第17話 ブロックでモンスターなぞ楽勝です
「良介、おまけもついてきておる」
「え?」
事もなげに呟くウォルターだが、その言葉は聞き捨てならねえ。
「一体何がいるんだ?」
「なあに、ただのヒュドラだよ」
「ヒュドラ?」
待て待て。何だよ、その生物。思わずウォルターにオウム返しをしてしまったじゃないか。
「ヒュドラを知らないのかね? ヒュドラというのは巨大な蛇に頭が八つついたモンスターでね。口から火をはいたりするのだが、まあ、飛んでいたら当たらぬよ。蛇にしては足が速いのだが、所詮は地を這うモンスター故我が輩に追いつけるわけもない。それに――」
あ、何だかウォルターのスイッチを押してしまったようだな。ずっとしゃべり続けているけど何言ってるのか途中から分からなくなってきたので、放置しよう。
俺は左右を見渡し一人と一匹の様子を確かめると、ポチは唸り声をあげてじっと前方を睨みつけているし、ライラは肩を震わせるばかりだ。
「ライラ、君が人間に見つからないようにするから、安心してくれ」
ライラの肩をそっと掴み、出来る限りの優しい声色で彼女へ話しかけた。
しかし、彼女は首をプルプルと振りコウモリの翼が委縮したようにギュッと閉じてしまう。
「に、人間もそうですが、ヒュドラは……良介さん、早く逃げましょう。窪地なら安全です」
「ヒュドラ……」
「良介、ヒュドラは飛べぬから問題ない」
喋り続けていたのに俺とライラの会話をちゃんと聞いていたらしいウォルターが口を挟んでくる。
しかし、カラスよ。俺が飛べないのを忘れているだろう?
んー、人間たちの様子も気になるなあ……。
「ウォルター、どれくらいの距離にいるんだ?」
「飛んで少しのところだよ」
……まるで参考にならねえ。このクソカラス!
方向は分かったけど、近寄ってくるのかそうではないのか、それくらい見てくれよ。ただ「発見した」じゃあ困る。
仕方ない。
俺は手にタブレットを出して、ブロックをらせん階段状に高く積み上げる。
俺は木よりも高く積みあがったブロックの階段の上に登ると周囲を見渡した。
えー、どれどれ。あ、いた。
右前方に巨大な爬虫類を発見。人間の姿は俺の視力じゃあ米粒程度にしか見えないな。飛んで少しってこんなに距離があるのかよ!
うーん、巨大な爬虫類は米粒を追いかけているみたいだぞ。このまま放置していて、人間がアレに喰われたりしたら寝覚めが悪い……。
「ライラ、ヒュドラって強いのかな?」
「はい、木よりも高く、八つの首から火を噴きます。硬い鱗は剣も通しません」
とても
しかし、炎を吐くっていうから気が付かれたら終了だよな。う、ううん。
「わんわん」
いつの間にか俺のそばまでやって来たポチが尻尾をブンブン振って俺を誘う。
行くってのか、ポチ。
「ポチ、様子を見に行くだけだぞ……。俺がいいって言わない限り、絶対近寄ったらダメだからな」
「わおん」
巨大化したポチは俺の服を甘噛みすると、軽く首を振るう。それだけで俺は飛ばされてしまい、ポチの背中に着地した。
俺が背に乗った重みを感じたポチは、わおんと一声鳴くとブロックの階段を軽やかなステップで降り始める。
「ライラ、様子を見てくる。ここで待っててくれ」
「わ、分かりました」
ライラは目に涙をためて、ギュッと両手を胸の前で握りしめて俺を見送った。
俺はタブレットを出したまま大量のブロックを画面上で動かしながらヒュドラの元へと向かうことになってしまったのだった。
◆◆◆
本気のポチの駆ける速度は馬並みで、あっという間にヒュドラの姿がハッキリと確認できる距離まで接近する。
「少し様子を見よう。ポチ」
俺の言葉を理解してくれたようで、ポチは速度を落としゆっくりと歩き始めた。
近くで見てみると、ヒュドラの大きさは圧巻だな。蛇のような体をくねらせながら走り、体高はおおよそ十五メートル。八の首はそれぞれ高さが八メートルほどはある。
体色はくすんだ緑色で、鱗のサイズが大きくここからでも鱗の形が確認できるほどだ。
人間は二人いて結構距離が離れているみたいだけど、見たところ彼らとヒュドラの速度は同じくらいでお互いの体力勝負といった様相を呈している。
運の悪いことに彼らの逃げる方向は開けた視界のいい場所になっていて、ジャングルに逃げ込むことはなかなかタフだと思う。
ここは彼らを見捨てるべきだと俺の本能が訴えかけるが、理性は真逆のことを主張する。
「助けろ、良介。あいつらはこのままだと喰われるぞ」と。火を噴かなければ、まず安全に対処することができそうなんだが……。
「わんわん」
ポチが「行かないのか?」とでも言っているように元気よく吠えた。
ポチ、俺より君の方が炎に焼かれる確率が高いんだぞ。見知らぬ人間の命と君を比べることなんてできないじゃ、な、ってえええ、まだ行くって言ってない。
ビックリした俺だったが、ポチは同じところをグルグル回転して俺の指示を待っているようだった。
分かったよ。ポチ。君の命、俺に預けてくれ!
