名も知らぬ花々、丙
やっとの思いでユグドラシルを
見つけ、目的が果たせると
思っていたシドだったが
ユグドラシルは現実を突きつける
シド「そ、そんな!すぐには
作れないということですか」
ユグドラシル「はいー、
世界樹の霊薬の材料は
私の魔力で咲いた花の蜜が必要なんですー
でも魔力を注ぐ私の方が最近不調で
この調子でやると多分50年はかかると
思いますー」
シド「ご、ごじゅう、何とか
他に方法はありませんか?」
ユグドラシル「私の魔力を補充する方法が
一つだけありますが、
それはあまりオススメしませんがー
その方法だと1年ぐらいで多分作れますー」
シド「それでお願いします!」
ユグドラシル「えっとー
この森の南の方に命の泉という場所が
あるんですがー
そこにあるー、創世の水、という
七色に輝く湧き水があるので
それを飲めばいいだけなんですが
ただー、命の泉の周りの幻獣は
この幻獣界の中でもかなり高位の幻獣がいて
大変危険ですー」
シド「わかりました、取ってきます」
ユグドラシル「後、あそこにいる
幻獣何ですがー
特にー
湿地帯にいる
ミドガルズオルムさんにだけは
気をつけて下さいー、
多分ー見つかったら死んじゃいますー」
シド「ミドガルズオルム?」
ユグドラシル「はいー、
蛇の大精霊さんですが、人が大嫌いですー
こんな風に(O_O)
目が光ったら
辺りが火の海になると思って下さいー」
シド「わかりました」
こうしてシドの創世の水探しが始まる
一方ファンダリアでは事態が急変していた
上皇及び元老院が
クーデターにより暗殺され
第2皇女率いる改革派により
皇帝ファリネリア、第4皇子、第5皇女が
投獄されたのだった
しかしこれだけに被害は止まらなかった
上皇を暗殺された事や
皇帝を投獄された事に憤慨した保身派は
報復として
第2皇女サターニアを暗殺、
遺体をバラバラにし
公衆の面前に晒すという
報復措置が行われた
これにより完全に気が触れた
エリザベートは改革派を扇動し
皇帝を支持する国民を一方的に捕縛
拷問、虐殺、国民の半数以上が死亡した
残っていた改革派の一部も
この異質な惨状に恐怖し
逃亡するものが出るが
エリザベートはそれさえも捕らえ
拷問にかけて嬉々として
皆殺しにしたのだった
血で血を流す一連の事件は
後の世にこう呼ばれた
ブラッディーファンダリア、と
約1年後シドが無事、創世の水を手に入れ
ユグドラシルが
世界樹の霊薬を完成させる少し前
歴史では語られないもう一つの
悲劇が王家の一室で鳴動していた
王家地下牢
ファリネリア
「(あ、あ、あなた、だ、れ?)」
拷問で舌を抜かれ、歯を抜かれ
片耳を削がれ、片目を潰され、
指の爪は全て剥がされ、
全ての指には釘が打たれている
性器は言葉では表現できない程の
陰惨なものだった
全身の骨は数十箇所骨折
体中をいたぶられ
瀕死の重傷を負っていた
ファリネリアだったが
バラモンの鎧
「我が主人よ、時は近い、
汝が全てを捨てた時
この国は
染まって堕ちるだろう」
ファリネリア「(シ、、、ド)」
もはやまともに痛みも感じない程の
彼女には感情も欠けらしか
残っていなかった
それはシドに逢いたいという
単純な願い、本当にただ、それだけだった
エリザベート
「くさいわねー、ファリネリア
汚物みたいな匂いで鼻が曲がりそうだわ
あー、そうそう、今日は私、
凄く機嫌がいいの
だから貴女にも今日は
拷問はしないであげるわ、嬉しいでしょ?
貴女、最近全然話しかけても
反応がないからつまらないの
ほらこれでも食べて元気出しなさい
食べやすいように
シチューにしてあげたわ、
具材も刻んでおいたから
歯がない貴女でも食べられるはずよ」
無理矢理口にシチューを詰め込み
食べさせようとするエリザベート
ファリネリア「ゴボッ、ゲェェ、ウェエエ」
エリザベート「汚いわねー
あ、そのこぼれたやつ
明日私が来るまでに残してたら、
ストーリアとベルーニアがどうなるか
わかるわよね?」
ファリネリア「!、あ、あぅ」
口を聞けないが必死で弟達を庇おうとし
答えようとするファリネリア
エリザベート「わかればいいの、じゃあね」
床に散乱したシチューを犬のように舐める
彼女の目にはもはや涙さえ枯れ果てていた
翌日
エリザベート「あら、偉いじゃない
じゃあ貴女にも、ご褒美あげなきゃねー」
ナイフを目の前でチラつかせるエリザベート
ファリネリアはそれを見て何をされるか
理解したのだろうか
首を必死に横に振り、
エリザベート「うふふ、貴女にかけた
秘術って本当に素敵よねー死なないし
傷も一定時間毎に回復するなんて
刻みがいがあるわぁ、
あ、でも最近刻み過ぎて外側の再生が
追いついてないわねー」
ファリネリア「ああぁああああ」
過去に何をされたか脳裏に浮かび、
その光景に恐怖し、失禁する
エリザベート「やだ、ちょっと
漏らさないでよ、全く、
楽しくなるのはこれからなんだから」
エリザベートはファリネリアの
股間と腹部の間をナイフで切り開き
そして腕をその傷口から
差し込むと子宮を握り潰した
ファリネリア「うぎあああああああ」
エリザベート「うふふ何回聞いても
いい声ね、貴女の声、
貴女の大事な所潰れちゃったわねー
あはははははははははは!」
ファリネリアは痛みにより
目は泳ぎ、口から泡を噴き出し
悶絶し、全身をぴくぴく
エリザベート「あら?逝っちゃった?
