第18話 齢六十にしてなお盛ん

戦国時代末期を舞台に始皇帝の天下統一を描く歴史漫画『キングダム』。

登場人物の多くはモデルとなった人物はいるが、資料に乏しい為に性格はほぼオリジナルの物になっている。

例えば、剛将として描かれている蒙武は司馬遷の『史記』の中では始皇帝本紀、あるいは彼の息子の蒙恬や王翦の列伝の中で活躍が語られるのみとなっている。

それは主人公の信も例外ではない。

モデルとなったのは李信には個別の列伝はなく、本紀や列伝の僅かな記載だけでその活躍が語られているのである。

しかし、その中で列伝に名を残す偉大な人物も少なくない。

その1人が廉頗である。

藺相如と交わした刎頸の交わりは今なお、故事成語として残っている。

作中では、趙の将軍として藺相如、趙奢と共に三大天として活躍したものの、時の趙王との不仲から魏に降り、侵攻した秦と直接対峙した。その後は魏から楚へと降って現在に至る。

既に老練な身でありながら大型の矛を用い、敵を切り捨てるさまはまさに「老いてなお盛んになるべし」の面目躍如といったところか。

そう言えば、『三国志〜Three Kingdoms』で長沙に攻め入った関羽が老将の黄忠の一騎打ちの前に老体の身を案じ、下がれと言った際、それを聞いた黄忠が

「貴様も聞いているはず。廉頗は齢六十にして盛んだった」と言うセリフがある。

四百年以上前の話が引き継がれているところを見ると、年老いてなお勇猛さを持ち合わせていた廉頗を感じる事が出来る。

ネタバレになってしまうのだが、この後、彼は趙の地を踏む事なく楚で亡くなる。

それでもなお、彼はいつも趙の将として軍を率い戦う事を夢見ていたと言われている。

司馬遷は彼に対する評価を直接書いてはいないものの、刎頸の交わりを交わした藺相如を彼は「文武智勇の将」と評し、同時代の将、趙奢と李牧と並んで列伝を書いている。

評こそないが、司馬遷は廉頗を勇猛な将として同列に見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る