第120話 鍛冶
「ナシト、どうかな。何か分かるといいんだけど」
目の前のナシトに声をかける。ナシトはこちらに背を向けたまま、じっとシエスの眼を覗き込んで動かない。シエスはただ立ち尽くして、心なしか表情は強張っていた。
朝食の後で、僕ら五人は仮の宿の居間に集まっていた。珍しくガエウスも酒場から戻ってきている。入り口近くの壁によりかかって、退屈そうに欠伸をしている。そういえば、ケルキダ=デェダとの戦闘前には地底都市が楽しみだとか何とか言っていたはずなのに。意外にシエスが心配なのかもしれない。まあ、茶化してしまうと間違い無く僕に殴りかかってくるだろうから、何も言わずにおく。
「……」
ナシトも何も言わない。あの黒々とした瞳に覗き込まれて、シエスは大丈夫だろうか。何を考えているのか未だによく分からない眼。僕はナシトのそれから、明確な意思はおろか、感情の揺らぎさえほとんど感じ取れたことがない。あのメロウムだって、大半が演技だとしてもナシトよりは分かりやすく嗤っていた。
ただ、眼から感情一つ読み取れなくても、彼がシエスを雑に扱うことは決してない。そのことはもう、十分に分かっていた。
しばらく待つと、ナシトがシエスから視線を外して、振り返った。真っ黒のローブを翻しながら、僕を見据えた瞳は案の定、ぴくりとも揺れずにいつも通りだった。
「分からん」
いつもの陰鬱な声。ナシトにも分からないなら打つ手は無い。少しばかり気が重くなる。けれど、できることは悪あがきでも全て試しておくべきだ。僕は少しでも手がかりになりそうなことはないか食い下がろうと、口を開きかけて。
「分からんが、あるとすれば、この欠片の仕業だろう」
珍しく、ナシトが自分から言葉を継いだ。
「欠片にも大して変わりは無いが。僅かに、湧き出す魔素が減っている。加えて、外からも魔素を吸っているように見える」
聞きながら、ナシト越しにシエスの首元、『果て』の欠片を見る。欠片は暗い青色をしていた。『赤坑道』で魔導を暴走させてから、ずっと同じ色をしている。
「それが示す意味は、分からん。あの時、欠片はあり得ないほどの魔素を生んでみせた。全て魔手となって消えたが、あれだけの魔素量だ。欠片が変調をきたしても何らおかしくはない。それがシエスの何かを変えた。その程度の推測しかできん」
やはり、原因は欠片なのだろうか。シエスの体内で魔素を生み出し続けるということ以外何一つ分からない『果て』の欠片。本当に『果て』の一部なのかすら定かではない。そんな謎だらけの存在が原因なら、対処法を知っている人なんてこの世にいないだろう。
シエスと目が合う。目を逸らすことはないけれど、普段とは違う頼りなげな眼差し。
シエスを包む憂いを、そう簡単に振り切れないのは分かっている。でも、僕はシエスのふてぶてしい無表情が好きなんだ。僕らを傷付けた負い目も、魔導を使えない絶望も、どうすればシエスから拭ってやれるだろうか。
「ですが、それだと寝るまで魔素が見えていたことと矛盾しませんか? 欠片が悪さをしているのなら、魔導を暴走させた直後に見えなくなっていても、おかしくはないと思うのですが」
僕の横に立っていたルシャが、ナシトに問う。ナシトは眼だけを動かして、ルシャを見た。
「魔素そのものの性質すら、人はそのほとんどを解き明かしていない。魔素を見るという行為自体が、一種の魔導である可能性もある」
「……そう、なのですか?」
「そうした研究もある。欠片が魔素を吸っているなら、シエスの体内で魔素の流れを阻害していることも、あり得るだろう。だが、全て推測だ。信じすぎるな」
ナシトがこれだけ話すのも珍しい。それだけシエスのことを案じている証だろう。そう伝えても、気味悪く笑うだけだろうけど。僕の仲間は、素直じゃない奴ばっかりだ。
