名も知らぬ花々、乙

 グラシャラボラスとの遭遇戦での

 被害を受け、魔石の採取が困難になると

 少しずつ国の情勢が荒れだした

 地価の上昇、国外に去る者、そして

 治安の悪化、少しずつ少しずつ

 崩壊の歯車が動き出していく


 そして、シドもまた救えなかった者への

 贖罪から魔導、特に禁術に対しての執着が

 年を追うごとに増していくのだった


 シド「第43指定禁術・・・・

 自身の心臓と引き換えに

 他者との存在との融合

 及び行動を強制する秘法か

 強制する存在証明フォースエクステンス


 城にある禁術の殆どを彼は

 自分の物としていた

 ある種それは病的なまでに

 異様な姿だったという


 彼はグラシャラボラス遭遇戦以降自身の

 不思議な能力に気付いた


 見たものや自身に受けた魔法が

 使えるようになる


 それは書物を読むだけでも

 効果があった


 完全なる模倣イミテーションラーニング


 何故こんな力が自身にあるのか


 考えるより先に彼はひたすらに

 ただひたすらに堕ちていった


 そして3年の月日が経つ


 シド24歳

 ファリネリア16歳


 丁度この頃、床に伏せていた

 ファリネリアの母親が

 病死してしまう


 ファリネリアは擦り切れる想いを隠し

 毅然きぜんとした態度を取り

 公務に励んでいた


 ファリネリア「ねぇ、シド、私ね

 この国は今も昔も

 あんまり好きじゃないんだ

 でもね、

 この国を、何とか一人でも多くの人が

 笑っていける国にしたいの」


 シド「ええ、立派な志かと思います、

 ファリネリア様の為にも私も

 日々、魔導の研究をしています」


 ファリネリア「もぅ〜!2人きりの時は

 様はつけないでって言ってるでしょー

 後、顔がこわーい!笑顔!」


 少し困った顔をし

 ぎこちない笑顔をするシド


 ファリネリア「なんか最近ますます

 想いつめてない?」


 シド「私より、ファリネリア様は

 大丈夫ですか?」


 ファリネリア「ん、へへ、

 頑張らなくちゃあいけないもん!」


 お互いがお互いを元気付ける

 そんな日々で何とか平静を保っていた


 だが事件が立て続けに起こる


 第1皇女アルトリアの変死

 王妃の自害


 王は衰弱し病に倒れると

 国はさらに迷走していく


 そしてファリネリアにも悲劇が訪れる


 表だっての発表は

 外交中で訪れていた隣国での事故

 辛うじて命は助かったが

 顔の左半分を失う


 だが事実は違った

 外交中に宿泊していた施設を

 何者かが焼き討ちした


 彼女が狙われたのは明白だったが

 事を大きくしたくない隣国が

 小国ファンダリアに賠償する事により

 事実がねつ造された


 一命をとりとめた彼女だったが

 包帯を取った崩れた自身の顔を見て、

 自室にこもるようになってしまう


 今では月に数回、第4皇子ストーリアと

 第5皇女ベルーニア、シド、等

 一部の人間としか接点がない

 状態になってしまう


 ストーリア「シド、姉上の顔を

 治す方法を探しにいくと聞いた」


 シド「ストーリア様、はい

 中央大陸や東の大陸はこの地より

魔導が発展している場所もあると聞きます」


 ストーリア「そうか、姉上の事

 任せてしまってすまない」


 ストーリアの母親や

 ベルーニアの母親も

 早くに他界しており

 幼い日よりファリネリアは

 その2人の面倒を見ていたという

 彼らにとってファリネリアは

 姉であり、母親に近い存在であった


 シド「一命に代えましても」


 そしてシドはファンダリアを後にした。



 3年後、皇位を継承するものを

 選定する会議で又も歴史が動きだす


 大臣「陛下や元老院の意向により

次期皇帝は第3皇女ファリネリア様とする」


 エリザベート「そんな、皇位の継承順位は

 サターニアのが上です!そんな馬鹿な

 決定を受け入れるはず、ありませんわ!」


 大臣「控えよ、エリザベート、

これは国の総意なのだ、

皇帝は代々その子孫の中で

 最も魔力が強い者で、尚且つ人格者で

 なければならない」


 エリザベート「言葉を選びなさい大臣!

我が子があのような下賤の子より劣るような

 言い回し、大変不愉快です!」


 大臣「いずれにせよ、

 決まった事です、

 貴女方がどうしようと結果は変わらない」


 エリザベート「陛下は、3年もの間、

 自室から殆ど出もしない人間に

 国を統べる資格があると?

 本気でお思いか!」


 ストーリア「エリザベート様

 それは姉上様に

 直接言われたらどうですか?」


 首を横に向け、視線をズラしながら

 ストーリアは発言する


 エリザベート「ファリネリア!」


 そこには顔の左半分を仮面で隠しては

 いるが、強い眼差しをした

 ファリネリアが立っていた


 ファリネリア「多くの人に迷惑を

 かけてしまった私が国を統べる資格がない

 ということはわかっています

 ですが、私はこれ以上私の愛したい国を

嫌いになりたくありません

 1人でも多くの人がこの国を愛し

育んでいけるように、私はここに立ちます」


 エリザベート「ぐぬぬぬ!

