第30話 戦国最強のペテン師
戦国時代の、遊説家の一人に張儀という男がいる。合従策を立てた蘇秦とは同門だが、彼は秦に仕え、合従策を崩す連衡策というものを行った戦国時代の最強のペテン師である。
合従とは秦に対抗する為、他の六カ国の同盟であるが、連衡はその逆、つまり秦一国が他国と同盟を結ぶ事で合従を封じる外交作戦である。
張儀は若い頃から遊説していたが、なかなか受け入れてもらえなかった。ある時、楚での遊説に失敗し、王の命令でボコボコにされてしまった。
ボロボロになりながらも家に帰ってくると妻を見るなり、「舌、まだ付いてる?」と言った。
「ええ、ついてますよ」と答えると、「ならそれでいい」と言った。
どこがいいのか、そんなにボロボロにされてとは思うが、彼は乱世を口先で生きようとしていたようである。その後、同門の蘇秦の力で趙に仕えることになったのだが、彼に侮辱された事で敵国の秦に仕えることにした。張儀は殊の外蘇秦を恨んだが、実は趙が燕との同盟を図る上で背後の秦に攻め込まれないようにする為の作戦であった事を知ると、「あいつが生きている間は合従は崩さないようにしよう」とへりくだった。
蘇秦が死ぬと張儀は彼の合従策を崩すことにした。はじめに魏を撃ち、斉と魏の同盟を破棄し、魏と秦の同盟にこぎつけた。次にかつて自分を辱めた楚に復讐をすることにした。
「六百里四方を割譲するから斉との同盟を破棄してくれない?」と王に願い出た。
戦わずして土地が手に入るならと快く受け入れた楚王は斉との同盟を破棄、将軍を遣わして領土の受け取りに向かった。ところが、張儀は「六里四方を割譲します」と言い出した。
約束が違うぞ、と将軍は文句を言ったが張儀はとぼけたふりをする。
まんまとペテンにかけられた楚王は秦に攻め込んだが、大敗した。その後の交渉で秦は土地の割譲を受けいれたのだが、「土地なんかいらん、張儀をよこせ」と張儀の身柄を要求。なんと殺すつもりであった。
しかし、張儀はちゃんと作戦を考えていた。
王の寵愛を受ける姫に「秦は張儀の命を救う為に財宝と美人を差し出すそうな。そうなったらあなたはどうなるでしょうね?」と人を通して不安を煽った。姫は王に取り入り、張儀の身柄を釈放するようにお願いした。
土地だけでなく、自分の身を失わずに楚を屈服させた張儀が勝利した。
が、仕えていた秦王が亡くなると張儀は「作戦がある」と言って魏に亡命した。太子に殊の外憎まれており、誅殺を恐れた為である。最後の最後までペテン師らしく生きた張儀は魏の宰相となって一年後に没した。
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