「いや。当たりがついただけでも十分だよ。ありがとう、ナシト」
礼を言っても、ナシトは微動だにしなかった。いつもの暗い眼でじっと僕を見ている。
「検証もできない推測など、気休めでしかない。礼はまだとっておけ」
「……気休めだとしても、仮説があるなら、すべきことも探せるさ。ナシトも、一緒に考えてくれるんだろう?」
「……」
ナシトは笑わずに、何も答えなかった。けどきっと、愛弟子を見捨てることなんてしないだろう。彼がどれだけ真剣にシエスへ魔導を教えていたか、僕は知っている。シエスだってナシトのことを頼りにして、心まで信頼している。僕の思い込みではないはずだ。
「……ルシャ。リヌイ、食べられなくて、ごめんなさい」
いつの間にか、シエスが僕の傍ら、ルシャのすぐ前まで寄ってきていた。シエスは朝食にあまり手をつけていなかったな。
「いいんですよ。まだ残してありますから、お腹が空いたらいつでも教えてください。体調はどうですか? 気分は悪くない?」
「……どこも、苦しくはない」
「良かった。……魔素もすぐに元通り、見えるようになりますよ。目が霞むことくらい、誰にでもあるでしょう?」
「……ん。ありがとう、ルシャ」
見上げるシエスに、笑いかけるルシャ。こちらまで気分が軽くなるような、温かい笑みだった。落ち込んだ相手を慰めるのは、僕よりルシャの方がずっと上手そうだな。僕は押し付けてばかりだけれど、ルシャは誰にでも、その傍にそっと寄り添える。
ルシャのおかげで、どこか張りつめていた空気が緩み始めた。今日は一日、パーティとして何かするつもりはない。休みにすることを皆に伝えようとした、一瞬。
ルシャがシエスに尋ねていたこと。
体調。その言葉に、唐突に思い当たるものがあった。
寒気が全身を駆け抜ける。それが顔や声に出ないように、なんとか抑える。恐る恐る口を開く。
「……ナシト。シエスは今、魔素が見えない。魔導を扱えなくなっている。だけど魔素は体内でまだ溢れているんだろう? ……なら、シエスも酔うのかな」
「……」
僕の声は、震えてはいなかったと思う。けれど皆が僕を見ていた。
ナシトはこちらを見つめるばかりで何も返さない。そこで黙るのは止めてくれ。心臓が痛くなりそうだ。
シエスが僕のように魔素酔いする一般人と同じ身体になっているのだとすれば。魔素が無限に湧き出す『果て』の欠片は、シエスを際限なく苦しめるはずだ。もう既にシエスを害し始めているのではないか。恐ろしくなる。
「……酔ってはいない、と思う」
シエスの声には幾らか張りが戻っていた。ルシャのおかげだろうか。
僕を見上げる顔は普段より生気の無い無表情だけれど、血色が悪い訳ではない。無理をしているようにも見えない。単に、朝泣いていた時のように、魔導に拒絶された自分に落ち込んでいるだけだ。魔素に酔ってはいない。
「シエスの体質に変化は無い。見えていないだけだ。少なくとも、今は」
ナシトの言う通りなら、今は大丈夫だろう。そう信じて、早まりかけた鼓動をなんとか抑え込む。大丈夫だ。シエスは僕とは違う。生まれついての魔導師なのだから。
けれど、ナシトが言外に滲ませているように、これからもそうとは限らない。今ようやく、『果て』の欠片の危うさを本当の意味で思い知った気がする。シエスが魔素に強い娘だとしても、今回の変調と同じように、シエスの耐性がある日失われることだってあり得る。いつか魔素の許容量の限界に達して、倒れてしまってもおかしくないんだ。欠片の魔素を吸い続けてなおけろりとしていたシエスの強さに、安心しきっていた。でも僕らは『果て』を相手にしている。油断していいはずがない。
