今度こそ燃え上がるような青春を!
才花
プロローグ
「ふー、やっぱり夏場のランチはキツいな」
大きなため息を1つつき休憩室のイスに腰をおろす。先程まで文字通りの灼熱地獄の厨房に居たので、エアコンの効いたここは天国だ。
天国に似つかわしい愛らしい天使ことバイトの相原が休憩をしていた。
「副長、お疲れっす!」
語尾に星マークが浮かびそうな笑顔を浮かべる、彼女はこの店のアイドル。
「あぁ、お疲れ。今日は忙しいな」
「そうッスね!面倒です……」
「あのなぁ……一応は俺社員な訳だから目の前でそんな事言うなよ」
「えぇーでも副長怒らないじゃないッスか。だからセーフ」
「さいですか」
「そうだッ!副長知ってますか!?」
「いや知らんよ」
「うわぁ……つまんないッスよ、そう言うの」
「やめろよそう言う反応……マジで傷付くだろ……」
「ははは、すんませーん。それで、知ってますかコレ!」
相原がスマホを眼前に突き付ける。画面には動画が流れており、白い背景に黒い文字でこう書かれていた。
「『あなたの後悔なんですか?』……なんじゃこりゃ」
「これCMを撮ったんですけどね。このCMを見るとなんと!人生をやり直せるらしいですよ」
「人生をやり直す?胡散臭ッ!んな事出来る訳ねーだろ!大体、一回しか無いからこそ後悔もあってそれを噛み締めて生きていくんじゃねーのかよ!」
「……副長ってたまに熱くなるッスよね。それで、副長の後悔ってなんスか?やっぱり、大学途中で辞めちゃった事ッスか?」
その言葉に嫌な思いでが蘇ってくるが、頭を振って振り払う。
「お前には関係ない。全く、人のそう言う所に簡単に踏み込むといつか傷め目に会うぞ?」
「は~い」
(本当に分かっているのか?まぁ、いいか……ん?)
ブブブとポケットに入れていたスマホが揺れる。
「誰だよ?」
取り出して画面を見ると、母と表示されている。
「母さん?はい、もしもし」
「……」
無言、いやよく聞くとすすり泣く声が聞こえる。
「どうしたんだよ?」
「……っ…落ち着いて聞いてね、遥ちゃんが……亡くなったわ」
そう言うと母は泣き崩れた。俺は電話を切ると天を仰ぎ呟く。
「亡くなった?……遥が死んだ……?」
「大丈夫ッスか……?」
ノックの音と共に俺の上司でこの店の店長、寺崎さんが休憩室に入ってきた。
「お疲れ様。ん?どうした山下?」
「寺さん、俺……」
「アホ、店では店長と呼べと言ってるだろ。それで、何があった?」
「幼馴染みが亡くなったんです……」
「……そうか。山下、今日はあがれ。後、年休使っていいから何日か休め。いいな?」
「でも、店は」
「いいから!そんなもん気にすんな」
そう言うと俺の肩に手を置く。
「辛いだろうけど、しっかり見送ってやれ」
「はい」
着替えを済ませると挨拶をして、裏口から店を出る。
オンボロの愛車に乗り込むと実家を目指して車を走らせた。道中、いろいろな思い出が頭を駆ける。
遥――新界遥(シンカイハルカ)は俺の実家の隣に住んでいた。親同士が仲が良く、物心ついた時からいつも行動を共にしていた。
小中高とおまけに大学まで同じ所に通った。彼女は快活で頭も良く、いつも話題の中心にいる人物だった。
口癖のように「燃え上がるような青春をしたい」と言っていたっけな。
俺はというも可もなく不可もなく、別に友達がいないわけでもないし、いじめられてたわけでもなかった。まぁ、地味な奴だったよ俺は。
いつからか分からないけど、俺は遥に恋をしていた。その事で大学を辞めたんだが……
高速を一時間程飛ばして俺は地元へと帰ってきた。
(実家か……)
大学を辞め、実家を追い出されてからは一度も帰ってない。
車を止め、久しぶりに家へと足を踏み入れる。リビングに入るも誰もいない。
「母さんどこいったんだ?あっ」
多分、遥の家だな。そう思い、隣の家に行きインターホンを押す。
「……はい」
「ん?母さん?」
「あら伸(シン)?良く帰ってきたわね。鍵を開けるからちょっと待ってなさい」
少ししてガチャリとドアが開き、母さんが顔を出す。
「伸、入ってきなさい」
「うん、母さんやっぱりここにいたんだな」
「……見てられなかったからね。それに人手はいくらあっても足りないわ。あんたも手伝うのよ」
「わかってるよ」
新界家に入るのは何年ぶりだろうか?
