苦しいなら手ぇだせや。 仕方ねぇから助けてやるわ。

nisekoi

第1話僕の死を見て何かが笑う

生への執着が僕を動かした。


ただ、それだけのこと。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・)



それからの僕の頭は冴えていた。

親父が眠るのを待つため、僕は初めて夜更かしをした。

夜の景色は闇に沈み、不透明な青い夜色に染まった今、計画を実行に移す。


親父が眠る。

親父が大好きなビール瓶を手に取る。

振りかぶる。

親父の頭に向かって一直線に振り落とす。

瓶が割れる。

親父が呻く。

最後に、錆びきった包丁で親父の首をかききった。

血しぶきが僕の着ている中学校の制服や、隣で寝ている母親の布団に付着する。

(・・・・・・・・・・・・)

あれ?

なんで僕は今、ベランダに立ってるんだ?

夜の冷たい風に打たれ身を震わせてベランダに立つ。

街灯の明かりも目に入らない程に闇がかる外。

何故かそこに引き込まれてしまう自分がいる。

マンションの五階。

人間が飛び降りて生を保てる高さではないのは重々承知だ。

でも、吸い込まれる。

嫌でも逆らえない。

なんだコレ?

生への執着どこいった?

····まるで自分の体の自由が利かない。

気付けば僕はあっという間にベランダにある柵から身を乗り出していた。

のだが······。

おかしい。

全くもって恐怖が湧かない。

この状況を怖いと言わずして何を怖いと言うのだろう。

少なくとも自分はこの状況が非常に危険で死という言葉に限りなく近いことは分かっている。

でも体は······逆らえない。

恐怖を理解しても感じることはできない。

正に、死が運命であるかのように。


先程生きる為の最善を尽くした僕に間髪入れずに死を突き付ける何か。

だが、その疑問に辿り着ける程僕に時間など残されていなかった。


····今、柵の上に立った。

冷たかった風が少し心地よく感じる。


········うん?

今の自分の目の前の場所にあるこのマンションの五階とほぼ同じ高さに屋上が位置するビル。

そのビルの屋上に誰か居た、それは何故かこちらを見ている。

表情は気味悪く笑っている様に見える。


そして、それを切り目に僕は闇の中に身を投げた。



死神曰く、死ぬ瞬間の人間は言葉では形容しきれない程に美しい。

死神曰く、僕にはそれが当てはまらない。

死神曰く、そんな奴は人の死に触れて学べ、美しく死ねるように。

死神曰く、死を学ぶには死神に。

死神曰く、喜んでお前を弟子にしてやる、その代わり、必ず美しき死に際を私に見せろ。いや、魅せろ。死しても尚、死にきれなかった者よ。


······なのだそうだ。

僕はもう、暗闇の中で死神名乗る男にこんなことを言われ、首を傾げることしかできなかった。

















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苦しいなら手ぇだせや。 仕方ねぇから助けてやるわ。 nisekoi @nisekoi912

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