(おのれぇ穢れた血の俗物め、今更何を、

 私がこの日の為にどれ程辛酸を舐め、

 屈辱に耐えてきたのか

 この怨み、決して忘れない

 ファリネリアッ!!!!!)」


 ファリネリア私室


 ファリネリア

「ふぅ、これで後に引けないわね」


 シド からの手紙を見ながら独り言を呟く


 ファリネリア

「無茶かもしれないけど

 もう一度だけ頑張ってみるからね、シド」


 ある日の廊下


 お付きの者を従えた第2皇女とすれ違う


 サターニア「あらこれはこれは

 次期皇帝のファリネリア様では

 ございませんか」


 ファリネリア「サターニア姉様」


 ファリネリアは傲慢不遜なサターニアが

 幼い頃から苦手だった


 サターニア「あら、顔色が悪いわね

 て、その顔じゃあ、仕方ないか

 あはははははは、

 私だったらその顔だったら

 人前に出る勇気ないわー

 流石は次期皇帝ともなると

 相当神経図太いわよね」


 ファリネリア「くっ」


 涙を堪えてその場を立ち去ろうと

するファリネリアにサターニアは

続けて言い放つ


 サターニア

「あら、後でスキンケアクリーム

 送ってあげるわよーあはははは

 それとも粘土でも送って欲しい?

 貴女の凸凹の顔には

丁度良いんじゃあないかしら?

あはははははは」


 顔の事を必要以上に責めるサターニアに

 ファリネリアは逃げる事しか出来なかった


 ファリネリア私室


 鏡の前で仮面を取り自身の顔を見た

 ファリネリアは涙を流しながら小さく呟く


 ファリネリア「本当、化物、みたい

 ・・・・シド・・・・早く帰って来てよ」



 しかしファリネリアの想いとは裏腹に

 無情にも方法が見つからないまま

 シドが旅立って8年の月日が経つ

 

世界中を飛び回りシドは地上界には

ファリネリアの傷を癒す程強力な治癒魔法が

 存在しないという事実を知り絶望する


 シド32歳


 ファリネリア24歳


某国の魔導図書館


 シド「糞っ!ここも駄目なのか!

 糞っ!糞っ!糞が、

 彼女を癒す方法は何処にあるんだよ!!」


 そんなある時一冊の書物に目が止まる


 シド「?アビスゲート?幻獣界?

 世界樹ユグドラシル

 なんだ、作り話か」


 学者「いやいや、所がどっこい!

 幻獣界はマジもんだぜー兄ちゃん」


 シド「なんだあんた?」


 学者「俺か?俺は考古学魔導の

 ラッシュってもんだ!」


 シド「なんだその魔導、聞いた事ないぞ」


 ラッシュ「へっへー、今俺が付けた!」


 シド「付き合ってられん、俺は忙しい」


 ラッシュ「ちょちょちょ!

ちょっと 待てって!

何ならあんたを幻獣界の入り口に

 案内してやってもいいぜ」


 シド「見返りはなんだ?」


 ラッシュ「いや何、幻獣界に行くまでに

 アビスゲートって所に行く訳だけど

 実はそこに行くまでにかなーり険しい所

 てか幻獣がうようよいる場所

 通らないといけないの

 お兄さん強そうだから

 一緒についてきてくれないかなー

なんてな」


 シド「あからさまに怪しい」


 ラッシュ「あっそー残念だなー

 こないだ行った時に向こうで聞いた

 世界樹の霊薬なら

 何でも治すって聞いたけどなー

 残念だなー」


 シド「本当か!!!」


 ラッシュ「決まりだな」


 シドに選択の余地はなかった


 ファリネリアが皇位を継承した

 最初の数年は毎月手紙を通して

励まし、慰め、元気付けていたが

年を追うごとにファリネリアからの

返信は減っていった


ストーリアからの書状からだと

 保身派と改革派の均衡を保つ事に

 尽力していたファリネリアの状態は

 限界に近いということだった


そんな事もあり

より一層自分自身を追い込むシド



アビスゲートまでの道のりは非常に険しく

 幾百もの幻獣がいた


 だが目標を見つけたシドにとって

 その程度の障害は物の数には入らない


 シド「光よ紡げ、百花の如く

 雷光剣サンダーブレード!」


シド「煉獄の業火よ!呪われし神名において

 焼き尽くせ!灼帝の息吹カサンドラフレア!」


 シド「天神てんじんあまねく、暴風の精よ

 我が身を喰らって阿修羅と化せ!

