第117話 リアとの再会

 召喚された場所はアミダ商会のリビングだった。

クララ様の他にリア、ゾット、ノエルと懐かしい顔が並んでいる。

「ヒノハルさん!!」

駆け寄って俺の手をとるリアは前よりも少し大人びて見えた。

会うのは四か月ぶりだけど、十六歳といえば女の子は劇的に変化する時期だもんね。


「よく来てくれたねリア。また会えてうれしいよ」


そばにいたゾットとノエルにも声をかけるが、久しぶりに会うせいか以前のように甘えてこない。

エッバベルクにいた時はいつも邪魔になるくらいひっついてきたのに遠慮しているようだ。

そばによって二人を同時に抱き上げた。

相変わらず9歳と7歳にしては軽い。


「元気だったか?」

「お、おう」

「うん」


ノエルは以前と変わらずのマイペースでニコニコしているが、ゾットの方は少し照れているようだ。

クララ様やリアと今後の話をしなければならないがとりあえず今は子どもを優先しておこう。


「ドレイスデンにはいつ着いたの?」

「一昨日」

「もうあちこち見て回った?」

「クララ様がいろんなところに連れていってくれた!」


ゾットが興奮気味に受け答える。

クララ様がリアたちを王都観光に連れ出してくれたそうだ。

クララ様も久しぶりにエッバベルク村の住人たちと触れ合えて嬉しかったのだろう。

あそこはクララ様の故郷だ。

しかもリアたちはクララ様と同じ少数民族ギリール人の血をひいている。


「叙任式までは暇なのでな。巡回以外で王都を回るのは新鮮だったよ」


抱っこされているゾットがそっと耳打ちしてきた。


「領主様って意外と優しいぜ。怒るとすげー怖いけどな」


よく知ってるよ。

それで、たまにすげー甘えんぼなんだぜ。

俺しか知らないけどね。


 リアたちは予定通りアミダ商会の一室で暮らしていた。

同じく住み込みで働いているビアンカさんとはすっかり仲良しになっていた。

子どもたちは優しいビアンカさんによく懐いていたし、ビアンカさんも二人が可愛くて仕方がないようだった。

地球からのお土産を渡してひとしきりゾットたちと遊んでやったあと、ビアンカさんに子どもたちを任せてゲイリーに連絡を取った。

通信手段はゲイリーが持たせてくれた黒い石板だ。

花札くらいのサイズでこれを握るとゲイリーとの念話が可能になる。


「ゲイリー、コウタだよ。いまこっちに戻ってきた」

「おかえりコウタ。ママたちは元気だったかい?」


シンディーに銃を向けられたことを思い出して思わず苦笑してしまう。


「ああ、みんな元気だったよ。ゲイリーへのビデオレターを預かっている。それから引き合わせたい人がいるんだ」

「リアさんのことだろう? 天使様からお告げがあったよ」


既にイケメンさんから事情は聞いているようだ。

だったら話は早い。

ゲイリーも交えてアミダ商会でミーティングを行うことになった。


 次回から吉岡はリアの召喚獣になる。


「セラフェイム様からお告げがありまして、アキトさんのことは聞きました。こんな私ですがお力を貸してもらえるのでしょうか?」

「任せといてリア。自分も自身の力を試してみたいと思っていたから丁度いいよ」


リアも既にイケメンさんから色々とレクチャーを受けていたようだ。

なんでも夢枕にイケメンさんが現れたと言っていた。 

天のお告げってやつだな。

ゲイリーはまだ到着していないが、とりあえず召喚を試してみようということになった。

現在はクララ様の力で二人とも召喚されているので先ずは二人とも送還してもらう。

それから最初にクララ様が俺を召喚して、時間をおいてリアが吉岡を召喚するという順番だ。

きちんと別々に召喚できるかを確かめたかったし、時間の流れがどうなるかを確認しておきたかった。

これまでは俺が召喚されると日本での時間は停止していた。

だが、これからは吉岡もいる。

俺が召喚されている間、吉岡が日本でどうなるかを確かめておくべきだ。

クララ様には魔力で負担をかけてしまうけど早い段階できちんと把握しておきたかった。


 四谷のアパートに送還されてから1分もしないうちに再召喚された。

いつも通りスキルカードを引いた。

毎日こんなにスキルをゲットできればいいのだが、それをするとクララ様の魔力が空っぽになってしまう。

いつ不測の事態が起きるかはわからないので本当は避けなければならないことだ。

一日に二回も召喚したクララ様は長時間の戦闘は苦しくなっていると思う。

3日後には新ダンジョンの入り口が開くのだからそれまでに魔力の回復をはかってもらわないとならないな。

今夜はスペシャルコースのマッサージをしてあげるとしよう!


