第134話 ステイ!

 クララ様に伴われてリビングに入っていくと吉岡が飛びついてきた。


「先輩! ガン! 銃! グロック! サベージアームズ!」


怖いよ吉岡……。


「ただいま。サベージアームズって何?」

「先輩が隠し持っているライフルを作った会社ですよ!」


別に隠し持っているわけじゃなくて空間収納に入れてあるだけだ。

吉岡はゲイリーから俺が銃を持ち帰ることを聞いていたようだ。

それで待ちきれなくてこんな反応を示しているのだな。

だけどクララ様もリアもフィーネもみんなドン引きしているぞ。

普段は割と行動がクールだからそのギャップが余計に異質に感じるのだろう。

だが、みんな知らないようだがこいつは元々がオタクなのだ。

こんな反応は想定内だ。


「こら、子どもの前で銃なんかとりださないよ」


 ここにはリアの弟と妹のゾットとノエルもいるのだ。


「吉岡、お座りして待てっ!」

「先輩に犬扱いされると微妙な気分になります……」


 そんな吉岡を無視してノエルとゾットからお土産を渡した。

二人にはお揃いのリュックサックを買ってきた。

色違いでけっこうお洒落だ。


「こんどピクニックに行くときはそれにお弁当をいっぱい詰めていこうな」

「うん!」


 ゾットもノエルも嬉しそうにリュックを背負っている。

二人とも子どもだけあって適応力が高いらしく、王都での暮らしにもすっかり慣れたようだ。

最近では近所の商家の子どもたちと友達になっていた。

お互いの家を行き来しているらしい。


「歳の順で言えば次は私ですよね、パパ!」

「誰がパパじゃっ!?」


 フィーネはこんな時だけ甘えてくる。

「歳の順で言えば弟のエッボ君が先だろうが……」

「エッボはレオさんと一緒にバッムスに行ってるもん」


 そういえばそうだった。

クララ様の新領地であるバッムスに代官としてレオが赴任しているのだが、手伝いのためにエッボ君も同行しているんだったな。


「忘れていたよ。だったらポータルでちょっと行ってくるかな。レオとエッボにもお土産を買ってきたから」


吉岡が俺の腕にしがみついてきた。


「ついでに銃の試し撃ちをしましょうよ! バッムスならドレイスデンと違ってすぐそばに森があるじゃないですか!」


 もう、珍しく鬱陶しいな。

でも、吉岡の願いはなるべくかなえてやりたいんだよね……。


「わかったよ。じゃあバッムスに行くか。でも詳しい使い方を知りたいからゲイリーにも来てもらった方がいいな」

「だったら魔信で呼び出しますよ。今日は特別な予定は入っていなかったはずです」


 吉岡はポケットから小さな石板を取り出すと魔力をこめてゲイリーを呼び出した。


「ゲイリーは街を散策中だったみたいで、五分で来るそうです」

「だったらこちらも準備をしておくか」


 吉岡以外にもクララ様とリアもバッムスに行くことになった。

クララ様はバッムスの領主だし、リアも勇者パーティーの一員として銃の威力と特性を知っておいた方がいいと思ったのだ。


 五分もしないうちに玄関から呼び鈴の音が聞こえ、クリスタに案内されたゲイリーと女騎士が姿を現した。


「ロゼッタさん。ご無沙汰をしております」


 現れたのは同じ勇者パーティーの一員であり神殿騎士でもあるロゼッタ・ウルバーノだった。

相変わらず絶世の美女だ。

クララ様の横に並んでいても美しさという点では見劣りがしない。


「すぐそこでゲイリー殿に出会いまして、失礼かと思いましたがご同道させていただきました」


 はからずも勇者パーティーが全員揃ったわけだ。


「いえいえ。ロゼッタさんにも見ていただきたい物もありましたので丁度良かったです。これからバッムスまでご一緒願えるとありがたいのですが」

「バッムス?」


 そういえばロゼッタさんにはポータルの能力は教えていなかったな。

あまり広めたくはないが命を預け合うパーティーの一員になるのだから、開示してもいいか。


「実は――」


 俺はロゼッタさんにポータルのスキルについて説明した。


「ヒノハル殿は本当に多才なのですな。そのような能力もお持ちとは」

「でも、戦闘力は期待しないでくださいね」


 パーティー最弱のうえ、みんなとの差がありすぎる。

リアだって最近はめきめきと腕を上げ、吉岡召喚時の能力はゲイリーにも匹敵するようになっているらしい。

特にスピードではパーティー最速を誇るそうだ。

吉岡は最大火力、ゲイリーは攻撃力と防御力に優れ、ロゼッタさんはバランス型のうえ、神聖魔法と回復魔法も使える。


「人にはそれぞれ役割というものがございます。ヒノハル殿にもヒノハル殿にしかなせぬ役割があるではないですか」


この人、美人でさらにいい人だ! 