「行くぞポチ! 気が付かれないように距離を保ちつつ前に回り込もう」
「わんわん」
ポチは俺が示す方向へ寸分違わず走ってくれたので、思う通りのルートでヒュドラの前へ回り込むことができた。
注目すべきはヒュドラの口元。炎が見えた瞬間に大きく距離を取らなければ……。
一方ヒュドラはというと、俺とポチのことには気が付いているようだが、目の前の
よっし、これはチャンスだぞ!
ブロックはそのままここまで引っ張ってきているから、後は実体化させれば問題ない!
「そこの人たち、左右に全力で退避してくれ!」
俺は逃げる二人へ叫ぶと、ポチに合図を送り二人の間に割り込むように一気に距離を詰めた。
次の瞬間、俺とヒュドラの間にブロックの壁ができ、奴が方向転換をする隙も与えず四方をブロックの壁で取り囲む。
「捕獲完了!」
ガッツポーズをして成功を喜ぶ俺へポチが雄たけびをあげて応じる。
ヒュドラは壁を壊そうとアタックを繰り返しているようだが、ブロックはビクともしない。
実はブロックの耐久性を調査済みなのだ。高さ二百メートルから落としてもヒビ一つ入らなかったからな。ブロックはこれだけ巨大な生物の攻撃でも接合部でさえ微塵も動く様子は無かった。
「なんとかなったな……」
俺は大きく息を吸い込み、はああと息を吐く。
その時、後ろから声がかかり振り向くと、二人の人間の姿が目に入った。
「ありがとうよ、助かったぜ」
「ちょっと、ガイア、大魔法使い様へなんて態度を取るんですか!」
あ、人間を助けに来ていたんだった。うまくいった喜びでそもそもの目的を忘れるところだったよ……。
最初に俺へ声をかけてきたのは、髭もじゃの熊みたいなごつい体つきの男で、歳の頃は三十代半ばといったところか。
無骨な皮鎧に、灰色のズボン、背中には斧を背負っている。
もう一人は彼とは対照的に、細見で長い金髪を後ろで結んだ線の細い細い青年だった。
こちらは足元まである深草色のローブを身にまとい、手には先っぽに水晶のはめ込まれたワンドを持っている。
見た感じ、二十歳と少しといったところだろうか。
「大丈夫でしたか? 余計なお世話じゃなかったら良かったんですが……」
俺は丁寧な口調で彼らにそう尋ねると、ガイアと呼ばれた髭もじゃの男はガハハと豪快な笑い声をあげる。
「何言ってんだよ、あんたがこなきゃ俺たちは今頃奴の腹の中さ」
「大魔法使い様、ありがとうございます。助かりました」
ライラの時と同じくいい感じに勘違いがあるけど、友好的に接してくれるのは幸いだ。
俺は丸腰だから、いきなりナイフを突きつけられたら対処のしようがないからな……実のところ、ヒュドラに対処するのと同じくらい知らない人たちと接することは危険を伴う。
もし俺が格闘術をそれなりに納めていたら話は違うが……。
「それでしたら良かったです。ヒュドラの咆哮が耳につきますので、倒してしまってもいいですか?」
「おう、どうやって倒すのか楽しみだぜ」
ふむ、まあ無いとは思ったけどヒュドラは人間たちが保護している生物ではないようだ。
周辺の安全のためにも、駆除するとしますか。
「ポチ」
俺はタブレットを出すと、らせん階段を作りポチの背に乗って階段を登る。
ヒュドラより高く登ってしまうと火を喰らう可能性があるから、ギリギリの高さまで階段を伸ばしタブレットをヒュドラを囲む壁に向けた。
じゃあ、行くぜ! 必殺、上からドーン。
映しこめる限界の高さからブロックを落としヒュドラへ直撃させる。やり直すこと十五回、ついにヒュドラが動かなくなったことを確認した。
念のため、更に五回ほどブロックアタックを繰り返し俺はタブレットを操作する手をとめる。
らせん階段を消して、彼らの元へ戻ると二人は開いた口が塞がらない様子で固まっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます