第143話 隣

 困惑しきりのティティと賑やかしのガエウスをなんとか宥めて、宿の中へ入った。


「ほんと驚きました。でもまた会えて、嬉しいです、ロジオンさん」


 宿泊の手続きを進める頃には、もういつものティティに戻っていた。話しつつ、慣れた手付きで受付へ僕の名を書き留めている。


「僕もだよ。また此処に来れるとは、ついさっきまで思ってもいなかったけれど。変わらず元気そうで、安心した」


「えへへ」


 ティティはあの頃と変わらず、若いながらもしっかりと宿を支えているようだった。

 宿の主人である父親は、病ではないものの身体が弱く、あまり僕らの前には出てこなかった。客の相手は専らティティだ。

 言い方は悪いが、冒険者ばかりが使う場末の小宿なので、客には荒くれ者も多かった。それでもティティは一歩も引かず、堂々と相対していた。それでいて結局はほとんどの冒険者から好かれていたのは、生来の朗らかさ故だろうか。


「お聞きしたいことも沢山ありますけど。とりあえず、今度はどれくらい、王都に?」


 帳簿を手に僕を見上げるティティは、興味を隠そうともしていない。僕がまた王都にいること、傍には見知らぬ仲間がいること。そういえば以前から、好奇心の塊みたいな娘だった。

 まあ、気を遣われるよりは随分と気楽でいい。


「それが、まだ分からないんだ。もしかしたら、明日には全て終わっているかもしれない」


「すると、魔物の討伐とかですか? 最近は多いみたいですね。黒山羊丘にも、いつもよりみんな通ってるとか、聞きます」


 ティティの問いに、首を振る。魔物が多いというのは少し気になるけれど、今は置いておく。


「長い話なんだ。後で話すよ。今はまず、荷を下ろしたい。いいかな?」


 そう言うと、ティティははっきりと頷いた。


「ではお部屋にご案内しますね。ロジオンさんがいた頃より、少し綺麗になったんですよ」


 ティティは受付を出て、ぱたぱたと駆けていく。

 親しくなっても、必要以上に踏み込まない。客の機微に対してやたらと察しが良いのも、気難し屋の多い冒険者から気に入られているところなのだろう。

 僕が話を避けたのは、決して気まずいとか気恥ずかしいとかじゃない。後ろで僕を待つルシャとシエスの視線が、若干刺々しい気がするのもきっと関係ない。

 僕らは王国と敵対している。そんな僕らを泊めてしまえば、この宿屋も後々王国から目をつけられてしまうかもしれない。

 僕は今、ティティへ事情を説明するのが正しいのか、何も知らせずにおくべきなのか、判断できずにいる。




 僕らはそのまま二階の部屋へ案内された。

 結局、広めの一部屋。こうなった元凶のガエウスは、とっくに消えていた。行き先は近くの酒場、昔から行きつけの銀の馬亭だろう。王都ではだいたいいつもあそこにいる。

 後で何か食べるものをお持ちしますね、と告げて、ティティは下りていった。


 部屋には僕と、ルシャとシエス。

 発動句を口にして、鎧を脱いだ。刺客の類はまだ気配を感じない。油断はできないが、休息くらいは取っても問題ないはずだ。

 鎧を外した途端、どっと身体が重く感じた。戦いの疲労を今更思い出したのか、腕も背も節々が張っている。

 軽く伸びをしていると、同じように軽装になったルシャがこちらを見ていた。


「何処に行っても馴染みの女性がいますね、ロージャは」


 からかうような響き。

 馴染みの女性? ティティのことは分かるけど、他は誰のことだろう。

 僕がなにか言う前に、シエスが頷いていた。


「いつもちやほやされてる。魔導都市でも帝都でも、仲良くなるとすぐ、みんなロージャのこと、好きになってた」


「聖都でも、ですよ。……私もそのうちの一人ですから、何も言えませんけど」


 部屋にある椅子へ腰掛けて、話し始めるふたり。僕の分はないらしいから、寝台の端に座る。


「ちやほやされてるとは、思わないけど。すぐ騒動を起こすから、煙たがられてることの方が多いよ」


 これまでの旅路を思い出す。

 良くしてくれた女性も少なくはない。魔導都市のナーシャ、帝都のログネダさん、『詩と良酒』のクルカ。彼女らからは親しみを感じる。僕も同じだけの善意と感謝を返したつもりだし、これからまたいつか会う日のことを楽しみにしている。