 流怒羅ルドラ!」


 ラッシュ「うっひゃあ!すげーすげー

(途中で身代りにしていこうと思ってたけど

 こいつ一体何者だ?)」


 シド「はぁはぁ、先を急ぐ、早くしろ」


ラッシュ「ここまで来たら後はもうすぐだ」


 そして2人は目的地に向かい歩き出す


 シド「アビスゲートっていうのは

 一体何なんだ?」


 ラッシュ「いやー何でも

 俺も詳しくは知らないが

 何でも異世界を繋ぐ霊脈みたいな

 もの、らしい、その1つだ」


 シド「らしい?行った事があると

 言っていたが

 何で知ったんだアビスゲートの事」


 ラッシュ「あー俺っちの専門は

 古い遺跡を調査してお宝をちょうだい、

 じゃなかった、保護するんだが

 その時偶然見つけたんだ」


 シド「なんだ、学者と思っていたが

 単なる墓荒らしか」


 ラッシュ「失敬だな、

 トレジャーハンターと言ってくれ」


 シド「ん?あれがその遺跡か?」


 ラッシュ「あ、そうそう、言い忘れてたが

 向こうの世界に入ったら

辺り一帯洒落にならないぐらい広い森だから

世界樹の霊薬、持ってるユグドラシルと

逢えるかは運だと思え」


 シド「?ユグドラシルって人なのか?」


 ラッシュ「んー、人じゃない精霊だ」


 シド「唯一の手掛かりだ

 時間がかかってもそれに頼るしかない」


 ラッシュ「ま、俺は適当に遺跡の

 発掘して帰るから後はご自由に」


 シド「助かったよ、何かあった時は

 力になるからファンダリア国に来てくれ」


 ラッシュ「ファンダリア国?あー

 最近いい噂聞かないあの国か」


 シド「噂?」


 ラッシュ「何でも国の中で

 新皇帝の保身派と第2皇女の改革派の

 小競り合いが発生してるってな」


 シド「・・・・」


 ラッシュ「まぁ、保身派

 優勢だろうってのが

 世間の見解だがな

 俺は国の情勢次第で改革派が

 一気に優勢になると踏んでるよ」


 シド「そうか、いや、

 参考になった、ありがとう」


 シドは不安を感じながらも

 急ぐ決意を新たにし遺跡の内部の

 アビスゲートから幻獣界へと向かう



 幻獣界に着いたシドは

 辺りを見回せる手近な高い木の上に立つ


 シド「なっ、なんだこれは」


 360°見渡す限り地平線の彼方まで

 全て緑、全てが森、森、森、森


 シド「これが幻獣界」


 少し絶望感が湧くシドであったが

 すぐに冷静さを取り戻すと


 シド「先ずは生命体を探すか

 水辺があればいいが、食料は、まぁ

 何とかなるか」


 地上界の幻獣は種類にもよるが

 食用で食べる事も出来た

 幻獣界の幻獣もどうやら

 問題ないようだ

 シドにとってはそれが

 唯一の救いだった




 森を徘徊する事、半年、

 幻獣には遭遇するものの

 未だ他の生命体とは会えない

 幻獣界は地上界よりも

 遥かに広大な土地があり

 それは徐々に、そして確実に

 シドを苦しめていた


 シド「はぁ、気が変になりそうだ」


 8年もの歳月を地上界でひたすら飛び回り

 そして見つけた手掛かりを追ってきた

 幻獣界、シドにも限界の時が訪れる


 シド「誰か、頼む、返事をしてくれ、

 誰でもいい、おーい!」


 膝が折れ地面に倒れこむシド


 シド「ファリネリア」


 気が狂いそうな自身を

 何とか繋ぎ止めたのは

 王城の裏手の

 名もない花々がある場所で

 夕陽に沈む水平線を眺める

 幼き日を共に過ごした

 ファリネリアの横顔だった


 シド「ぐっ、まだ終われない」


 その時だった


「あらあら、何か不思議な気配がするなーと

 思ったら、人が倒れてますー」



 シド「あ、んた、は?」


 幻でも見たかのように

 シドは目の前の女性に言う


「わたしですかー?はじめましてー

 世界樹ユグドラシルといいますー」


 シド「あ、あなたをずっと探して

 いた、頼みがあります

 世界樹の霊薬を譲って下さい!」


 シドは震えながらも

 立ち上がり懇願する


ユグドラシル「何か事情がありそうですねー

 とりあえずお話を聞きたいですー

 私のお家でお聞きしますー」


 そう言うとユグドラシルの背後には

 先程までは何も無かったはずの場所に

 他の木々よりも遥かに大きく立派な巨木が

 そびえ立っていた


 ユグドラシル「どぞー\(^ω^)/」


 シド「これは」


 ユグドラシル「私の本体ですー」


 シド「こ、こんな凄い魔力

 地上界では見た事がない」


 ユグドラシル「これでも

 幻獣界を束ねる大精霊の1人ですからー」


進められるがままにシドは巨木の内部へと

 いざなわれる


 やっと見つけた、これでファリネリアを

 救えるとシドは感無量で震えていた




 だが丁度この頃、更なる悲劇が

 ファリネリアの身に起ころうとしていたが

 シドには知る術がなかった、

 否、正確には最後の滞在先に

 唯一の助けを求める

 ファリネリアからの

 最後の手紙が届いていた




「逢いたい」





 只一言、震える筆跡で

 づづられていた、この手紙を

 もし、先に見つけていたら

 物語は変わっていたのかもしれない、

 だが一度動き出した運命の歯車は

 誰にも止められなかった


 次回予告

 名も知らぬ花々、丙

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