焦りを見せる訳にはいかない。ナシトが話したのと同じように、僕が感じた恐れも、ただの推測だ。信じすぎて、怯えすぎてはいけない。それに、僕が馬鹿みたいに慌ててしまえば、シエスはまた自分のせいだと思い込んで、辛そうな顔をするだろう。励ます立場の僕が一層苦しめてどうする。
背筋を張る。こういう時こそ皆を支えられるように。それくらいの強さなら、僕にだってもう備わっているはずだ。
「なら、いいんだ。シエスにはあの酔った感じを、味わってほしくないからさ」
なんでもないように言ってみせる。ちらとガエウスの顔が見えて、呆れたように笑っている気がしたけれど、無視する。
それから、今日は一日休みにすることを伝えた。ルシャは朝食まわりの家事が少し残っていたのか、台所へと向かっていく。シエスもそれを手伝うようで、その後ろをついていく。ルシャといることで、シエスがいつもの調子を少しでも取り戻せるといい。
ガエウスとナシトは、何も言わずに何処かへ消えていくと思っていたけれど。予想に反して、二人はまだ居間に残っていた。ナシトは先程から一歩も動かずにいて、ガエウスがそれを見据えていた。なぜか、少しだけ真面目な眼差し。
「二人とも、珍しいな。今日は何処にも——」
「ナシトよぉ。相変わらず、訳分からねえ野郎だな、てめえは」
ガエウスが、声に僅かだけ楽しげな調子を滲ませて、けれど普段より真剣にも聞こえるだみ声で、ナシトに言い捨てた。
「何企んでるかは知らねえが、好きにしろよ。てめえは仲間だ。何か考えてンなら、折角だ、面白え冒険にしろよ?」
「……」
ガエウスは壁に寄りかかったまま、笑った。ナシトは彼の方を見もせずに立ったまま、虚空を見つめている。異様な雰囲気。何か、不安になる。
「ガエウス。何のことかな」
「あァ、こっちの話だ。気にすんな。大したことじゃねえ。こいつが訳分からねえことすんのは、いつものことだしな」
いつもの、適当な調子に戻ってそれだけ言うと、ガエウスはひらりと身を翻して、何も告げずに宿を出て行った。気配が遠ざかっていく。向かう先は、酒場だろう。
ガエウスは何を嗅ぎ取ったのだろう。シエスの件について、ナシトが何か隠しているのだろうか。それにしては、気楽な感じでもあった。よく分からない。
ナシトに直接聞いてみようかと、振り返ってみると。ナシトは既に、跡形も無く消え失せていた。
それから、僕はまた少し仮眠を取って、昼過ぎに宿を出た。
カフ=カカフが訪ねてきたからだ。長の屋敷で言っていたように、『赤坑道』で失った僕の鎚について工面してくれるとのことだった。彼の弟が地底都市一番の鍛冶師らしく、しかも鎚を鍛えるのは得意中の得意らしい。本音を言えばもう少し眠りたかったけれど、鼻息荒いカフ=カカフの満面の笑顔を前にして、断る気になれるはずもなかった。
「何かすみません、カフ=カカフ。宿や食材を用意してもらって、その上鎚まで、なんて」
「何を言っとる。街を救った恩人に、とびきりの鎚を打つ。穴掘り、石打ちしか能の無いわしらには、これ以上ない恩返しの機会じゃろがい。礼を言うべきは、わしらじゃて」
カフ=カカフはやたらと元気だった。鍛冶場までの入り組んだ小道を歩きながら、ずっと喋り続けている。僕と同じようにほとんど寝ていないはずなのに、小さな背をひょこひょこと揺らして、楽しげな様子を隠そうともしない。
「それに、もう『カフ』はいらんぞ。共に戦った間柄に、水臭いのは無し、じゃ!」
小道に野太い声が響く。ありがたい提案だった。
旅してばかりの僕らだけれど、行く先々で出会った人と、友となれた時は本当に嬉しい。カフ=カカフ——カカフが、裏表なく真っ直ぐに信頼を向けてくれていることは、その毛むくじゃらで豪快な笑顔を見ればすぐに分かる。
「それなら、僕のこともロージャと呼んでください。王国では、名を崩して呼び合うのが友の証ですから」
