第139話 グルメ・グルマン・フィーネ
探索も6日目だが今日は夕方から日本へ帰ることになっている。
吉岡は一足先にリアに送還してもらい、俺は皆をアミダ商会の地下室へ送ってからクララ様に送ってもらうことにしていた。
「先に帰って仕入れの準備をしておきますよ。それから起業について行政書士さんにアポイントを取っておきます」
俺たちは日本で会社を興すことにしたのだ。
実態がある会社ではないのだが、事業内容の一つに投資を書いてフローしたお金を運用することにしている。
こうしておけばマンションを買うにしろ自動車を買うにしろ経費になるらしい。
そこら辺は吉岡に全て任せた。
今のところ俺と吉岡の収入は失業保険だけということになっている。
数百万円くらいの買い物ならなんの問題もないと思うけど、億を超える金が動くとなると目をつけられる可能性だってある。
お役人様に金の出所を聞かれて、「ザクセンス王国さ出稼ぎに行きました」と正直に答えたところで信じてはもらえないだろう。
為替レートだってザクセンスと日本の合意はないんだよね。
セラフェイム様が上手いことやってくれているのだろうけど……。
投資は吉岡の用意する自動売買システムを使ってFXや日経225などに手を出すことになった。
「短期のトレードってギャンブルみたいで気が乗らないなぁ……」
「そういう側面があることは否めませんね。でも、ある程度まとまったお金を作るまでの辛抱です。失敗しても気にせずにチャレンジしていきましょう」
そう、日本で使えるまとまったお金を作るのが目的だし、資金自体はいっぱいあるのでダメもとでやってみるつもりなのだ。
マカオあたりのカジノでマネーロンダリングってわけにはいかないもんね。
でも本拠地を日本にこだわらなければもう少しやりやすいのかもしれない。
いっそドバイあたりに住んで、あっちで売られている高級品をこっちで転売してしまうのも手かもしれない。
そのうち吉岡にも相談してみるか。
その日の探索を終えると俺はフィーネから報告を聞いた。
知り合った頃はカッテンストロクトの純朴な少女という感じだったのだが、最近は少しあか抜けてきた感じがする。
「それじゃあ今週の売り上げの概算を発表しますよ。ティーセットのトータルが823万マルケス、腕時計が3490万マルケス、エステ部門の売り上げが320万マルケス、喫茶部門が74万マルケス、香水等の売り上げが65万マルケス、しめて4772万マルケスです」
今週もなかなかの売り上げだな。
エステ部門は半年先まで予約がいっぱいだし、カフェも連日満員で席が足りていない。
どちらも人員とスペースを拡張すれば売り上げはもっと伸びるだろう。
新聞はタブロイド版をカフェに置いているがかなりの人気で、発行部数を増やしてはどうかという話も出ている。
印刷機と職工さんの数さえ確保できたら販売と広告収入でやっていけそうだ。
ホルガーが言うには新聞に広告を掲載したいという商人もちらほら現れだしたということだった。
これというのもホルガーたちが集めてきた断罪盗賊団のショッキングな記事が人気を博したのがきっかけだ。
でも、セラフェイム様に頼まれたのは各宗派の討論記事だ。
そちらの方も従軍した時に知り合った神官のウド・ランメルツさんを通じて話が進んでいる。
ランメルツさんもドレイスデンに戻っていたので会いに行ってきたのだが、討論コラムの話をしたら大変乗り気になってくれて、何人もの神学に造詣が深い神官さんを紹介してくれた。
ランメルツさんは中道のエベン派だから長老派と開明派の間でうまいこと調整もしてくれるだろう。
お礼としてランメルツさんの居る神殿の修復費用ともう少しで出来上がる活版印刷による経典の初版本をプレゼントすることにした。
活版印刷の経典はビアンカさんが中心となって鋭意製作中だ。
ビアンカさんもパソコンの操作にかなり慣れてきたので、ワープロソフトで文字を起こし、編集ソフトでアウトラインを決めている。
出来上がった原稿は印刷前に各派の神官さんに監修してもらうつもりでもいる。
近いうちにザクセンスにおけるノルド教の最高権威である枢機卿に面会に行く必要があるだろう。
時間は目まぐるしく過ぎてクララ様と過ごす時間が減ってるよ……。
新聞の討論コラムか経典の出版が成功したらクララ様と一緒に旅行にでも行くとしよう。
セラフェイム様のお許しが出たら地球に連れていってあげたいな。
クララ様が日本の様子にびっくりする場面を想像していたら、知らないうちに頬が緩んでいたらしい。
フィーネに怪訝な顔をされてしまった。
「コウタさん、聞いていますか?」
「ごめん。ちょっと考え事をしていてね。それよりフィーネ、これから俺は元の世界に帰還するんだけど、お土産はなにがいいかな?」
「うわぁ! いつもありがとうございます!! そうだなぁ、「和光」のチョコレートもいいけど「舟和」の芋羊羹もいいなぁ。あ、でもそれだったら「うさぎや」のどら焼きも捨てがたいし、「やじ満」のシュウマイだってもう一回食べたいし……。あー私はどうしたらいいのでしょう!?」
随分と日本のグルメに詳しいザクセンス人ができてしまったな……。
「コウタさん……」
「決まったか?」
「ギリギリまで考えさせてください」
こいつは……。
普段は真面目で頑張り屋、しかも優秀なんだけど食べることが大好きだからな。
「フィーネ」
「あっ、すみません! あの、なんでもいいです! 本当に……コウタさんのお気持ちだけで大丈夫ですから!」
「別にとがめているんじゃないよ。そうじゃなくて……」
「へっ?」
俺は苦笑してしまう。
「三つまで好きなものを選んでいいからな」
「なっ!! コウタさん……、私は頑張りますよ。アミダ商会とクララ様とコウタさんのために粉骨砕身の覚悟です!」
「お、おう……ほどほどにな」
「はい! イヤッホー! あっ、でも三つに絞らなきゃ……」
送還まであと1時間近くあるのでゆっくり決めてくれればいいさ。
クララ様と寛ぐ暇もなく送還の時間になってしまった。
「忘れ物はないか?」
「ええ。買い物リストにお土産メモ、現金も空間収納に納めました」
「今日は慌ただしくなってしまったな……」
クララ様も少し寂しそうにしている。
最近はクララ様も忙しくエッバベルクやバッムスで精力的に政務に励んでいる。
俺もポータルで送り迎えはしているがイチャイチャしている時間はあまりないのだ。
「互いの仕事が少し片付いたら旅行にでも行きませんか? 二人だけで」
「二人だけで?」
「ええ。苦労することも多いでしょうが私たちのことを誰も知らない場所にいってみたいなぁって考えているんです」
「うん……素敵だと思う……」
名残を惜しむようにゆっくりとクララ様の手を離すと、クララ様は未練を断ち切るように頭を振って送還魔法を展開した。
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