第16話 最強のライバル?

『水滸伝』という作品の中には武功こそあげないが、重要な役割を担う人が必ずいる。

例えば、裴宣。

元裁判官である彼は梁山泊に入山すると事務、人事、法、軍備の整備を全て一人で担当した。彼が加わった事で山賊集団から一種の軍事組織へと様変わりしたのである。

特別勲功を立てる事はないのだが、彼がいなければそもそも人事が行き届かない、いわゆる変えが効かない存在である。

梁山泊はこうした裏方の仕事をする好漢達は皆、スペシャリストなので一切変えが効かない。

その点、戦場で華々しく戦う好漢達はこう言ってはなんだが、変えはいくらでも聞く。

が、中には入山してから役割がほとんど変わらなかった者がいる。

一人は全身を白一色に統一した縁起の悪そうな武具を身に纏う元水銀商人の郭盛、あだ名は唐の名将、薛仁貴に勝ると自称していたので賽仁貴。

もう一人が郭盛とは逆に赤一色に統一した武具を身に纏う元薬売りの山賊、呂方、あだ名は呂布に準えて小温候。

双方は方天戟の使い手である同時に宋江の親衛として左右に仕えた。

彼等の初登場は青州で一騒ぎを起こした宋江一行が梁山泊に向かう途上、対影山近くを通った際、一騎討ちをしているシーン。

対影山は元は呂方が根城としていたのだが、そこへ同じ得物の使い手がいると聞きつけた流賊の郭盛が勝負をけしかけた事に始まる。

呂方はすぐに山を明け渡そうとしたのだが、ただ勝負に拘る郭盛は譲らず一騎討ちで負けた方が山を明け渡す事になってしまった。

呂方の視点から見れば、「同じ得物を使う俺と同じぐらいの若武者が、勝負をけしかけてきたんだけど」と完全に被害を被っている側である。

血気盛んで自信に満ちた郭盛の態度は賽仁貴という名将と比べ、自分は優っていると称するあだ名からも伝わってくる。一方の呂方はかなり控えめ。自分の姓が呂布と同じだからという理由で方天戟を獲物としたので小温候という名で呼ばれている。

そのような対照的な二人だが、腕前は同等なのか中々決着が付かず、遂には飾り物が絡まってしまった。と、ここで梁山泊きってのチート武将、小李広こと花栄が絡まった飾りを射抜いてみせる。

そこへ宋江もやってきて事情を聞き、梁山泊へ誘いそのまま二人は揃って入山、宋江の脇を白と赤の装束を身に纏う若武者が固める事になる。

常に二人一緒に登場ので個別の強さが発揮されることはなかったが、常に宋江を守る護衛隊として活躍、最後の最後までライバルとして共に付き添った。そのような関係を『水滸伝』では見られる。

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