スキル名 式神(しきがみ)・火鼠(ひねずみ)

式神である火鼠を使役できるようになる。

体当たりで火炎魔法(小)と同じ威力を出せる。

簡単な命令を理解することもできる。

室内で使役するときは火事に注意!

レベルアップすると式神・地牛を使役できるようになる。


攻撃系きたぁあああ! 

急いでクララ様の所へ戻ろうとしていて特に何も考えないで引いちゃったんだよね。

これぞ無欲の勝利だ!

しかもレベルが上がれば他の式神も使役できるようだ。

ネズミの次が牛だから、ひょっとするとその次は虎かな? 

干支の順番ならそうなるよね。

龍(ドラゴン)とかの式神なら強そうだ。

なかなか夢の広がるスキルだな。

早速、火鼠を呼び出してみた。

サイズは手のひらサイズのネズミで肩や尻尾にオレンジ色の炎が揺らめいている。

狭間の小部屋が明るくなった。

これなら迷宮内でランタン代わりにもなりそうだ。


「これからよろしくな」


俺の言葉に火鼠はネズミらしくなく小さく頭を下げた。


 アミダ商会の居間に戻ると吉岡の姿はなかった。

きちんと俺だけが召喚されたようだ。

30分後にリアが吉岡を召喚した。

長い召喚呪文を唱えている。

召喚されるまで40秒くらいかかっていた。


「クララ様、俺を呼び出すときでもいつもこんなに時間がかかるんですか?」

「いや。召喚術を発動してから5秒もかからない」


俺と吉岡では召喚の様式が違うようだ。


 やがてリアが作り出した魔法陣から吉岡が姿を現した。


「うまく召喚できたでしょうか? アキトさん痛いところとか気持ち悪いとかありませんか?」

「大丈夫だよリア。それよりもこの感覚はすごいよ! 自分の中の魔力が奔流となって体中を駆け巡っているみたいだ。こんな状態は初めてだよ! 今なら普段使えない大出力魔法も使用可能な気がするっ!」


リアは心配そうにしていたが吉岡は自分の力にかなり興奮しているようだ。


「おかえり。向こうではどうだった?」

「今までの召喚とは全然違いました」


吉岡の話をまとめると大事なところは二点あった。

 第一点は時間の流れについてだが、俺がザクセンスに来ていても地球での時間は止まらなかったようだ。

これまでと違って地球とこちらの世界を行き来する人間が二人別々になったからかもしれない。

俺が召喚された後も吉岡は普通に時間経過を感じたそうだ。

これからは俺がこちらにいても地球では関係なく時間が流れていくのだろう。

ただ、狭間の小部屋だけは例外で、俺があそこにいる間はどちらの時間も止まっているようだ。

 第二点はリアの召喚はこれまでの召喚とはちょっとばかり具合が違うということだった。

召喚される直前に脳内にこちらの情報が滑り込んでくるような感覚がするそうだ。

どんな場所か、誰がいるのかなんていう情報が脳内に送られてきて、あたかも精神が半分だけ先に召喚地点に来るような感覚になるらしい。

だからリアによる召喚魔法は時間がかかるのかもしれないな。

しかも吉岡は狭間の小部屋を経由することなく召喚されたそうだ。


 本当は吉岡には隣の部屋にでも行ってもらってリアにもう一度だけ召喚魔法を使う実験をしてもらいたかった。

同じザクセンス内にいるときにはどんな感じで召喚されるかを見ておきたかったのだ。

でも既にリアの魔力は足りなくなっている。

今のところ一日一回の召喚が限界みたいだ。

クララ様の説明によれば、年齢による成長や使用頻度をあげることで魔力保有量は成長するそうなので今後に期待だ。

皆で召喚についてあれこれと話し合っていたらゲイリーの石板が震えた。

バイブ機能もついてたんだ。


「どうしたのゲイリー?」

「コウタ、悪いけどちょっと来てくれないかな?」

「来てくれって王宮にか?」


ゲイリーは王宮の一室に住んでいる。


「うん。関係者が揃ってるから」


王宮か。

ショウナイに偽装してなら何度か行ったことがある。


「関係者って?」

「宰相さんとか、大臣さんとか、大司教とか、テンプル騎士団の人とか大勢いるよ」


文武百官勢ぞろい?


「アンスバッハ殿とリアさんも連れてきてね」


なかなか大事になってきたな。

王都の地下にダンジョンが出現するっていうんならこれくらい当たり前か。

俺たちは大急ぎで準備を開始した。

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