第104話 バスルーム
俺とクララ様は互いに背を向けて服を脱いだ。
暖炉でごうごうと薪が燃え、部屋は暑く息苦しいくらいだ。
「脱いだか?」
「ええ」
何の合図もなかったけど俺たちはほぼ同時に振り返っていた。
クララ様は身体を手で隠すことなく俺を見つめている。
俺はクララ様のあまりの美しさに声も出ない。
擦れる声を誤魔化すために手を差し伸べるとクララ様はその手をしっかりと握りしめてくれた。
「綺麗だ」
それ以上の言葉がでてこなかった。
「どうすればいい? 私の知っている風呂とはだいぶ違うのだが」
「先にお湯の無い方のプールに入って体を洗いましょう」
手をつないだまま空のプールに入る。
予め空間収納から出しておいたお風呂セットは台の上に並べておいた。
「まずはお湯をかけて体の汚れを流します。しゃがんで背中を向けて下さい」
真っ白で沁み一つなく、透き通るように美しい肌だ。
首から臀部にかけて緩やかに曲がる背骨のラインが目を引き、思わず人差し指でなぞってみたくなる欲望を抑え込んだ。
「お湯をかけますね」
桶でお湯をすくい、白いうなじへゆっくりとお湯をかける。
「ふふっ」
「どうしましたか?」
ふいにクララ様が笑った。
何も面白いことはしていないぞ。
身体に触れてさえいない。
「あったかくてな。なんだろう? 幸せな気持ちでいると些細なことで小さな笑いが出てしまうのかもしれないな」
俺もつられて笑顔になってしまう。
本当にその通りだ。
ずっと緊張していたけど、今はクララ様と一緒にこの歓びを噛みしめることにしよう。
「クララ様、石鹸をつけてお背中を洗いますよ」
「うん……コウタにまかせる」
泡立てネットで粉のボディーソープを角が立つまで泡立てた。
「触れますよ」
肩からゆっくりと泡を肌の上に密着させるように優しく洗っていく。
「前はご自分で洗いますか?」
「うん」
肩越しに差し出された手にたっぷりとクリーム状の石鹸を乗せてあげた。
背中側を一通り洗って、お湯をかけてあげると泡に隠れていたクララ様の肌が再び現れる。
しっかりした肉付きなのだがごつごつしたところはない。
戦闘時の強さを考えれば、むしろ驚くほどにほっそりしている。
おそらく筋肉の少ない分を魔法で補っているのだろう。
「次は私が洗う番だな」
嬉しそうに振り返るクララ様のたわわな胸が揺れた。
詳細は教えない。
誰にも教えるもんか!
「髪を洗ってくれるんでしたね」
「うむ。でも髪だけじゃない」
「背中も流してくれるんですか?」
「ああ。背中も洗う。足も洗う。指の間も一つ一つ」
それはくすぐったそうだ。
もう、これはクララ様の性癖なので何も言うまい。
部屋をしっかり暖めておいたので寒いということはない。
クララ様の心ゆくまで存分に綺麗にしてもらったよ……。
プールに張ったお湯に二人で入った。
広さは充分あったが二人とも自然にくっついてしまう。
俺の広げた足の間にクララ様が腰を下ろし、俺に寄りかかるようにして座っている。
「意外でした。もっと恥ずかしがるかと思っていましたから」
「それは、恥ずかしいぞ。裸を見られたのは初めての経験だ。だが……こうして肌を合わせているととても気持ちがいいんだ」
お湯の中でくるりと向きを変えてクララ様が抱きついてくる。
彼女の胸が俺の身体に当たり、俺の身体は嫌でも反応してしまう。
「もう弁解もしませんよ。男はどうしてもこうなってしまいます」
「う、うむ。心得ている……後でそこも私が洗う。それで、その、……楽にしてやるから」
そういう知識はあるんだ。
聞いてみたら情報の発信源は従姉のメルセデスさんだった。
やっぱりそういう話題も出てくるそうだ。
………………………………………………… ・ ……
風呂から上がってグラスに水を入れる。
水分補給は大切だ。
俺もクララ様も一杯汗をかいてしまった。