 でも思い出すのは、『蒼の旅団』のルルエファルネやナタのような、鋭い視線と軽蔑だった。

 女性ではないけれど、魔導都市のギルド長、トスラフさんも僕の前でいつも青い顔をしていた。聖都の教皇、帝都の兵たち、王国宰相。

 僕には敵も多い。生きたいように生きた代償だから悔いはないけれど。


「騒ぎは、起こしているかもしれませんけど。貴方は結局みんな守ってしまいますから」


 僕の答えに、ルシャは微笑んでいた。いたずらっぽく、それでいて優しく包み込むような不思議な笑みだった。


「教会の皆もソフィヤ様も、貴方を好ましく思っていました。自分で問題事を連れてきて、自分で解決して。それで好かれてしまうのですから、ずるい人、ですね」


「罪なおとこ」


 シエスまで、無表情ながらほんの僅かに目元がにやついていた。……そんな表現、どこで覚えたんだ。

 なんと答えたものか悩んで、手持ち無沙汰に頭を掻く。少し考えて、何を言っても墓穴を掘りそうだったから考えるのをやめた。


 視線を外して、窓の外を見る。

 宿へ差す陽は随分と弱くなって、もう日暮れが近い。街の喧騒も遠かった。

 半日前の、あれだけの窮地が嘘のような静けさだった。神秘に満ちた地で国をふたつ敵に回して、それでも僕らは普段通りの、一日の終わりにいる。


 シエスを見ると、僕へ一歩寄ってきた。見上げる表情は三白眼ぽく見えて、気が抜けた雰囲気。

 魔導を失って塞ぎ込んでいた、数日前までの儚い雰囲気はどこにもない。


 此処にはいないナシトも、俺を信じろと笑って、僕らを送り出した。じきに追い付くだろう。唐突に、陰鬱に現れることを欠片も疑ってはいない。


 再びの王都で、感じるのは静けさと穏やかさ。奇妙な感慨が胸に湧いて、可笑しかった。

 何もかも失ったはずの王都に、こんな自分で戻ってくることになるとは。

 フラレて逃げた自分がこんなに満ち足りた気持ちで、しかも『果て』に辿り着くために、また此処に来るなんて。

 あの時の僕に言っても信じないだろうな。



「ロージャ? 聞いてますか?」


 ルシャの言葉に、我に返る。笑って誤魔化した。


「ごめん。久々の王都だったから、色々思い出してさ」


 言ってから、はっとする。

 ふたりは僕の王都での過去を知っている。

 フラレたことを、まだ僕が引きずっているように聞こえたかな。


「昔の女のこと、思い出してたなら、ゆるさない」


 わざとらしく刺々しかった。シエスは、いつの間にか僕の腰のあたりへぎゅうと抱き着いていた。

 声に探るような響きはない。ユーリのことなんて考えてもいないのだろう。単にじとりとしている。頭をぐりぐりと押し付けて、珍しく分かりやすく、じゃれついてくる。

 心配する必要もなかったか。僕らのことは僕らが一番良く分かっている。でも勿論、言葉にもしておく。


「違うよ。あの頃とは随分変わったなと思って。街じゃなくて、僕がね。此処を出て、シエスと出会ってから、何もかもが変わった気がする」


「……むぅ」


 子どもっぽい声で呻いたのは、シエスでなくルシャだった。なんで不満げなんだ。

 さっきからふたりの表情がころころと変わる。じゃれついているのは分かる。楽しげなのは嬉しいけれど、どうも得意な話題ではない。なんとか話を変えなければ。

 そう思って思い付いたのは、魔導の渦での出来事についてだった。


