第2話 美少女の頼み事

...俺は今、人生で初めて女の子に頼られたかもしれない。頼られるのは嬉しい。実に嬉しいのだが...


「...えっと、今なんて?」


「私をオタクにしてください!」


聞き間違いでは無かったらしい。この美少女閑崎世羅はオタクになりたいようだ。


「...いや何で?」


まぁ、一般的な男子高校生の解答だろう。

こんな美少女が世俗を捨てて二次元に悟りを開くことなんて聞いたことがない。


考えられる選択肢

一 罰ゲームで俺と話している。

二 本気でオタクになりたい。

三 ヤクでラリった。

...三だな。陽キャはヤクに手を出しかねん。


「オタクの人達とも友達になりたいから」


「...は?」


「私、色んな人と友達になりたいの!アニメとかが好きなオタクの人達とも!」


「はぁ...」


つまり閑崎はオタクと友達になりたいからオタクになりたいと。

結論 頭小学生で花畑スキップか。


「だからお願いします!」


「...嫌だよ」


「なんで!?」


「オタクになりたいなら自分でアニメなりラノベなり見ればいいだろ。俺は関係ない。そもそもオタクに定義はないし、お前みたいな輩はコンテンツを乱すだけ乱すからな。どうせすぐ飽きるし」


「.......」


言ってやった。我ながら鋭い言葉だった。

一瞬の静寂。運動部の掛け声が聞こえる。


「...私が頼んでるんだから頷きなさいよ!」


うわっ、キレた。てか本性現すの早すぎだろ。もっと自制しろよ。


「私はあなた達みたいな友達のいない人と友達になるっていってるの!」


「いや、別に必要ないし。逆に迷惑だし」


「わからずや!」

いや、ワードが古いな...そんな言葉では俺は動じないぞ。

「陰キャ!」

ふん、なんとでも言うがいい。何を言われようが俺は意に介さない。

「...童貞!」

よっしゃ、表出ろこのアマ


「てかなんで俺なの?」


「だってアニメとか詳しそうだから。あと友達いなさそうだから」


「誰でもいいだろ。後、友達いないの関係ないだろこのビッチ」


「今サラッと暴言吐いたわね!?」

お前が童貞ゆうからだバーカ。



「まずお前の頼みを聞いてもメリットがないだから聞く理由がない」


「私と友達になれるわ!」


「それはデメリットなんだよ、閑崎」


「なんでよ!?」


「友達ができたらアニメとかゲームとかする時間減るだろうが。オタクに必要なのは情報を共有するオタク仲間だ」


「私が情報を開示出来るくらいに知識を深めるわ!」


「あっそ、頑張って」


俺は即座に答える。断る気マンマンだ。

だって面倒臭いし。


「...じゃあ頼みを聞いてくれたらなんでも言うこと聞くわ」


うわ〜、出たよ。このパターン。ダメだよ閑崎。俺は紳士だからよかったけど、そこらのハイエナは卑猥な事しか頭に無いよ。


「いや、いいよ別に」


「私の家は金持ちよ!」


「何の自慢だよ...」


「淀木君が欲しいもの、買ってあげるわ!」


「...何でも?」


「えぇ、なんでもよ!」


閑崎はフンスと鼻を鳴らす。

...確か今季の覇権争ってるアニメの円盤、金足りないから諦めてたっけか...

仕方ない。


「...はぁ...面倒臭いけどその条件は見逃せないな。今金欠だし。分かったよ...」

あー仕方ないなー、不本意だけどなー。


「ほんとに!?」


「その代わり、徹底的にお前をオタクに仕立て上げるからな。覚悟しろよ」


「えぇ、もちろん!」


閑崎は目をキラキラさせている。俺に顔を近づけて。ちょっとドキッとしたのは内緒だ。


********************


俺と閑崎はとりあえず元の教室に戻った。教室には誰もいなかった。

俺は鞄の中から本を取り出す。

ドンッと机に3冊、本が積まれた。


「これは?」


閑崎がキョトンとした顔で尋ねる。


「俺がいつも持ち歩いてる、ラノベ最高傑作3作品の第一巻の3冊だ」


「貸してくれるの!?」


「まあな」


「ありがとう!返すのは一週間後に...」


「何言ってんだ、明日までだろ」


「...え、この3冊を!?」


「お前が本気なら読めるはずだ。否、本気で読め」


「明日までの宿題あるの知ってるわよね?」


「関係ないな」


「淀木君ってドS?需要のないドS?」


「黙れマゾビッチ」

おっといけない。本音が。最近本音が漏れてしまう癖がついてしまって仕方がない。


結果、2冊で許容することになった。

俺、優しすぎる。


その日の夜は少し興奮して眠れなかった。

...別に閑崎が可愛いかったからじゃねぇし。嫁のこと考えてただけだし。


********************


その次の日、教室に入るやいなや閑崎が話しかけてきた。


「ねぇねぇ!この2冊なんなの!?」


「何って小説だろ」


「面白すぎるわ!展開は熱いしヒロインは可愛いし!小説がこんなに面白いなんて!」


とりあえず、お気に召したらしい。しかしだな閑崎。


「周りの目が痛いから後にしようか閑崎」


女子からの奇異の目と男子からの嫉妬の目が俺を貫いていた。

こんなに注目されたの初めてだな、ウレシイナー、ホントニ。

放課後(授業風景は割愛)


「この続きってあるの?!」


閑崎の熱は収まらないらしく、まだ興奮したように俺に話しかけてきた。


「まぁあるけど...」


「早く続き読みたい!」


「ちなみにその2冊はアニメ化もしてる有名作品だからな」


「ほんとに!?アニメも見たい!」


まるで生まれたばかりの雛鳥のように色々興味を示す閑崎。


「アニメなら俺の家にもDVDあるから貸そうか?明日持ってくるよ」


「いいえ。それよりも良い案を思いついたわ淀木君!間違いないわ!」


「...なんだ?」


なんか嫌な予感。


「今度の日曜、あなたの家に行くわ!私にあなたの全てを見せて!」


...今なんて?あと勘違いされるような言い方はやめような閑崎。


「...童貞はやらんぞ...?」


「いらないわよ!汚らしい!」


汚くないもん、綺麗だもん。


結局、了承という形で落ち着いた。

...部屋、掃除するか...

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