中は陰鬱な雰囲気に包まれており、それが遥の死という現実を俺に突きつけてくるようだった。
「おじさん」
俺が声をかけると。ソファーに座っていたおじさんが顔をあげる。
「やぁ、伸くん。久しぶりだね」
「……はい、久しぶりです」
遥はおじさん似だった。おじさんは豪快な人だった。子供の時はよくアウトドアに家族ぐるみで行ったものだ。
だが、その豪快な人は憔悴仕切っていた。
「あれ、おばさんは?」
「あぁ、家内は少し取り乱してね。今は病院だよ」
「そうなんですね……それで、遥はなんで……?」
「……遥は溺れている子を助けようとしてね。子供は無事に助けられたけども遥は……」
俺は何も答えられず、呆然と立ち尽くす。母は忙しそうに来客の相手をしていた。
どれくらい呆けていただろうか?
声をかけられたので、振り向くとそこにはもう一人の幼馴染みが立っていた。
「伸」
「鷹矢(タカヤ)……」
「久しぶりだな」
こいつの名前は天童鷹矢(テンドウタカヤ)、俺の実家は遥の左隣、こいつの家は右隣。鷹矢も小中高大と同じ学校に通い、子供の時、行動を共にしていた幼馴染みだった。
「聞いたよ、ファミレスに就職したんだって?」
「あ、あぁ」
「積もる話はあるけど今は遥を見送ってやろう」
「……そうだな」
その後は母の使い走りをし、気づいたら時刻は深夜の1時を指していた。
時間も時間なので自室に戻った俺は何もする気も起きず、かといって眠気も無いので何の気なしにテレビをつけていた。
「あなたの後悔なんですか~」
テレビからは陽気な音楽と共にそんな歌が聞こえる。ボーッとそれを見つめていたが、昼に相原に言われた事を思い出す。
「後悔か……やり直せるならやり直したいよ……クソッ……」
ため息を一つつくとリモコンを操作しテレビを消した。
それからは怒涛の様に時は過ぎた、全てが終わり俺は鷹矢と共に遥が亡くなったとされる海に来ていた。
波打ち際まで歩き足を止める。夏の海特有の肌にまとわりつく滑った潮風が少し気持ち悪い。それを差し引いても、空に輝く満月と夜の海というのは幻想的な光景だった。
「こんな所に呼び出して何のようだよ?」
俺の質問に鷹矢は答えず、じっと海を見ている。どれくらいの時間そうしていただろうか?鷹矢が口を開いた。
「お前とゆっくり話すのも久しぶりだな。お前が大学辞めてから遥はしきりに言ってたんだ、心の火が消えたって。どういう意味なんだ?」
「心の火?……分からないな」
「そうか……ところでお前なんで大学辞めたんだ?」
俺の脳裏にいつかの光景が過る。こいつの前で浮かべている彼女の嬉しそうな笑顔。
心が軋む。
「それは……」
「答えられないのなら別に良いよ。でも、これだけは答えろ。何で連絡を絶った?ここ1年半、俺も遥もずっとお前を心配してたんだぞ?」
「連絡なんか取る必要が無かったからだ」
突き放すように言い放つと、鷹矢の顔つきが変わった。
「は?どれだけ皆が心配したと思う!?遥は泣いてたんだぞ!」
その声にははっきりと怒りが含まれており、夜の海の幻想的な空気はどこえやら、俺達の間に流れるモノは一触即発のものに変貌する。
「心配ね、でも遥にはお前がいただろ?なら、俺は必要ないだろ?」
「……?伸、お前何か勘違いしていないか?」
勘違い?コイツは何を言ってるんだ?
「俺と遥は――」
それは、唐突だった。鷹矢の言葉を遮るようにまばゆい光が辺りを照らす。
「なんだっ!?」
細めた目を開けると海上に荘厳と形容するのが相応しい立派な扉が出現していた。
不可思議な事態に唖然として声も出ない。ただ、声も無く扉を見つめるしか出来ないでいた。そしてゆっくりとソレは開きだした。背筋に悪寒が走る。本能が告げている、ソレが開くのはまずいと。
だが、足が動かない。そして、ソレは完全に開ききると光が場を満たす。俺達はまばゆい光に包まれる中、
「あなたの後悔なんですか〜」
そんな歌が聞こえた気がした。
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