「そういえば。『転移』の中で、神獣の声を聞いたんだ。ふたりも聞こえた?」


「神獣、ですか。私は何も聞こえなかったですが」


「私も」


 となるとあれは、僕だけに語りかけていたのか。


「何を話したのですか?」


「よく分からない。彼の話は、ひとり語りみたいだった。けど恐らくは世界の秘密みたいなものを、聞かせたんだと思う」


 ヒトの歴史。『果て』の正体。そしてたぶん、聖教の真実。

 察したのか、ルシャの眼差しが変わっていた。真っ直ぐに僕を見ている。初めて出会った時と同じ、僕を射抜くような琥珀色の瞳。

 促されるままに、話を続ける。


「ヴァスクレス。父神は最初の神獣だったと、言っていた」


「……」


 ルシャは何も言わない。ふと振っただけの話題だったのに、思いがけず真剣な空気になってしまった。

 でも、茶化す気分にはなれない。なれるはずもない。


「聖教は元々、神獣を神と崇めていたのかもしれない。それが太古の獣だったことを、魔との戦いで死んだことも、ヒトはどうしてか忘れているみたいだけど」


 向き合いながら、思い出す。

 ルシャがかつて、人生を懸けて求めたもの。それが神だった。神の声こそが彼女の救いだった。

 僕と出会う前のルシャ。彼女が探し求めていたものと、世界の秘密との差を想う。

 僕は考えを纏める暇もなく、口を開いていた。


「上手く言えないけど、僕は神獣も生き物だと思う。だから、神様とは違うのかもしれない。本当に神様だったなら、全て救えたなら、魔といがみ合うこともなかったと思うんだ」


 ルシャと向き合う。教会で祈りを捧げていたルシャの、透き通るような横顔と、真っ直ぐな祈りを思い出す。


「でも神に似た存在は、昔、確かにいたんだ。ヒトを愛して、導いた何かが。それが今はもう喪われていただけで、さ。……なら、ルシャの、かつての信仰は、報われるかな」


 滅茶苦茶な理論だと自分でも思う。

 でも、昔は確かに神がいたんだ。今はいないだけで。もし今も父神が、ヒトを愛する神獣がいたならば、ルシャの祈りはきっと届いた。

 ならばその祈り自体は、間違っているはずがない。そう思う。


 一瞬の空白の後で。ルシャの纏う空気が、ふっと緩む。

 また微笑んでいた。いつもの優しい、柔らかい視線。ルシャは嫌がるけれど、聖女と呼ぶのがしっくりくる、覆い包むような笑み。


「……そういうところですよ。気を抜くとすぐに、優しくして。貴方は、しょうがない人ですね」


 ルシャが僕へ手を伸ばす。取ると、そのまま僕の腕を引いた。導かれるまま、ルシャの頬へ触れる。


「人は救いを求めます。自分の手でどうしようもないことが起きたときに、私達にできるのは、奇跡を信じることだけ」


 ルシャの目が一瞬だけ、遠くを見るようにぼやけた。苦しむような色はない。


「私は昔、奇跡を信じて、救われました。地獄のような日々は、神の御業によって終わったと信じていました」


 思い出させてしまったかな。馬鹿なことをしたかもしれない。

 ルシャは僕の手をまたひとつ、強く握って、頬をすりつけた。


「あの奇跡がただの偶然だったと、思うようになったのは貴方と出会った後のことです。地獄から抜け出せたのは誰の意志でもなく、ただ時の巡り合わせ。誰も私を救おうとはしなかった」