わかっていたけど再認識した。




 バッムスの村はちょっとした騒ぎになっていた。

それはそうか。

自分たちの領主が突然現れたうえ、ザクセンス王国が誇る三勇者の内の一人がパーティーメンバーを引き連れてやってきたのだ。

町長のルブランさんはゲイリーとも顔なじみだからすぐに飛んできた。


「これは男爵様に勇者様御一行様!」


クララ様は先にルブラン町長に話を通す。


「突然騒がせてすまんな。これより勇者殿たちが南の森を使う。大きな音がするそうだが害はない。危険だから町民には近づかないように触れを出してくれ」

「かしこまりました。あの……娘たちはお役に立っているでしょうか?」


 ルブランさんの娘二人はアミダ商会で働いているのだ。

最近ではエステ部門で重要な役割を果たしてくれている。


「ナオミもララベルもよくやってくれている。近いうちに里帰りをさせてやるから安心しなさい」


 クララ様の言葉にルブラン町長は安堵のため息をついていた。



 轟音を響かせてライフルが火を噴いた。

15メートルほど前方の岩の上に置いた素焼きの皿が粉々に砕けている。

撃ったのは吉岡だ。

地球出身以外の者は全員が凍り付いたように動かなかった。


「どうだいアキト? なかなかの命中精度だろう?」

「うん! って、銃を撃つのはまだ二回目なんだけどね」


二回目なの?


「吉岡って狩猟免許をもってた?」


 俺の故郷にはマタギがいる。

ひょっとして、こいつもどこかの猟友会所属なのか!?


「違いますよ。旅行でグアムに行った時に撃ったことがあるんです」


ああ、そういうことか。


「こいつはステンレス製の全天候型だよ。雨とかも気にしなくていいし、値段もけっこうお手頃なんだ」


そうかもしれないけどおっかない。

俺はハンドガンから練習しよう……。


「恐ろしい武器があるものだな。そのライフルとやらはこの氷塊を貫通させることができるのか?」


クララ様が腕を振っただけで巨大な氷が現れた。


「試してみましょう! みんな下がっていてください」


 吉岡が嬉々として氷塊に狙いを定めた。

再び轟音が響いて銃弾が発射されたが、銃弾は氷塊の表面を破壊しただけのようで、貫通はしていなかった。


「勝った……」


クララ様ってば負けず嫌い! 

でも、実戦ではやらないでほしい。

もっともクララ様なら冷気で相手の動きを止めたり、銃口に氷を詰めてしまったりもできそうだ。

その場合はやっぱり暴発してしまうのかな。


「クララさん、ここにさっきの氷塊を作ってみてください!」


 ゲイリーが興奮しながら大地を指さしている。

クララ様は一つ頷くとすぐに氷を作り出した。

いつ見ても魔法の展開が早い。


「みんな、見ててね」


ゲイリーは巨体をひるがえして、一飛びで5メートル以上はありそうな氷の上に躍り上がった。

そしてハンドガンを氷の上に向けて放つ。


「成功だ! ほら、見てよ!」


 全員が氷の上に飛び上がる。

俺も「空歩」を使って岩の上へ躍り上がった。

もう三段跳びまで習得したぞ!


「ゲイリー、何をそんなに興奮しているんだよ……って、ええっ!?」


 なんと銃弾が氷の上でコマのように回っているではないか!


「おもしろいだろう? 冬になるとついやっちゃうんだよね」


 分厚い氷のせいで推進力は失われるが回転は止まらずにこのような現象が起きるそうだ。

俺も銃を的に中てる練習もしないでコマ回しをして遊んでしまった。


 銃の威力はやっぱり強烈だった。

できることならダンジョン以外の場所では使いたくないな……。

普段は空間収納の中に入れっぱなしにしておくことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る