第42話 職業 ファラオ

タイトルはとある有名人のパスポートに記載されている職業欄である。

その正体は古代エジプトのファラオでエジプトに繁栄をもたらしたラムセス二世である。

パスポートが発行されたのは20世紀後半、彼のミイラが劣化防止の処理と調査の為にフランスへ渡航する事になった際に政府が生きているエジプト人扱いにした為である。いかにラムセス二世に対してエジプト人が敬意を表しているかが分かるエピソードであるが、どのぐらい凄いのかピンとくる人は中々いない。古代エジプトと言うとどうしてもツタンカーメンに目が行きがちなところがある。

と言うわけで今回は、ラムセス二世についての物語である。

ラムセス2世が誕生したのは紀元前1229年あるいは1224年であると言われている。古代エジプトで言うと新王国時代、第19王朝の頃である。ツタンカーメンで有名な第18王朝の最後の王である、ホムエルヘブが自分の部下であったラムセス1世を指名した事で開かれた王朝で古代エジプトで最盛期を迎えた王朝である。

ラムセス2世は初めは父親のセティ1世と共同統治でエジプトを治めていたが、父が亡くなると改めてファラオとして即位した。だいたい24歳ぐらいのことである。そこから彼の手腕が発揮されることとなる。

勢力拡大を狙い、エジプトを出て中東へ遠征を行った。当時の中東にはエジプトでは作れない製鉄技術が発達しており、その中でも特にヒッタイトが強い勢力を伸ばしており、支配力を強めようとするエジプト軍と衝突することとなった。これがカデシュの戦いと呼ばれるものである。

この戦いはエジプト側にしっかりと史料が残されている。

エジプト軍はプタハ、セム、アメン、ラーと言う神々の名をつけた四軍を主力部隊とし、そのうちアメンをファラオ自らが率いていた。この時、既にヒッタイトからのスパイを捕らえ、彼らがカデシュより遠いアレッポに駐屯しているらしいという情報を得て頭ラムセス2世は自らアメン軍を率い、防備の薄いカデシュに赴いた。この為、アメン軍団と他の軍団との間で戦線が延びきっている状況になった。そこへ、ヒッタイト軍は2500両の戦車を使って奇襲を仕掛けてきた。実はアレッポに駐屯していると言う偽の情報を流し、戦線を間延びさせることで全滅に追いやると言う作戦であった。奇襲を受け、後方に待機させたラー軍団は全滅、勢いそのままにアメン軍団に襲いかかってきた。と、ここでラムセス2世は驚くべき行動に出る。なんと単騎で突撃を敢行する無謀な賭けに出た。敵の射手を弓で居抜き、騎手を自らの剣で切り捨てた。身長は180cmと言う長身、自分しか引くことのできない弓を持っていたと言われているから武勇も相当優れていたようである。そうして自らが時間稼ぎをすることで後続軍がやって来るまで時間稼ぎを果たしたのである。まさかファラオ自らが囮となるとは誰も想像つかないことである。時間を稼いだことで後続の軍団がヒッタイト軍に攻め寄せたことで夕方までにはヒッタイト軍は撤退を始めた。その後、戦線が膠着した為にヒッタイト側から休戦の要求があったのでラムセス2世はこれを承諾したと言う。

以上がエジプト側の記録なのだが、かなり誇張されているように思われる。まず、ファラオが単騎で突撃を敢行すると言うこと自体にかなり無理がある。2500輌の戦車を相手にして勝てるはずがないし、ファラオが最前線で自らを危険に晒すとは思えない。これはラムセス2世による誇張だと言うのが定説となっている。

ちなみにヒッタイト側の史料では、奇襲を受けてエジプト軍は撤退したとなっているのでヒッタイト側が勝ったと言う事になっていて、双方の史料で食い違いが見られる。

このことからエジプト側もヒッタイト側も、大きな犠牲を払い、痛み分けに終わったと言うことらしい。結果、双方で世界初と言われる平和条約が結ばれる事になった。そのほか、彼はヌビアにも遠征している。こちらの方は占領することが出来た。これが後世、ヌビア王朝の誕生の遠因につながる事になる。最終的に彼はエジプト史において最大版図まで拡大させた。まさに戦争によって彼はエジプトに繁栄をもたらしたのである。

もう一つ、彼がエジプトで敬意を持たれている事は内政である。

24歳ほどで即位して以降、在位60年間というエジプト史上2番目に長くファラオをとしてエジプトを治めた。その間、エジプトでは特に大きな混乱というものはなかった。それらはひとえに彼自身が神の代行者のファラオとしてエジプトを治める事ができていたという事を表わしている。だからこそ、数多くの神殿を築き、権勢を振るう事ができたのである。そんなわけでラムセス2世は今でもエジプト人の心の支えとなっているのである。

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