 僕の手の下で、首筋の奴隷紋がちらと見えた。痕は、聖都で初めて見た時よりも薄く、細く見えた。

 そう見えたのは、僕がそうあれと、願ったからなのかもしれない。


 ルシャは目を閉じていた。

 僕の手に頭を預けて、深く息をついて。吸う息と共に、僕の胸の奥まで見通されている気がする。


「けれど今なら、分かります。あの時、私が私を救おうとしたのです。私だけが、私の生きる意味を求め続けた。だから『志』に目覚めて、偶然を手繰り寄せた。神に答えを縋る、歪んだ想いであっても、私は生きたいと願った。ロージャが王都で、護る力を望んだように」


「……僕のは、君ほど真っ直ぐじゃなかった。いじけた、八つ当たりみたいなもので――」



「いいえ。同じです。だって、貴方がいたから、気付けたんですよ。貴方の隣で、ずっと貴方を見ていたから」



 ルシャがまた僕を見る。初めて会った時よりも強く、琥珀の瞳が僕を射抜く。


「人を救うのは、人の意志だけです。神の奇跡でも偶然でもない。だから、神獣も聖教も、もういいのです。私にはもう、奇跡よりも信じるものがありますから」


 そう言って、ルシャは笑った。手を離して、代わりに僕の頬に触れた。掌は熱くて、暖かかった。

 信じるもの。僕にとってのそれが皆との日々で変わったように、ルシャのそれも変わっていった。僕らと過ごす中で、同じように。

 まただ。ルシャを励ますつもりが、また僕ばかり救われてしまう。


 胸の奥が熱くなって、僕は何も言えずにいた。少しの間の後で、ちょいちょいと、服の裾を引っ張られた気がする。見ると、シエスだった。


「私は、神様なんて信じてない。祈ったことも、あんまりない」


「ふふ。シエスは強い娘ですから」


「強くない。でも、皆の役に立ちたい。今度はちゃんと、皆の傍にいたい。だから頑張る。私は、それだけ」


 シエスの声はいつも通り、揺るぎなかった。

 シエスは初めからずっと、仲間と自分を信じていた。だからこそここまで強いのだろう。


「ついこの間まで、いじけてぐずついてましたけどね」


「……忘れて」


 ルシャの珍しい嫌味に、シエスも珍しく、少し小さくなる。

 強いシエスだって躓いた。でも、また前を向けるなら何度だって挫けていいんだ。そのために僕ら、仲間がいるのだから。


「最近は、不思議だったんだ」


 ふたりが僕を見る。


「以前よりずっと危ない目にあってるのに。魔物を狩っていればよかった昔より、敵は大きくて複雑で、戦い方も分からなくなっているのに。変わらずに、皆を失うのが怖いと思っているのに。もう、手も脚も震えないんだ」


 エルフの森での、臨戦官との戦いを思い出す。ようやく心の底から自分を信じられた。

 皆を守る自分を信じることができた。そう在れたのは、僕がそう望んだから。望んで、前へ進み続けたから。


「僕も僕を、救っていたのかな」


 言葉にすると泣きそうになる。

 皆を守る、その生き方で、僕は仲間を守りながら、僕自身を救おうとしていた。弱い自分を塗り潰して生まれ変われるように。


「ん。ロージャは、悩みすぎ」


「シエスも私も人のことは言えませんよ。だからこうして、一緒にいるんですから」


「それもそう」


 いつの間にか、ルシャもシエスも僕の隣に来ていた。僕を挟んで寝台へ腰掛けて、僕へ触れて、笑っている。

 嬉しさで胸がざわつくけれど、泣くつもりはない。もう探し求めるのは終わりだ。戦う理由も信じるべきものも、全て確かにここにある。

 悩むのも感慨にふけるのも、もう終わり。ここからは、僕らの『いつも通り』だ。


「僕もみんなも、ようやく此処まで来れた。だからさ。これからは、もっと先へ行こう。これが最後の戦いじゃない。『果て』も越えて、ずっと向こう、誰も見たことのないところまで」


