘だろ……?さっきまで鷹矢と海にいたんだぞ?鷹矢――そうだあいつは!?」
キョロキョロと辺りを見回すが探し人の姿は見つからない。周囲には大きな木々があるだけだ、耳を澄ませば遠くから笑い声のようなものが聞こえる。
「一体、どうなってるんだよ……」
とりあえず、声の方を目指すべく立ち上がる。ずるりとズボンが落ちた。
「?」
何かがおかしい、具体的には視界が低い。俺は自身の体を見る。
「嘘だろ……?」
そこにあったのはどこぞの名探偵のように幼児化した体だった。木々が大きいのではなく俺が小さくなったのだ。ズボンを上げるとベルトをギュッと締める。上も下もぶかぶかだ。四苦八苦しながらも、何とか動けるように服をまとめる。
「危なかった、このままだったらパンツ丸出しだな!……冗談はそこまでにして――」
何があったかだ。一から思い出してみよう。
まず、鷹矢と海に行きました。話してると光と一緒に扉が出現しました。仕上げに扉が開いて光に包まれたと思ったらここにいた訳よ。
「ふむ、なるほどな。わからん」
そういえば、光に包まれる中何かを聞いた気がする。
「いつまでもここにいても仕方ないし、声のするほうに行ってみるか」
まぁ、子供になったのは何とかなるだろう。件の名探偵だって元に戻ったはず……戻ってねーよ!
「考えるな俺!とりあえず前進だ!」
そう自分に言い聞かせ、現実逃避という名の行軍を決行する。
少し歩いたところで、森の出口が見えてきた。その頃にははっきりと周囲の声も聞こえていた。ただ、近づくに連れて俺は焦りを覚えていた。
何故ならば、聞こえてくる言葉が日本語ではないからである。大学中退とは言え、それなりの国立に入ったので英語もそこそこできる自信があるが英語とも違う。
「とりあえず観察して見るか」
俺は手近な木の陰に隠れ、喧騒のする方を見てみると運動場のようになっており、子供達が遊んでいるようだった。その子供達は皆、一様に同じ服を着ている。恐らくは制服だろう。
「ふむ、つまりはここは学校なのか?では、後ろに見えるアレが校舎……いやいやまてまてアレは流石に――」
ラノベの主人公のような気取った喋り方をして平静を保とうとすが流石に流石に。俺の目に飛び込んできたのは西洋の巨城としか表現の仕様の無いものだった。
そして、問題は更にあった。遊んでいる生徒達を見ると明らかに人間ではない種族がいる。
「あっちの耳が長いのはエルフか?羽があるのはフェアリー?ドワーフみたいのもいるな」
どうするべきか、聞こえてくる言葉は聞き覚えの無いものだ。だが、ずっとこうしているわけにも行かない。そんな風に悩んでいると背中を叩かれた、振り返ると耳の長いメガネをかけた金髪の女性が立っていた。
女性が何事かを話しかけてくるが俺にはまったくわからない。
「えっとっ、ここは何処ですか?」
そう返すが女性も首をかしげる。
(ふっ、異文化交流とは難しいものさね)
心の中で格好をつけてみたりするが、困った言葉が通じない。しばし女性と見つめある形となる、どうせなら彼女をじっくりと観察して見るか。美人だ凄く美人だ。特に緑色の目が凄く綺麗だ。
そんなことをしていると、女性はポケットからスマホのようなものを取り出した。
(なんだろう?)
俺は驚愕する、彼女が取り出したソレを操作すると投影式の立体モニターが手元に浮かんだのである。
(嘘だろ!?なんだよそれ!)
操作音を鳴らしながら何かをしたと思うとまた話しかけてきた。
「こんにちは、分かるかな?」
「日本語だ!なんで!?」
すると女性はしゃがみ込み俺の頭を撫でながら質問をしてきた。
「私はミシェール。この学園で教師をしています。貴方のお名前を聞かせてくれるかな?」
美人のお姉さんに接近され俺はどぎまぎしながら答える。香水をつけているのだろう甘い香りが鼻をくすぐる。
「や、山下伸でひゅ」
噛んだ……顔が赤くなるのが分かる。ミシェールはクスクスと鈴が鳴るように笑う。
「突然、ここに来て怖かったでしょ?でも、もう大丈夫。シン君は何才かな?」
「あの、21歳です」
答えると、ミシェールは俺を抱きしめる。
「まだ混乱しているのね。大丈夫よ。う~ん、10才位かな?」
「えっと、あの」
どうすればいいかわからないでいると、ミシェールの端末から音が鳴る。
「ごめんね」
そう言うと俺を離し立ち上がる。少し残念とか思う俺。何かを立体モニターに話しているが俺には良く分からなかった。話が終わり、またしゃがみ込み話しかけてくる。
「シン君、先生についてきてくれるかな?」
「えっと、はい」
小さいころ知らない人について行ってはいけないって言われたけど仕方ないよな、俺にはそうするしか選択肢が無いんだから。
(それに美人だしな、うん)
そして、俺はミシェールに連れられ校舎へと足を踏み入れた。道中、奇異の目で見られたが今の格好を考えたら仕方ない。
建物は遠目から見てもわかっていたがデカイ。足を踏み入れて上を見上げる、玄関ホールの吹き抜けは高く相当な広さだ。
ただ、おかしなことに階段等は見当たらない。ただっ広いホールが広がっている。
(体育館見たいだな)
所々に文字のようなものが浮いている。文字通り浮いているのだ。
(アレはなんのだろう?)
