第2話
というのが、我が家のルーツです」
池辺先輩は、そう言うと、真面目な顔で話を終え、手元のお茶をずずず、と飲み干した。
「……はあ、河童、ですか」
先輩が単なる民話を話しているのだと思い、のんびりと聞いていた私は、その突拍子もない締めの言葉に動揺を隠せなかった。これを面白いジョークだと思って、笑い飛ばせばいいのか。それとも先輩への認識を「優しい図書委員長」から「危険な人」だと改めて、今後一切の関わりを持たないように、ここは大人な対応で軽く受け流すのか。
いくら考えても、当然、すぐに結論は出ない。仕方ないので、とりあえず心を落ち着かせるため、湯飲みのお茶を一口飲もうとして、
「だから、僕と付き合うならば、天華くんも覚悟を決めて河童一族の仲間入りをしなければならないんです」
先輩が続けて言った言葉を聞き、思いっきり噴き出した。
このペースに引きずられてはいけない。あくまでも冷静に。自分にそう言い聞かせながら、濡れた口元をぐいっとハンカチで拭うと、私は居住まいを正し、先輩に向き直る。
「それは、どういう意味ですか?」
もしかしたら私の聞き間違いかもしれない。
「だから、君も河童一族としてですね」
「って、どうしてそこで私と先輩が付き合うとかいう話になるんですかっ!」
思わず声が大きくなる。ああ、この先輩相手に、冷静に、なんて土台無理な話だ。
「僕が君のことを好きだからですよ」
何をいまさら当然のことを。そういった風情で、にこり。先輩は私が目を逸らしたくなるほどに眩しい笑顔で答えた。そのあまりの屈託のなさに、こちらが赤面してしまう。
「あの、だから、それは、どういう」
「君も僕のこと嫌いじゃないでしょう?」
確かに嫌いではないけれど。でも、嫌いじゃないイコール好きという方程式は、この場合、成り立たないように思うんだけど。
「というわけでよろしく、天華くん」
先輩は右手を広げ、私の方に差し出した
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