第11話 昔と今とそれからと
「へー、部員四人になったんだ、早いねー」
部員が増えたことを鎌谷先生に報告するため俺は職員室に来ていた。
「まあ、一応は集まりましたね」
オタク、オタク志望、オトコの娘、監視役というアンバランスなパーティですけども。
「そうだね、これなら部としても認められるんじゃないかな多分」
鎌谷先生はいつもと同じく呑気な様子。
一周回って強キャラ感出てるよ、先生。
ほらカカ〇先生みたいに。
そろそろ雷切教えてくれます?
「だといいですけど...失礼します」
俺は職員室を出て、そのまま部室に向かう。
昨日の桜姉の入部によって部が成立したことを皆に伝えなければならない。
俺はその気持ちに駆られ走り出した!...というのはまずいので、早歩きをした。廊下だからね、危ないから。
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ドアに手を掛け、開ける。
ガラガラ
「あ、幸也!」
「幸也君!」
篠沢と桜姉がすぐさま反応する。
篠沢はリスが仲間を見つけたみたいに。
桜姉は虎が餌を見つけたみたいに。
...なんでこうも違うのでしょう。
しかし何故か違和感。
俺はその違和感の正体にすぐに気付く。
いつもの減らず口を叩いて俺を迎えるビッチがいない。
「あれ?閑崎は?」
俺は不思議に思い、二人に尋ねる。
「閑崎さんならまだ来てないね」
答えたのは篠沢だ。
珍しい。いつもの閑崎なら真っ先に部室に入って俺達を待ち構え、遅いと文句を垂れるのに。
「どうしたんだろうね、閑崎さん」
「カンパニさんならどこかで遊んでいるんじゃないかしら、私たちを忘れて」
桜姉が毒気のある言葉を連ねる。
だからカンパニじゃなくて閑崎だって。
いやしかし、それはないはずだ。
あいつは誰よりもこの部を愛している。
それは俺が一番知っているはずだ。
「俺、探してくるわ」
俺は部屋を出ていこうとする。
「意外ね」
そう言ったのは桜姉。
「昔の幸也君なら放っておく場面なのに。それに大袈裟よ、きっと何事も無く終わるのがオチだと思うのだけれど」
今日の桜姉はやけに冷たい。
しかし、ああ確かにそうだ。
今までの俺なら無視していただろう。
しかし今は違う。
閑崎が理由もなく部に来ないはずがない。
例え取り越し苦労だったとしても、俺には
じっと待つことはできない。
あいつの良さを少し知ってしまったから。
「行ってくる、それと桜姉」
「なにかしら幸也君」
「俺は俺だ、昔の俺じゃない」
俺はそう言って部屋を出た。
********************
「...幸也君...っ!やっぱりあなたは...素敵だわ...っ!」
桜羽が恍惚の表情を浮かべる。
「...先輩、その顔、怖いですよぅ...」
篠沢は涙目で震えていた。
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「とは言ってもどこを探そうかね」
この原賀濱高校はやけに広い。
てかまず閑崎が帰っている可能性も無くはない、てか大いにありえる。
「...あんな啖呵切って戻るのもなぁ」
俺はとりあえず自分の教室に向かった。
そこが一番学校内で閑崎がいる可能性がある場所だ。
********************
教室に着く。
俺はドアを開けようと手を掛けた。
「だからさー、せーらー、話してくれないとわかんないってー」
教室の中から女子の声がする。
「だから、その、淀木君とかと、部活を...」
この声は閑崎だ。怯えているのがその声色から伺える。
「えー!?あの淀木とー?へー、せーらそんな趣味あったんだー」
「そ、そうじゃないよ...ただ友達になりたいってことで...」
「そんでウチらとの付き合いはほったらかすんだー、傷ついたわー」
「ご、ごめんなさい...」
「じゃ、とりあえず二万」
「え...?」
「あんたん家金持ちでしょー、二万払えば友達続けてあげるよ」
「.....」
「ほら早くしなよ...可愛いからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「.....っ!」
閑崎はポケットから財布を出す。
そして一万円札取り出す。
「これで許してくれる...なら...」
そして閑崎はそれを女子に...
「はい、ストップ」
その二人の空間に割って入ったのはもちろん俺。
ここは〇塚さんボイスで「待たせたな」と言いたくなるが我慢しよう。
「はあ?淀木じゃん、なんの用?」
「いや、お前に用はないから」
俺は閑崎の手に握られた一万円札を閑崎のポケットに入れる。
「金で繋がる奴なんて友達じゃないぜ」
「.....なんでよ、ほっといてよ。私の問題なんだから、淀木君には関係な...」
「関係あるね、お前は俺の部の部員だ。部員が問題起こすとか面倒なんだよ」
俺は頭の悪そうな女子に向き直る。
「悪いけど、閑崎はウチの部の一員だ。閑崎との縁を切りたきゃ勝手に切れ、だろ?閑崎」
閑崎は怯えながらもしっかりした目で言った。
「...愛華、私今めちゃくちゃ楽しいんだ。だからその、付き合いとか少なくなっちゃうかもだから、それは愛華に任せるよ...」
「...へー、せーらそんなことしていいんだ」
頭の悪そ...愛華と呼ばれた女子はそれだけ言い残して教室から出ていった。
その瞬間、俺はへなへなと地面に座り込む。
「めっちゃ怖かったぁ...」
下手なホラゲより怖いぞあの女子。
お化け屋敷の幽霊役が天職なのでは?
「淀木君...その」
「ん?」
「あ、ありがとう」
「別に、カッコつけたかったからだよ」
俺は産まれたての小鹿のようにプルプル震えながら立ち上がる。
「さ、いくぞ閑崎」
「...うんっ」
俺達の部活はまだ始まったばかりだ。
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