第4話 賈詡語り

三国志で誰が好きですか、と聞かれたら僕は賈詡と言うことにしている。

この人ほど、謀略に長け、曹操と戦い、勝利しているのにも関わらず、三公の一つ、太尉となり70歳と言う天寿を全うした男を知らないからである。

乱暴な言い方だが、賈詡の前ではあの諸葛亮でさえ霞んで見えてしまう。

何故なら、賈詡の打つ手には失策らしい失策が史実でも小説でもほとんど見られない。『三国志演義』で賈詡の献策を聞き入れないと失敗というのはフラグとして有名。

人物マニアとして知られる曹操は賈詡が降伏した後は重臣として用いた。特に馬超と韓遂との仲を裂いたことや後継者問題を解決に導いたのも賈詡のお陰である。

ちなみに、曹操はかつて賈詡の策によって典韋と息子の曹昂を殺されている。

自分の身で彼の策を味わったからこそ、賈詡を重く用いたのかも知れない。

賈詡もまた降将の身である自分のことを分かっていたので有力者との交友や婚姻を控え、疑いをかけられぬように努力していた。

とは言え、日食が出た時は「あれ、賈詡のせいだ」と嫌疑をかけられ、殺されそうになった事はある。

慎ましく陰で生きながらも言いたいことはストレートにいう。

そんな賈詡が僕は好きである。

ただ、『三国志』の注釈者で俗に言う『裴注』書いた裴松之は賈詡の事を「諸悪の権化、董卓がいなくなったのに中央の戦乱を混沌にさせたのはこいつのせいだろ?」(意訳)、「何で荀彧や荀攸と同列なの?程昱や郭嘉と同列だろ」(意訳)と痛烈に批判している。

流石に中央の混沌を招いたというのは言い過ぎではあるが、たしかに賈詡は謀略家なので荀彧や荀攸タイプというよりも、程昱や郭嘉タイプなので同列に扱う方が似合いそうな気がしないでもない。

一方の陳寿は賈詡の事を「打つ手に失策はなく、その智謀は前漢の陳平に勝るとも劣らない」と評している。

陳平とは「裕福な人のふりをしていいとこの娘さんを娶る」、「兄嫁をNTR」など人としてかなり問題のある性格をしているが、呂氏の専横を終わらせ、劉氏の支配体制に戻した功労者である。

また、賈詡のように劉邦に仕えるまで様々な人間の下についてきたが、

人間的に問題ありな陳平に勝るとも劣らないと言われれば、賈詡は人間的に問題はあるが有能な人である、と陳寿が評しているような気がしてならない。

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