「ぬぅ、そういうものか? ならば、そこの娘っ子ふたりはどうなんじゃ?」
一歩前を歩いていたカカフが振り向いて、僕の隣を見る。鍛冶場には、ルシャとシエスもついてきていた。
「私は帝国の生まれなので。残念ながら、王国のような風習はありません。変わらずルシャとお呼びください」
ルシャが答える。いつだったか、「私にも『シエス』のような愛称が欲しかったです」と不満げにつぶやいていたことを思い出す。
カカフは頷いて、次にシエスを見た。目で促している。シエスは人見知りしているのか、僕に半分隠れるようにしながら歩いている。カカフはそんなことなど意にも介さず、じいと彼女を見つめて、外さない。
「……私は、まだ、シェストリア」
「まだ? まだというのは、どういうことじゃい」
観念したように小声で答えたシエス。毛むくじゃらのドワーフはその答えに満足しなかったようで、急に立ち止まって僕らへ迫ってきた。シエスは一層僕の背に深く隠れて、距離を取る。
塞ぎ込んだ様子は今も変わらない。でも人見知りはいつも通りで、なんだか安心してしまう。
「すみません。シエスは、自分の名に拘りがあるようで。多くの人に愛称で呼ばれるのは、あまり好きではないんです」
「ふむ。そういうことかの」
僕が代わりに答えると、カカフは納得したのかまた歩き出した。気分を害した雰囲気は無さそうで、良かった。
「背丈も似とるが、気難し屋なところもわしらに似とる。シェストリア、お主、良い鍛冶屋に——」
「ならない」
シエスは顔だけ出して、語気も強めに答えた。カカフは振り返らずに、ぬははと笑って返す。めちゃくちゃな会話だけれど、おかげでいつものシエスが少しだけ戻ってきた気がして、思わずカカフに感謝してしまった。
何気ない散歩ややり取りで、シエスの気が紛れればいい。憂いをもたらす悩みそのものと向き合うのはその後でも、前を向けてからでもいいんだ。かつての僕がそうだったように。
「おお、ちょうど着いたわい。ほれ、ここじゃ」
カカフが立ち止まる。その前には、こじんまりとした建物。いや、建物というよりは、土壁をくり抜いて作った洞穴を無理矢理住処にしたような家だった。煙突も何も見当たらないけれど、本当に此処が鍛冶屋なのだろうか。確かに、周囲の似たような家々からは、鉄か石かを鎚で打つ音、炉に風を送る地鳴りのような音が聞こえるけれど。
そんな僕をよそに、カカフが何かを叫んだ。王国語でも帝国語でもない独特の響き。恐らくは彼らの言葉だろう。声に応じるようにして、家の中で気配がひとつ、動いた。
扉すらない家の入り口からのそりと姿を現したのは、カカフよりもさらに毛むくじゃらのドワーフだった。髭はおろか、眉毛まで鬱蒼と生い茂っていて眼が見えない。
「紹介しよう。カフ=クルダ、わしの弟じゃ。地味ななりじゃが、長の鎚も鍛えとる、一丁前の鍛冶師よ。とりわけ鎚を打つならクルダじゃい。わしが保証する」
カカフの紹介にも、カフ=クルダは微動だにしない。なんとなく、正面に立つ僕のことを見ている気がする。
「ああ、クルダは王国語も帝国語も駄目でな。鍛治以外はからきしで、飯も作れん。お主らのことは一応紹介しておいたが、どんな鎚が欲しいかは、中で話すぞ。まあ絵にでもすれば早いじゃろ」
カカフが話している間も、カフ=クルダは僕を見上げていた。ドワーフ相手の挨拶として、どうすれば礼儀を示せるのかは分からないものの、とりあえず見下ろしたままというのも居心地が悪いので、膝を折って地につける。目線を合わせた上で、手を差し出してみる。
「はじめまして。ロジオンといいます。鎚のこと、宜しくお願いします」
通じなくても、挨拶は挨拶だ。そう思って、分かりやすい握手で試してみたけれど、反応は無い。しまったな、カカフに事前にドワーフの流儀を聞いておくべきだった。寝不足だからか、普段に増して頭が回っていない。
僕が勝手に悩み始めたところで、カフ=クルダが唐突に動いた。僕の手をがしりと掴んで、ぶんぶんと縦に振る。握った手は僕よりもさらに節くれ立っていて、手の平は信じられないほど硬かった。
それからすぐに手を離して、そそくさと家の中へ消えていった。膝をついたままぽかんとする僕を、カカフが笑う。
「クルダは照れ屋じゃからのう。あれでやる気は満々じゃから、安心せい」
照れ屋なのか。少なくとも、豪放なカカフとは全く違う性格なのは間違いなさそうだ。ドワーフにもいろんな人がいるな。
「ほれ、お主らも中に入れ。日が暮れる前に取りかかった方がいいじゃろ」
「ええ。今行きます」
カカフは僕らより先に、カフ=クルダの鍛冶場へと入っていった。僕らも行こう。両隣の二人にそう促そうとして。
「ロージャ。ナシトからの預かり物、此処で渡しておきますね」
ルシャが僕の腕を引いて、引き止めた。
「……預かり物?」
「貴方は物に執着がありませんから、忘れているかもとは思っていましたが。ナシトが、鎚にこれを溶かし込め、と」
溶かし込む。何のことだろう。
ルシャは少し困ったように笑うと、小さく何か、発動句をつぶやいた。瞬間、ルシャの手元に白い何かが現れる。
それは、巨大な鳥の羽根だった。純白で、僕の背の高さほどもある。ようやく思い出した。これは、ダンジョンで神獣——神の鳥と出会った時の。
「アルコノースの羽根。あの方の言葉が正しければ、これで魔を打ち破る鎚を創り出せるはずで——」
ルシャは言い切ることができなかった。僕らの元へ飛び込んでくる気配に気付いたからだ。僕とルシャのすぐ目の前に、跳ねるように駆け出してきたのは、鍛冶場に入っていったはずのカフ=クルダだった。
彼はルシャの足元で飛び跳ねて、羽根に触れようとしているが届かない。それでも何度も飛び跳ねて、必死に羽根に縋りつこうとしている。
「……驚いた。お主、今、アルコノースと言ったかの」
鍛冶場からはカカフまで出てきていた。彼だけではない。周囲に立ち並ぶ洞窟じみた家々から、わらわらと土小人たちが姿を現して、僕らの方へ群がってくる。皆、一心にルシャの手元を見つめている。
何が何だか分からない。とりあえず、ドワーフの波に埋もれて潰れてしまいかねないシエスを、僕のすぐ傍へ引き寄せておく。
「カカフ。これは、一体……?」
「神獣の遺産。まさか、生きているうちにこの眼で拝む日がこようとは」
カカフの言葉に呼応するように、僕らを囲んだドワーフたちが次々と、感嘆の呻きを漏らした。
「ロージャよ。まさかお主が、我らの夢の担い手じゃったとは!」
カカフまでもが感極まったように、歓喜の声をあげている。僕ら三人は無数の毛むくじゃらに囲まれて身動きもとれなくなりつつあって、ルシャも僕も困惑しきりだ。シエスも心なしか、普段より強く僕にしがみついている。
「ろ、ロージャ。これ、どうしましょう」
困りきったルシャが、僕に示すように神獣の羽根を少し、掲げた。その瞬間、ドワーフたちの雄叫びが轟く。ルシャはびくりとして、少し泣きそうになっていた。
そんな僕らの混乱など知る由もなく、カカフは一際大きな声で、叫んでみせた。
「皆の衆! ついに我ら土の子が、神獣の武具を先祖に示す日が、やってきたぞっ!」
耳をつんざく歓声が爆発する。土小人たちが跳ね回り、大地が揺れる。
そんな中でも、カフ=クルダだけはただ一人、羽根に触れようと一心不乱に飛び跳ね続けて、なお届いていなかった。
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