「見て下さい。私の新しいスキルです」
「ほう、水を作り出せるようになったのか」
さっき大量のお湯を作り出したばかりのクララ様に見せるのも烏滸がましいのだが、召喚獣として自分のスキルは報告しておくべきだろう。
「どうぞ、喉が渇いたでしょう」
「うん」
グラスを受け取ってクララ様は一息に飲み干してしまった。
ドライヤーでクララ様の髪を乾かす。
元から月光のような銀髪だが、今は俺のスキルと地球産のシャンプーなどのお陰で更に輝いている。
「今夜は泊っていきますか?」
「……」
ドライヤーの音で返事は聞こえなかったけど、僅かに頷いた動作と真っ赤になっているうなじで返事がイエスなのはわかった。
ローマンブルクに向かう朝、俺は心身ともに充実していた。
目覚めるとすぐ目の前にクララ様の顔があって、お互いの目が合って照れてしまったり、長いキスの後に二人で協力して朝食を作って食べたりと、朝から幸せイベントがてんこ盛りだったが今は気持ちを切り替えて軍務に励んでいるところだ。
念のために言っておくが最後の一線は超えていないぞ。
お風呂から出た時にはもう賢者モードだったからね。
補給部隊の準備は滞りなく終わり、いざ出発という段になって一騎の騎馬が近づいてきた。
乗っているのは大柄な騎士だ。
馬から降り立った姿は俺よりも背が高い。
身長は190センチ近くあるんじゃないか。
横幅もけっこうあるみたいだ。
兜は装着しておらず、うすい金髪が見えていた。
白い肌にはソバカスが散りばめられている。
年齢はよくわからない。
たぶん20代後半くらいだろう。
「部隊の隊長は何処かな? この命令書を渡すように言われたんだけど」
クララ様が前に出て命令書を受け取る。
一読してすぐに顔を上げた。
「了解しました。私が部隊長のクララ・アンスバッハです。よろしくお願いします、勇者殿」
勇者?
もしかしてザクセンス王国の勇者の一人か。
確か地球から召喚された人も3人いるんだよな。
日本人とアメリカ人とインド人だったはず。
この人はどう見てもアメリカ人だ。
俺が穴が空くほど見つめていると勇者の方でも俺の存在に気が付いたようだ。
「どうしたの? 勇者がそんなに珍しいかい?」
「失礼しました。実は私は地球出身でして。日本人です」
「マジかよ!!!」
勇者は突然俺の肩を引き寄せ、ものすごい力で握手してきた。
「僕はゲイリー! ゲイリー・リーバイです。日本大好きだよ!! ていうか日本人に生まれたかった! むしろ秋葉原に生まれたかったんだ!!」
……前にこういう人をテレビで見たことがある。
親日が進化してニッポンがたまらなく好きになってしまった人だ。
アニメや漫画が好きな人に多いんだよね。
自国の文化が褒められているから悪い気はしないけどさ。
「そうか、コウタ・ヒノハルさんか。よろしくね。コウタって呼んでいいかな?」
「じゃあ、自分もゲイリーって呼ばせてもらうよ」
ゲイリーもまたローマンブルクへ派遣されるそうだ。
兵士たちはまだ揃っていないが、とりあえず勇者だけ先に派遣することに上は決めたらしい。
「元々はユタでレンタルDVD屋の店長をしてたんだよ。それが今じゃ勇者だぜ。きっとオタクの神様が夢をかなえてくれたんだよ!」
オタクの神様って時空神とは別だよな?
いろんな神様がいるみたいだからそういう神様がいてもおかしくはないか……。
「今日は暑いね。いよいよ春って感じだ」
喉が渇いているようだ。
お近づきの印に空間収納からよく冷えたコーラを出して渡してあげた。
アメリカ人だし体型から見て好きなんじゃないかなと思ったんだよね。
「…………コウタ」
「どうしたの?」
「アンタって最高だよ!!!」
巨大なタフガイに思いっきり抱きつかれてしまった。
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