まっいいか
また明日遊びましょう、あはははははは」
そして崩壊の日が始まる
エリザベート「あらー?
何寝たふりしてんのよ!」
ファリネリア「あうあうあうあう」
エリザベート「何喋ってるのか
分からないわねー?
舌が再生するまで待つのも面倒だし
口が聞けるまで待ちたかったけど
仕方ないわね
いい事教えてあげるわ!」
ファリネリア「???」
エリザベート「貴女が2日前に食べた
シチュー美味しかった?
あれ実は貴女の大好きな弟達のお肉なのー
あははははは!!!!!!!!!
あははははははははははは!!!!!!」
ファリネリア「!!!!!!!!!!」
ファリネリアの視界が歪み、
かつてない吐き気を催した
そして辛うじて保っていた精神の欠けらが
ここで完全に砕けてしまう音が聞こえた
ファリネリア
「(シド、もぅ、いいよね、
ごめんね、私壊れちゃった
頑張ったんだけど壊れちゃった)」
バラモンの鎧が目の前に現れる
エリザベート
「な、なんでここにこんなものが」
バラモンの鎧
「契約は結ばれた、
かつてない絶望と血を呼ぶ
その呪われし定め、
我が呪いの魔装の宿主に相応しい」
バラモンの鎧がファリネリアの
身体と融合していく
顔の傷も癒え、元の美しい顔に戻ったが
片目の部分は鎧と同化し
白目の部分が黒くなり
眼球は紅く不気味に瞬いている
身体は悪魔のような両腕に
馬の蹄のような両脚
その姿はもはや人間ではなかった
そして何より内在する魔力が
この世界で最も禍々しく、
それはこの世界の
後の世に現れるどのクリスタルや
どの幻獣よりも強力なものだった
エリザベート「な、何よこれ、
こんなものがあるなんて聞いてないわよ」
魔装の宿主「ギロッ」
紅く瞬いていた方の目だけが
エリザベートを視界に捕らえる
エリザベート「ひ、ひぃぃ」
魔装の宿主が軽く手を振り降ろすと
エリザベートは縦に5つに割れて絶命する
エリザベート「あがぁああああ」
魔装の宿主は天井を蹴破って
地上に出てくると目についた
生き物を端から
全て皆殺しにしていく
エリザベート配下の上級者魔導士達や
近衛兵、そして一般兵合わせて
城にいた約800人近い
人間は全て肉片と化した
王城を出た魔装の宿主は
王都に住む人間さえも
女、子供、老人、関係なく
無差別に襲い街は血で染め上げられた
ほんの半日の間に王都に残っていた
1万人程の人間はこの日
魔装の宿主の犠牲となる
そしてさらに血を
魔力は濃厚になり、その余波は
幻獣界にすら影響を与えた
幻獣界世界樹ユグドラシル本体外壁部
ユグドラシル
「これは大変、良くない風が吹いてますね」
シド「これは」
ユグドラシル「シドさん」
シド「はい」
ユグドラシル「多分貴方はこれから凄く
辛い試練にあうと思います、ですが
その事から貴方は逃げてはいけません
向き合って、それでも辛い時は
たまには幻獣界に来て下さい
美味しいお茶を用意してますからね」
まるで予知のような物言いをする
ユグドラシル
シド「ご協力に感謝しています
ユグドラシル、では」
そういうとこれからどうなるのか
悟ったかのような哀しい目をしたシドは
ユグドラシルに別れを告げ
地上界に戻っていく
ユグドラシル「貴方はとても哀しい
運命の輪に囚われてしまっているのですね
願わくば貴方に平穏な日々を」
そして、魔装の宿主の覚醒から1週間
ついに全てが終わり
全てが始まる時を迎える
元ファンダリア王都跡
シド「こ、これがファンダリアなのか」
あちこちに人が千切れ飛んだ肉片があり
ウジ虫が湧き、ハエが飛んでいた
街道は元の美しい黄土色の見る影もなく
ただ、ただ紅く、そして黒く染まっている
頼む、無事でいてくれと
心の中で叫びながら
シドは王城を目指した
崩れ落ちた元謁見の間
シド「ファリネリア?なのか?」
元、王座があった場所に片膝を抱えて
座っているファリネリアをシドが発見する
魔装の宿主「ギロッ」
魔装の宿主は眠っていたが
シドの声に反応すると
突然、地を蹴り、瞬時にシドの目の前に
距離を詰めると目の前で前方に
