第38話 虎殺しの男
打虎将 李忠
文字面を見ると、いかにも強そうな男の名である。彼は梁山泊百八星、地僻星の生まれ変わりなのである。
打虎将とはタイトル通り、虎殺しという意味である。
虎を殺すというのは好漢にとって一種のステータスのようなもので『水滸伝』の中でも虎を殺すという場面は度々出てくる。
中でも武松の虎殺しというのが最も有名で酒に酔ったまま人食い虎を殺すという武松の強さを表すエピソードである。
では、李忠はどうか?
虎殺しというのは名ばかりではないかという具合に良いところがほとんど無い。彼が初登場したのは自分の師匠である王進を探しにやってきた史進と出会ったところからである。
実は、王進に習うまで史進は様々な武芸の達人から手ほどきを受けていたのだが、才能ある彼を高める人物は誰一人現れなかった。
李忠もその一人であるらしい。そこで魯智深と名を改める前の魯達と出会い、酒場へ向かった李忠と史進。そこへ一人の娘を金をやって助けて欲しいと翁に頼まれる。皆でカンパする事になったのだが、李忠だけ出す金額が二人と比べて少なかった。魯達は呆れる。
その後、商人をふとしたはずみで殺してしまった魯達と共にいたと役所から目をつけられたので李忠は逃亡を図って退場した。が、なんの因果か剃髪して魯智深と名を改めた魯達と再会することに。逃げた先の桃花山にいた山賊、小覇王 周通に勝ってしまった為、山賊に身をやつし、旧家の娘を自分の妻にしようと毎日旧家に通っていた。ある時、話を聞いて娘に化けた魯智深に周通共々コテンパンにされてしまう。仕方なく二人は娘を諦めたが、逆に魯智深を山塞に迎え入れようとした。
しかし、ケチな李忠が気に入らない魯智深さ宴会を終えた後、そのままトンズラしてしまったのである。
「あいつは恩知らずだ」と二人は喚いたが、もう遅い。というか、自業自得だろ。
その後、しばらく李忠自体は登場しない。かわりに武松の虎退治で打虎将というあだ名を引き合いに出され、「名前負けしてるよな」と公式に非難される羽目に。
一体、李忠が何をしたというのだろう。ここまで文句を言われるいわれはない。
その後、呼延灼の名馬を盗むという役所で三度登場。周通共々、名馬を盗んで宴会騒ぎになるが、案の定、しっぺ返しを食う。
呼延灼率いる討伐軍に散々打ち破られることになる。
呼延灼に敵わないと見た李忠は二竜山の頭目となっていた魯智深に援軍を願い出る。散々酷い目にあわされたのに来るか、と周通は言ったが、義理と情を重んずる魯智深なら来ると李忠は言う。その通りに魯智深は援軍としてやって来た。人を見る目はそれなりにあるようである。その後、梁山泊軍が青州を攻めた事で李忠はそのまま梁山泊に身を寄せることになった。
ここで、李忠の主だった出番は終わる。ここまでまだ五十数話、物語も折り返し地点だと言うのにもう出番がなくなってしまった。
一応、遼軍との戦いで石投げの天才、張清の投げた石で落馬した副将を漁夫の利で打ち取ると言う場面はあるが、この話、百回本には収録されていない。
なので、方臘との戦いで斥候に出た際、史進らと共に矢を放たれ死んでしまうまで殆ど出番がない。
僻むという字が暗示されるようにケチで僻みな男として李忠は描かれている。
が、2011年に制作された『水滸伝〜All member is brothers〜』ではかっこいい李忠が見ることができる。
全体を通して原典のアレンジが多い本作の中でも李忠が梁山泊に合流することになる青州攻めは大胆なアレンジされている。
呼延灼と交友があった後で桃花山を攻められる設定になっている他、敵わぬと知っていながらも周通を逃がす時間稼ぎの為、呼延灼に挑む姿勢など原典にはない李忠の格好良さが見られている。
史進や樊瑞の合流が何故かすっ飛ばされていきなり合流しているなど脚本にはやや不満はあるものの、この青州攻めのアレンジはなかなか良いと個人的に思う。
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