第8話 メール相手の数は知られたくない

「えっと木葉ちゃ...君、よろしくね!私は閑崎世羅」


閑崎が手を前に差し出す。

いま、木葉ちゃんって言いそうになっただろ。

全く...木葉ちゃんか、悪くない。


「あ、あの、よろしくお願いします...」


篠沢はおずおずと右手を差し出す。

閑崎の『見た目美少女』の能力が発動しているらしい。篠沢の顔が朱に染まる。

閑崎の本性を知ればそんな反応は二度とできないだろう。ソースは俺。


「それで幸也、さっきの話なんだけど」


俺は篠沢に下の名前を呼ばれる快感を噛み締めつつ答える。


「ああ、分かってる」


俺はどんと胸を張った。


「篠沢が戦国武将を知り尽くすためのブツを持ってきてやる。楽しみにしておけ」


篠沢は顔をパァっと明るくして


「ありがとう幸也!君に会えて良かったよ!」


と言った。


うん、篠沢付き合おう。男でも関係ない。


********************


その後、夜七時になるまで俺と閑崎、そして篠沢も部室で新たな部員を待ち続けた。

篠沢に関して言えば、一緒に待つ必要なんてないのに。なんだ、天使か。


「そろそろ下校時間だな、帰るか」


俺は鞄に小説を入れて、立ち上がる。


「あ、そうだ幸也」


篠沢がポケットから携帯を取り出した。


「メール交換しない?」


篠沢がはにかみながら言った。

その表情がめちゃくちゃ可愛い。

メール交換した後で100万円の請求メールが来ても払っちゃうレベル。


「お、おう。ちょっと待て」


俺は鞄からスマホを出す。


「はい、これが俺のメルアド」


俺はスマホを篠沢に手渡す。


「ありがとう、ちょっと借りるね」


篠沢は自分と俺の携帯を交互に見ながら、メルアドを打ち込んでいる。

そんな俺達を睨む奴が一人。


「なんだ、閑崎」

「...私も...メール交換したい...ん!」

閑崎は自分のスマホを俺の腹に押し付けてくる。

「分かった、分かったから」


「はい、幸也終わったよ」


篠沢からスマホが戻ってくる。

俺はそれを閑崎に手渡した。


「ほらよ」


「あ、ありがと...って淀木君のメール相手少なっ!」


「だまれ、ビッチ」


確かに俺のメール相手は母親、父親と...そしてもう一人いるが黙秘するとして...今追加した篠沢だけだが!

別にメール相手なんていらないだろう。

そもそも学校で会えるやつとメール交換するメリットが考えられない。

いや、篠沢とのメールはきっと楽しいから例外だ。いいね?


「文句言うなら返せ!」


「ごめんごめん」


閑崎は手馴れた手つきで俺のメルアドを打ち込む。その間わずか5秒。恐ろしく早いタイプ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「これで満足か」


俺が閑崎からスマホを受け取り、そう言うと


「うんっ!」


弾ける笑顔でそう言った。

...可愛...んんっ!篠沢の方が可愛いっ!


********************


校門から出ていく淀木達を教室から見つめる者が一人。


「...幸也君、随分人気者になったものね」


落ち着きのある透き通った声。


「全く...私のことなんて忘れたのかしら...」


その少女は憂いの目でそう言った。


「...ならもう一度、思い出させてあげるわ幸也君」


憂いの目は鋭い目に変わり、その目線の先には淀木幸也がいた。


「あなたは私の...初めての人なんだから...」

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