一回転しながらかかと落としを繰り出し
シドの頭蓋を狙ってきた
シドは咄嗟に腕でガードするが
かかと落としをモロに左腕に受け、
鈍い音と共に骨が砕かれる
シド「くっ!ファリネリア正気に戻れ!」
魔装の宿主「!!!!!」
魔装の宿主は突然踠き苦しみ始める
魔装の宿主「お前は
この者の心に遺る最期の光か!」
シド「誰だ貴様!!」
魔装の宿主「いずれにせよ
無駄な事だ、お前の声は
もうこの者には届かない
最期の灯火を
我自ら消してやろう」
シド「くっ!古より存在する理よ、
その
ここに命じる、
制定の鎖で、不浄を正せ、
魔装の宿主の周りの地面から
金色に輝く鎖が飛び出し両手両脚を拘束する
魔装の宿主「ほぅ、これはかつて
天界の神々さえも地に縛りつけたという
秘術か」
シド「はぁはぁ」
魔装の宿主「だが、たかが神々の力と
我の力を、同義で図る事は
我にとっては屈辱だと知れ」
シド「な、禁術が!」
魔装の宿主が魔力を込めた右脚で
地面を蹴りつけると
魔方陣が砕け散り鎖が消えてしまう
魔装の宿主「貴様の存在を
この世界から消してくれる」
そういうと魔装の宿主は大きく
息を吸い込むと口からシド目がけて
黒い閃光を吐き出した
シド「く、ぐわぁああああ」
何とか閃光を回避しようとするが
辺り一帯と一緒に裏門の方向に
吹き飛ばされてしまうシド
シドを瓦礫の中から持ち上げると
左腕が千切れているが
まだ息がある事を確認する
魔装の宿主「哀しいものだな、
中途半端に強いと楽に死ぬ事もできない」
ファリネリア「駄目!!!辞めて」
シドを掴んでいたが投げ棄て、苦しみだす
魔装の宿主「!!!馬鹿な、何故まだ
意識が残っている!邪魔をするな!」
消えたはずの、意識が、現れ困惑する
魔装の宿主「!!そうか、この場所は!」
魔装の宿主が立っていた場所は
かつてファリネリアが王城を抜け出し
シド達と過ごしていた
彼女にとっては
かけがえのない唯一の安らぎの場所だった
シド「フ、ファリネリア?」
ファリネリア「シド、お願い、殺して」
自分を殺してくれと懇願するファリネリア
シド「俺は、そんな事の為に
力を手に入れたんじゃない!」
ファリネリア「お、お願い、もう
自分でも止められないの」
シド「諦めるな!」
ファリネリア「えへへ、シド
私頑張ったんだよ、
本当に・・・・本当に・・・・
本当に・・・・頑張ったんだけどね
目の前が全部壊れちゃったの
だから、ね」
もうこれ以上シドは彼女の声を
聞きたくなかった
10年の歳月の間、自分が苦悩した時
挫折しようとした時、
あれ程、聞きたかった声を
シド「君を1人にはさせない
君が死を望むなら、俺も死のう
永遠を生きるなら共に歩こう
例え望まぬ形になろうとも」
ファリネリア「大好きよシド」
シド「・・・・ファリネリア」
シドは決意したかのように
禁術の詠唱を始めた
シド「運命の
御心を持ちて、我の願い叶えたまえ
我が肉、魂、存在、全てを賭してここに
命じる、はぁ!!!」
シドは自分の右手で自分の心臓をえぐりだす
シド「ゴホッ、不条理の彼方へ、
我らを導き給え、
ファリネリアの左胸を
自身の心臓を持ったシドの右手が貫く
太陽が沈む、黄昏時
海から運ばれてきた
汐風が2人の頬から涙を
バラモンの鎧はファリネリアの身体に
一部を残し、意思はシドの中に封印された
ファリネリア「・・・・トクン、トクン」
シド「ファリネリア」
ファリネリア「あー、あーあー
あぅー?まー?あぅー?へくしゅ!」
そこにいたのは姿形は同じでも
ファリネリアであって
ファリネリアではないもの
シド「少し風が吹いて来ましたね、
さぁ帰りましょうか」
こうして彼は自身の全てと引き換えに
ファリネリアの存在の一部だけを
取り戻したのであった
後々、彼ら二人で、断崖の向こうに
広がる碧い海へと旅立つのだが
奇しくも幼き日に交わした約束が
数十年を経て果たされたのだった
完
次回予告
名も知らぬ花々、丁(エピローグ)
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