俺の疑問をよそにミシェールが金色の文字が浮いている真下で立ち止る。前を見ると壁だった、どうするのかと見ていると何か呪文の様なものを唱える。
すると、地面が発光しだし魔方陣の様な紋様が浮かび上がった。
「シン君の世界には無いものでしょ?さ、手をつないで」
言われるままに手を繋ぎその魔方陣の上に乗った。少しの浮遊感を感じたと思ったら、金色の文字で何かが書かれた大きな扉の前に立っていた。
「……すごい」
俺が呆然としているとミシェールが扉を叩く。
「学園長。連れて参りました」
「開いておるよ、入りたまえ」
老人の声で返答があり扉が開く。
「失礼します」
手を引かれ俺はその部屋に入った。室内は大きな机とそれを囲むように本棚が置いてあり、机には先ほどの声の主であろう見事な髭と禿頭の老人が座っていた。見た目は俺と同じ、つまり人間だろう。
「かけなさい」
かけなさいて言われてもイスなんかないし。なに言ってるんだ?
俺の疑問はすぐに氷解した。老人が持っている杖をクルリと回すと突然、ソファーとテーブルが現れた。
「はぁ!?」
もうね、素が出たね仕方ないじゃん。ミシェールと老人はそんな俺をみてクスクス笑っている。ソファーに座ると老人が話を始めた。
「初めまして。ワシはこの学園の学園長をやっておる。ササガーナ・イヌカイじゃ」
イヌカイ……日本語みたいな響きだな。
「ヤマシタ・シン君。君の事は先ほど、そこのミシェールより報告を受けておる。さて、早速じゃが君の置かれた状況について説明しよう」
ゴクリとつばを飲み込む。
「見た所、歳の程は10歳前後と見えるが多少難しい話になる。分からない事は何でも質問するのじゃ。この世界は君のいた世界ではない。ここは地球ではなくリトフィリアと呼ばれている世界じゃ」
「リトフィリア……」
口の中で反芻する。
「そうじゃ、ここは君から見たら異世界と呼ぶ場所じゃ」
「あの、帰る方法とかは無いんですか?」
「……はっきりと告げておこう、残念じゃが無い」
「そんな……」
俺がショックを受けていると、隣にいたミシェールが頭を撫でてくれた。
「だが、それは今のところはじゃ。実はの君のように異世界から迷い込んでくる者達は過去にもおったのじゃ。そして、今もおる。そういった者達は発見された国に保護され色々な分野で活躍しておる。その中に異世界研究をしている者達がおるのじゃよ」
「じゃあ、帰る方法も見つかるかもしれないって事ですか?」
「その通りじゃ。うむ、なかなかに賢いようじゃの。さて、一つ大事な質問があるのじゃが。君はどうやってこちらに来たのじゃ」
イヌカイは真剣な目で俺を見ている。どうやら言葉の通りかなり大事な事のようだ。俺は経緯を出来るだけ簡潔に伝えた。
「なるほどのぉ……」
「扉……学園長、まさか?」
「ここでは答えは出せんのぅ。明日には異世界管理官殿が来る手筈になっておる。判断はあちらに委ねるしかないじゃろう」
内心、かなり不安だった。俺はこれからどうなるんだろう。ミシェールはそれを感じ取ったのかギュッと力強く抱きしめてくれた。多少不安が和らいだ。
「う~む、それにしても。君は歳の割りに落ち着いておるのぅ」
「あの、その事で質問があるんですけど」
イヌカイは頷いて、続きを促す。
「異世界に来た地球人は小さく、えっと、子供になるんですか?」
質問をぶつけるとキョトンとした顔でこちらを見るイヌカイとミシェール。
「……聞いたことの無い話じゃのぅ。まさか――」
「はい、そのまさかで子供になってるんです」
部屋に沈黙が流れる。ミシェールは俺を放すと問いかけてきた。
「……あの、さっき言ってた21歳って言うのは本当なの?」
「えっと、はい。21歳が実年齢です」
ボンっと音がするような勢いで顔を赤くするミシェール。
「あの、あの、私ったらごめんなさい」
「あっ、えっと、凄く安心できました」
俺もわけの分からない返答をする。一方でイヌカイの方は難しい顔をしていた。
「ヤマシタ・シン君。その話はワシら意外にしてはならんぞ」
「何故でしょうか?」
「今は君も混乱しておる。もう少し頭が整理できてから詳しく話そう」
「はい、分かりました」
「今日は学園の寮の空き部屋を手配しておる。そこで休みなさい。明日は異世界担当の者がくる。その時に君の今後を話そうぞ」
「俺の今後……」
「大丈夫じゃとも。悪いようにはならん。そこまで心配せんでも平気じゃ。今日は良く食べ、良く寝るのじゃ。ミシェール、案内してあげなさい」
「はい、ではシン君。行きましょう」
ミシェールと共に校舎を後にし、少し歩くと赤と青の大きな建物が見えてきた。
ここが学生寮なのだろう。建物の前で立ち止まり仰ぎ見る。
(……?何だろう空間が歪んでる?)
そう、建物全体が歪がんだ空間にすっぽりと覆われているように見えるのだ。
俺の様子がおかしい事に気付いたのだろう、ミシェールが感心した声を上げる。
「あら?見えてるのね、いい目をしてるわ。歪んでいるように見えるでしょ?アレはね魔法を使って中の空間を歪めてるのよ。そうする事によって建物本来の大きさよりも多い部屋を設置できるわけ」
「魔法って凄いんですね」
ミシェールは微笑を浮かべる、そして青い建物の中に入り、今日泊まる空き部屋に案内してもらった。部屋には机が二つと、ベッドが二つあるだけだった。
「今日はここで休んで。食事と服を後で持ってくるわ」
「あの、何から何までありがとうございました」
「ふふ、気にしないで」
1人になるとドッと疲れが押し寄せてきたのでベッドにダイブする。
「はぁ~、異世界転移とかマジで洒落にならねぇ。どうなるんだろうなこれから――」
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