「もちろん。ガエウスが喜びそうな冒険、ですね」


「ガエウスは嫌だけど、冒険は好き」


 軽口を叩きながら笑い合う。

 すると一瞬、ふたりが――というよりはルシャが、ふと弱々しい眼になった。


「……行く先々で皆に優しくするのは、いいですけど。私たちのこと、忘れないでくださいね。こんなふうに、ずっと傍にいる、重い女なんですから」


「ん。一生離さない」


 吹き出しそうになる。誇らしげなシエスはともかくとしても、なんでまた急に話題を戻して、しかもちょっと弱気になるんだ。

 でもまあ、間髪入れずに答える。


「忘れる訳ないよ。僕のほうがずっと重いんだから」


 文字通り、ふたりのためなら王国だって『果て』だって、世界だって叩き潰してみせる。それは恥ずかしいから、流石に言わずにおくけれど。

 代わりに、僕はふたりの肩を掴んで、寝台へ一緒に倒れ込んで、また笑った。




 それから、食事をしてすぐに休んで、翌朝。

 夜は念のためにルシャと僕で替わりながら眠り、見張りをしていたけれど、何も起きなかった。

 最初はシエスも見張ると意気込んでいたけれど、すぐに目がとろんとして、気が付くと横になっていた。なんだかんだで疲れていたのか、夜が明けた今も僕の横で、まだぐっすりと寝入っている。


「もう少し、寝かせてあげましょうか」


 ルシャはその隣、寝床に腰掛けながら、髪を結い直している。

『志』を多用した僕に気を遣って、ルシャはあまり寝ずに番を受け持ってくれた。疲れは見えないけれど、明日はガエウスも宿に残すべきだろう。


 穏やかな朝。昨晩と変わらず、ここ数日の喧騒を洗い流すような静けさだった。

 けれど、昨日とは僅かに違う。肌が粟立つ、耳の奥で無音が鳴る、落ち着かない静寂。日の出と共に、穏やかな気配が消えていた。

 街の纏う空気が、ざわついているような。大抵は、碌でもないことに巻き込まれる前兆。



「ロジオンさん!」



 案の定、だった。ティティの慌てきった声。階段を駆け上がってくる。

 寝台から立ち上がって迎える。


「よかった、まだいた。……外に出るのは控えてください。しばらくここで、身を隠して」


 部屋へ入ってきたティティの手には、紙の束が見えた。嫌な予感がする。


「今、王都中で、皆さんの捜索が始まってるみたいです。ロジオンさん、どうしてこんな――」


「おう、耳が早えな、嬢ちゃん」


 宿の窓から、にゅっとガエウスが姿を現した。そのまま僕に何かを放り投げる。

 先程までティティが持っていたはずの紙だった。

 紐を解いて、中を見る。目に飛び込んできたのは、人相書きだった。絵のガエウスはとびきりの悪人顔で、にたにたと笑っている。


「ギルドでも触れ書きが出てやがった。俺らの冒険者等級は剥奪だとよ」


「え、ええっ」


「王立軍の殺害、その他諸々の王国への反逆行為。あのジジイ、都合の悪いやらかしを全部俺らへ押し付けやがった」


 ティティは絶句していた。ガエウスの口にした物々しい単語の数々のせいか、顔が真っ青だ。後でちゃんと説明しておかないと。

 宰相は僕に逡巡する暇すら与えてくれないようだ。もうティティを巻き込んでしまった。何も聞かないうちから庇おうとしてくれている彼女も守れるよう、最善の手を打たなければ。


「まあ、こうなるわな。面白くなってきたじゃねえか」


 ガエウスは昂りを隠そうともしない。国を敵に回して楽しめるほど、僕はまだ気も据わっていない。

 でも、焦りはない。いつも通り、油断せずに立ち向かう。これまでの旅と何も変わらない。


「これ、ガエウスの顔、似てるな。さすが王都」


「馬鹿言え。俺はこんな不細工じゃねえ」


 冗談を言ってみても、剣呑とし始めた空気は緩まなかった。ガエウスが、歯を剥き出しに笑う。

 ここからまた正念場だ。

 唯一、シエスだけが寝惚け眼のまま、僕らをぼうと眺めて、大きな欠伸をしていた。


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