第9話 先輩登場、幼馴染登場
原賀濱高校。
(皆、忘れてない?俺達が通ってる学校だよ)
この高校には厳しい校則は存在しない。
携帯電話の所持も許されているし、髪型も染める以外は自由である。
むしろ高校生で銀髪、金髪なんぞに染めてる奴とかいるのだろうか。
...もちろん中学生の時は憧れたよ?だってかっこいいじゃないスーパーサイ〇人。
今俺はそのユルユルの校則を逆手にとり、鞄いっぱいに円盤やらコミックやらを詰め込んでいた。
これも篠沢の笑顔のためだと思うと、重い鞄を背負う肩も軽くなるってものだ。
「待ってろよー、篠沢...いや木葉!」
俺は小さく、しかし力強く呟いた。
篠沢に聞かれたら引かれ...ないな。多分笑顔で接してくれるだろう。天使だし。
その時
「幸也君っ」
後ろから女子の声。
俺はその声に聞き覚えがあった。
俺はゆっくり後ろを振り返る。
「おはよ、幸也君」
そこに居たのは黒い髪をロングに伸ばし、上級生の威厳を主に胸部から感じさせる、云わば黒髪ロング美女だった。
そして俺はこの人を知っている。
「な、なんでしょうか、先輩」
俺は敬語で、その美女に接した。
「先輩なんてやめてよ、幸也君!私とあなたはもはやそんな関係ではないでしょう!?」
それに対して美女はこの反応。
痛い痛い痛い。周りの目が痛い。
「...桜姉、謝るから静かにしてよぅ」
「幸也君が昔みたいに呼んでくれた...!」
美女の顔が赤らんで、笑みを浮かべた。
美女美女うるさいよな。すまん。
そろそろ名前も気になってくるだろうから紹介しておく。
この美女は冴浪桜羽(さえなみおうは)。
俺の先輩で、幼馴染。
「幸也君、一緒に学校行こ?」
「分かったよ...」
その日の登校は人生で最も注目を集めた。
********************
「はい、これが例のブツだ」
俺は鞄から次々にオタクグッズを取り出す。
ここは「日本文化研究会」の部室。
まあ実際はオタクとオタク志望の集まりなんだが。まさに烏合の衆。
しかしそんな烏の中の白鳥。
それがこの篠沢である。
「ありがとう、幸也!大事に見るよ!」
受け取った時の篠沢の表情と言ったらもう。
たまらんですわぁ。
「淀木君、顔気持ち悪いわよ」
閑崎が俺をジト目で見てくる。
なんだよ、ヤキモチ妬いてるのか?
仕方ないなー、構ってやるかー。
あほか。
誰がこんなビッチを構うか。
いや構わない(反語)
「うるせえ、篠沢の笑顔は世界を救うんだ」
「えっと、僕の笑顔がどうかしたの?」
篠沢が俺を見て首を傾げ、キョトンとした顔をした。
俺は咄嗟にごまかす。
「あ、ああ!何でもないぞ!それと漫画とDVDを返すのはいつでもいいからな」
「はぁ!?私の時は一日で二冊読ませたくせに!」
「お前と一緒の扱いをしたら篠沢が可哀想だろ、考えろよ。頭溶けたのか?」
「...童貞」
「んだと、このアマァ!?」
「ちょっと幸也、落ち着いて!」
許せん。
俺の貞操に関して馬鹿にするのは許せん。
俺は卒業できないんじゃないの。
取っておいてるの。
...ぐす。
コンコン
不意にドアを叩く音が聞こえた。
「あ、どうぞー」
閑崎が答えると、ドアは静かに開けられた。
そこに居たのは黒髪ロング美女(2度目)
「桜姉...!?」
「何、淀木君知り合い?」
桜姉もとい桜羽は部屋に静かに入ってきた。
「ここが日本文化研究会...かしら?」
「あ、はいそうですが...入部希望ですか?」
「いいえ、幸也君に用があって」
桜姉が俺に近づいてきた。
「幸也君、これはどういうことかしら?」
桜姉の冷たい声が響く。
「女の子二人にかまけるなんて...私は幸也君をそんな子に育てた覚えはないわ!」
育てられた覚えもないのですがそれは。
俺はとりあえず誤解を解こうと弁解する。
「あーっと、あっちの茶髪は女子だけど、この子は男なんだよ。つまり2対1でこの部は男が多い訳で...」
「嘘をついてまで女子とイチャつきたいわけね...分かったわ」
桜姉がさらに近づいてきた。
まずいッ...!やられる...ッ!
ガバッ
突如、俺を暖かい何かが包み込む。
しかも柔らかい。めっちゃいい匂い。
「そんな悪い子はこうよ!」
顔の上辺りから桜姉の声が聞こえる。
なるほど、桜姉のハグ攻撃らしい。
胸が顔に当たっている。
わーい。柔らかいなー...痛い痛い痛い結構痛いな!?しかも埋もれて息ができない!
「ごめんて桜姉!息ができないから!胸の中で窒息死とかある意味本望だけど!」
「反省した?!」
「したから!したから!」
桜姉のベアーハッグが解除される。
俺は乱れた呼吸を整える。
篠沢を見ると、顔を赤らめながら手で顔を覆っていた。
閑崎を見ると、ゴミを見るような目をしていた。
やめて、淀木君のライフはほぼ0よ。
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